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41.思いを交わせる所 ②

ペルシオンから30分程歩いて、ニオングレイラン広場までやってきた。


 そこは中央学園エリアの心臓部だ。広場の真ん中には、かつてこの地を統治していたアズオンツゥマンニオングレイ帝国の初代皇帝―ニオングレイ大帝の石像が聳え立っている。彼はこの地の周辺で動乱を起こしたハルオーズ人を追い出し、国を築いた英雄だ。彼は飛竜に乗り、聖剣を高く突き上げている。雄々しい戦いの像だ。その下には噴水と美しい花壇が広がっている。心苗たちが歩く道には古の石板が敷いてあり、学園の歴史を感じることができる。


 この広場は、昼夜問わず人が行き来しており、閑散とする暇がなかった。広場を臨むレストランやカフェバーは多かったが、テーブルは店の外まで並べられている。


 トオルは広場の南にある、指定の食堂に入った。逆三角形の頂点を取るように、入り口は三箇所。中に入ると、入り口と入り口の間が注文カウンターになっている。三つのカウンターでは別々のお店のものが買えるようになっており、それぞれに列ができているのが見えた。カウンターと入り口に囲まれるように席があり、二階と三階も席になっている。天井は高く吹き抜けになったこの食堂は、900もの席がすでにほぼ満席だった。


 トオルは迷子になったように席と席の間をうろついていた。


「トオルくん、こっち!」


 どんなに食堂が賑やかでも、トオルの聴力は依織の声を聞き逃さなかった。声のした方を振り返ると、依織が手を挙げている。テーブルには穣治、美鈴、大輝も同席していた。ちょうど食堂の中央辺りの席だ。近くまで歩いていくと、穣治が相変わらずの笑顔で声を上げた。


「よう、少年。川にダイブして、海まで流されたのか?」


「金田さんじゃあるまいし」


 ニヤニヤしている穣治に、依織は少しムッとした顔で応じた。


「おいおい、どういう意味だよ!?」


と、穣治は言ったが、依織はまだ何か不満そうだ。


「トオルくんはステルススキルが得意なロボットオタクなんです!そんな目立つ真似しませんから」


「おいおい、フォローになってないぞ」

 

つい言い返してしまったが、依織は穣治に言われて自分の失言に気付き、一瞬で顔が熱くなった。


「そもそも変なことを言ったのは金田さんじゃないですか!意地悪!」


依織が穣治に言い返すと、大人しくしていた美鈴がトオルの方を見て言った。


「勉強熱心なのは素晴らしいことですが、食事も大切ですよ?」


 大輝はずっと口をもぐもぐさせて黙っている。


 トオルは逡巡した後、小さい声で言った。


「ごめん。図書館で機元のことを調べてたら、つい夢中になって……」


「やっぱりね」


 依織の口調は、責めるようなものではなかった。穣治も笑って頷いている。


「ハハ、さすがはロボットオタクだな。だが、脳を使うには食事が必須だぜ?さ、注文してきな」


「うん……」とトオルは申し訳なさげに頷いた。


 三箇所あるカウンターを順に見ていくと、地球界の心苗がいることを配慮してか、万国の料理が揃っていた。ヒイズル州の学食で定番の料理もある。見たこともないような食材、料理もたくさんあった。

 トオルは「デカいハンバーグを添えたオムライスのスペシャル定食」を注文する。前の心苗を見て支払い方法を学び、マスタープロテタスをセンサー装置にタッチさせるようだった。食堂の音声案内はお婆さんの声だ。


<お食事の後は、評価やコメントを送るのを忘れないよう、ご注意くださいませ>


 しわがれた声を聞いてから、トオルはスキャン後の画面を確認した。普通の飲食ではポイントは減らないようだ。


 マスタープロテタスをポケットに入れ、テーブルに戻った。


「トオルくん、そっちのクラスはどう?」


「多分そっちも同じような空気なんじゃないか?個性的で、価値観の相違もかなりある。ぼくたちが地球界で知っている教室とは全然違う空気だ。授業中も賑やかだった」


 ホームルームだけでなく、選修科目の授業でも、意見や質問を堂々と発する心苗が多かった。教師の声と板書の音だけが響く静かな授業とは全く違う。それに、基礎の授業だというのに、初回で先生に自分の作品を見せ、評価を求める心苗もいた。彼らの作った作品には、トオルの発想では遥かに及ばないものも多々あった。


