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37.基礎中の基礎 ②

「それでは次に、PEポイントだ。これは、全てのエンターテインメント行為に関わるポイントだ。今、君たちには3000ポイントが与えられている。PEポイントは他種族でいう、貨幣と同じだ。そして、APポイントを両替し、増やすことができる。だが、PEポイントからAPポイントへの変換はできない、不可逆なものだ」


 黒板に映されたグラフには二つの矢印が記され、APからPE→○、PEからAP→×と端的に書かれている。


「PEポイントの基本的な使い方は贈与だ。個人、組織、団体、国などに対し、贈与が可能だ。自分の名前で送るか、匿名にするかは送る者が決められる。先ほどの説明と矛盾するようだが、君たち個人から贈与されたPEポイントは、名声や報酬という実績として、相手のAPポイントとして加算される」


 トオルは聞きながら、PEポイントのページを開く。


――このポイント、誰にでも贈ることができるのか。それなら、中央病院の主治ルーラーに贈りたい。医療行為は無償と言われたが、お礼を送らないと。


  トオルは贈与先のリサーチ欄に「イトマーラ中央病院 ヘスティネ」と入れて検索した。すぐにヘスティネの画像が検出される。トオルは誰からの贈与か分かるよう、自分の名前を記入し、2000ポイントを贈った。


 ゴルジェーエヴィチは次々に説明される内容が理解できないようで、頭を撫でながらもう一方の手で挙手した。


「何でPEポイントはAPポイントにならないんだ?」


 オリヴィアは目をやや細くして、ゴルジェーエヴィチを睨んだ。


「PEポイントはギャンブルのチップやブラックマーケットでの違法売買に使われる。さらに、裏金のような形でPEポイントが流出し、私腹を肥やそうとする連中もいる。自分のPEポイントがAPポイントに変換できるとなると、真面目に実績を積む意味がなくなってしまう。ギャンブルで稼いだポイントと、血や汗を流して積んだ実績が同じでは、割に合わないだろう?」


オリヴィアは不機嫌そうに一度目を閉じると、強く見開いて続けた。


「中には一般市民レベルのAPポイントで生活し、PEポイントさえあれば満足という怠惰な生き方を好む者もいるが、それではセントフェラストへ入学した意味がないと私は思う」


 ゴルジェーエヴィチが、少しだけ理解できたという顔でオリヴィアに頷いた。


「APポイント、ならびにPEポイントの説明は以上だ。残り時間で何か質問をしたい者はいないか?」


 オリヴィアの言葉に、すっと手が挙がる。ミントグリーンの長髪を一本の三つ編みにした女の子だった。


「先生、セントフェラストに通う心苗には命のリスクが伴うと、ルームメイトから伺いました。私たち一年生は自分を守るすべが少ないと思うのですが、リスクを下げる方法はありますか?」


「そうだな。心苗条例の中には身元安全条例というものがある。ここには、「闘競管理部の認定外の場所で、一人でバトルを受けないこと」と書かれている。敵を知り、己を知るという諺があるが、自分の実力を評価できていれば、気軽に挑発に乗ったり、無理な戦いに手を伸ばすことはないだろう」


 オリヴィアはさらに説明を続けた。


「なお、国や学園、公の組織による認可がされていない闘競イベントに参加しないこと。また、人けのないエリアには立ち入らないこと。時刻により状況が変わるから、マスタープロテタスで調べなさい」


 不安げな表情で何度も頷いている心苗がいる一方で、実力に自信のある心苗は鼻で笑っていた。


「他にも、権限のないエリアや結界が張られている施設には入らないこと。悪意や不審な言動に反応し、防犯聖霊が君たちを排除する恐れがある。普通は退去勧告が先にあるはずだが、聖霊の判断により、排除処置が取られる。その時は我々にも救いようがない。実際、今朝までに、立ち入り禁止場所への侵入により、今年の新入生の13人が命を失ったという情報が私の耳に届いている。命が惜しい者は真似をしないように」


 アトランス界の無情なシステムに、地球界から来た心苗の一部は青ざめた。


 腕にクワガタのような武装を着けた男が挙手した。


「何だ、Mr.エフラート?」


「自分の実力がどの程度のものか試したい時は、どうすればいいんですか?」


「学院には戦闘シミュレーション施設がある。ペルシオンにも設置されているから、まずはこの施設を利用してみなさい。もし心苗同士で力試しをしたい時は、学院指定の場所で行うこと。君たちはまだ一年生だから、自由闘競しか認められていない。ルールについては条例を調べること」


 ケニーも手を挙げた。


「もし突然誰かに喧嘩を売られた時は?」


「基本的には無意味な戦いは避けるべきだということを、まず述べておこう。だが、主張の違いというものは必ずある。挑戦闘競で決着を着けることが望ましいが、納得できなければ宣言闘競の申し込みも可能だ。宣言闘競では、闘競の内容、その理由、勝敗条件を双方が申請し、学園から許可が下りれば、指定された時間・場所で行うことができる。ただ、新入生の場合は経験者同士であってもほとんど許可が下りないだろう」


 緊張感のある教室の空気を破るように、キャロサーの明るい声が響いた。


「ハイハーイ!先生、時間割を見ると、空き時間もたくさんありますが、それはどうしてですかー?」


「空き時間は選修科目を受けることができる。マスタープロテタスで嶺電に繋ぎ、教務部のページから申し込みなさい」


 シャンパンイエローの髪をソバージュにした女が手を挙げた。彼女はホームルームが始まる前、指でクラブの紋様を刻んでいた心苗だ。スモーキーなアイメイクがアンニュイな雰囲気によく似合っている。


「先生、授業は必ず出なければいけませんか?」


「君たちの一部は地球界や連邦国外から来た心苗だ。この世界の基礎を学ぶためにも、なるべく出席することを勧めている。それが後に、選べる依頼を増やすことに繋がるだろう」


 女はつまらなさそうな顔でオリヴィアの答えを聞いていた。座っているのが耐えられないのだろう。


「いいか、セントフェラストで受ける授業、そこで習得する知識やスキルは、あくまでより高いレベルの仕事を受けるためのものだ。もしこの中に多くの実績を積んできた経験者がいれば、授業には出なくても構わない。仕事を受けることで、単位を取得することも可能だ。教室に顔を出すか、依頼を受けるか、時間をどう使うかは、君たち個人に任せている」


 オリヴィアが教卓の画面を触ると、教室の右奥のドアが開いた。


「さあ、これから早速、基礎的な源の修行方法を教える授業を始める。受ける必要のない者は好きにしなさい」


 オリヴィアの声かけに早速、席を立つ心苗がいた。アイアン・エフラートだ。彼の後にも二、三人が退席し、他の心苗たちは互いに顔を見合わせている。他にも、落ち着きのない様子だった者など数人が教室を離れていった。独学の方が自分は伸びると信じている者だけでなく、個人的な理由で去る者もいたが、共通しているのは、経験者だということだ。


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