 多少は物作りに自信があったトオルだが、他の心苗のものを見ていると、自分のは知育玩具レベルだと、初日にしてすでに挫折感すら味わった。先生に見せる自信はもちろん、何か質問をするのも恥ずかしくなり、図書館で自習する方が向いていると思った。


「そうなんだ。トオルくんの担任はどんな人だった?」


「厳しいように見えて、意外と心の広い人だと思う」


「良いなぁ。こっちは何だか感情が薄くて、教え方も理解できなかった。結局、錬晶球の修行は得意なクラスメイトに教わったよ」


「マスタープロテタスの使い方と、ポイントの説明は聞いた?」


「ええ~?マスタープロテタスは配られたけど、何の説明もなかったよ。何とか自力で使い方を模索してるとこ。APポイントとEPポイントのことも、さっき金田さんに教えてもらったし……。トオルくんの先生は、丁寧な人なんだね」


 依織は羨ましそうにしていたが、穣治は違う見方をしていた。


「うむ、それはそれだな。だが、俺は内穂さんの先生の教え方も、悪くないと思うぜ。案外その方が、自分で問題を解決する力が育つかもしれん。対等な者同士で教え合えば、教師から教わるのと視点も違っていて、かえって分かりやすい時もある」


「そうかなぁ……。錬晶球の修行法の説明が終わったら、後は自習って言われて、教室から出て行っちゃったけどなぁ。それで、授業が終わっても戻ってこなかったよ」


「それは最大の自由ってことなんだろうか。7組も自由退席だった。白河さんたちは?」


「私の担任の先生は、左門さんのところと似ているかもしれません。でも……ちょっと言葉遣いが個性的で、まだ慣れません。大輝くんは?」


「会ってない。教室に人数分のマスタープロテタスが置かれていて、適当なメッセージだけ残ってた。錬晶球も自力で試して、できなければ今度教えるって」


「えっ?それはもう、授業放棄じゃない?」


 真面目な依織には、教員が不在であるということが理解できなかった。


「ま、どの先生も、鮮やかな心苗たちの自由意志を、それぞれの方法で尊重しているのかもなぁ。そうでもしないと、学級崩壊するかもしれん」


――そうか、ここではあれが、普通に授業をするための対応なのか。


「分からないなら俺に聞いて良いぞ?どうやらこの学園では、教諭から学べるとは限らないしな、ハッハッハ」


「依織さんのクラスはどうだ?」


「それが……ちょっとトラブルがあって、目立っちゃった……」


依織は頬を赤くした。


「どういうこと?」


「依織お姉さんは、同級生の子を庇って、暴力に抗ったんです」


 先に聞いていたらしい美鈴が代弁し、トオルは不思議そうに依織を見た。


「そんなことがあったのか?」


「まぁ……。クラスメイトの一人が、不注意でハルオーズ人の人にぶつかったの。その人、くすぐったいところに触れてしまったとかで、急に凶暴になっちゃって。それで、私が自分の作った剣で食い止めてたら、ちょうどパトロールしていた先輩たちが状況を察してくれたの。それで……クラスメイトたちから、女武神ヴァルキュリティヤの卵だとか呼ばれて……。そんなつもりないのにね」


 怖くても、弱い者がいじめられているのを黙って見ていられないタイプなのだろう。トオルが飛空船でキアーラに押し倒され、絶体絶命という時に助けてくれたのは、依織と穣治だった。


「さすが依織さん、初日から人気者になるなんて。良かったじゃないか」


「そんなつもりじゃなかったんだけどね」


 話していると、トオルの頼んだ定食が機元に運ばれてきた。


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