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36.基礎中の基礎 ①

「以上、まだもらっていない者はいないか?」


 オリヴィアの声だけが響き、教室には未知の水晶札に対する好奇心が満ちている。


「では、どちらの面でも構わないから、三度ノックしてみなさい。それでマスタープロテタスが起動する。源気と反応することで、嶺電が繋がり、一秒で個人データを自動作成できる。反応のない者は手を挙げなさい」


 トオルはオリヴィアの言ったとおり、人差し指の関節で三度、軽く叩いた。マスタープロテタスが起動し、透明の札が光る。一瞬、セントフェラストのエンブレムが現れたが、そのすぐ後に左門トオルという文字が現れた。トオルが名前に触れると、個人情報の画面が開かれる。画面にはクロディスのものと違って、金属のような光り方をする、灰色の球体が映っている。


「クロディスのは五色の抽象画だったのにな。スクリーンセーバーみたいに設定できるのか?」


 トオルはリュークのマスタープロテタスをちらりと見る。トオルのとも、クロディスのとも違って、白とゴールデンイエローのグラデーションになった球体の周りに、フランス語が惑星の輪のように回っている。


 今度はキャロサーのものを覗いた。彼女のものにはピンクの光る玉がいくつも描かれている。設定を探りながら、トオルはどういうことだろうかと思った。


――皆の絵柄は最初から違っている。スクリーンセーバーの設定もできなさそうだ。


 起動についての質問は誰からもあがらず、オリヴィアの説明が続く。


「本日より、君たちはどこへ行くにもこのマスタープロテタスを持つ義務がある。買い物はもちろん、セキュリティー制限のある場所への出入り、取り調べ、公衆機元端や嶺電の使用などの際にも、マスタープロテタスは提示する必要がある」


 オリヴィアの話を聞きながら、トオルの周りの心苗たちはマスタープロテタスを起動するために、少しざわついている。

 トオルもマスタープロテタスにどんな機能があるか、画面を操作していた。


「今はまだ名前しかないが、これはいずれ、君たちの卒業証書のようになるだろう。在学中に身につけたスキル、積み重ねた実績、その全てがこの一枚の札に記録される。これがゴミとなるか宝となるかは、これからの君たち次第だ」


 オリヴィアが、自分の生徒たち全員に目を配りながら続けた。


「心苗であろうが、英雄であろうが、身分に関係なく、ウィルターは誰でもこのマスタープロテタスを持っている。卒業後も、君たちの命が尽きるその時まで、この水晶札をしっかりと管理すること。第二の心臓だと思って、くれぐれも大切に扱い、決して誰にも渡さないようにしなさい」


 そこまで聞くと、ニーアが手を挙げた。


「先生、先輩から聞いたことがあるんですが、生徒会メンバーや『尖兵』たちから、マスタープロテタスの回収を依頼されることがあるんでしょうか?」


「うむ。普通の取り調べの場合には、提示の義務が課される。回収が請求されるのは、重大なルール違反の場合や、特殊な依頼を受ける時に、ダイラウヌス機関によって一時的に保管する場合に限る。基本的にマスタープロテタスを失うことは、退学を意味すると思って良い。大切に扱いなさい」


 リュークも手を挙げた。


「先生、回収する相手の身分が確認できない場合は、どう判断すれば良いでしょうか?」


「そうだな、この世界にはマスタープロテタスを狙う連中もいる。君たちはそういう連中から、札を守り抜く義務がある。もし国や公認の機関、組織など、独立捜査権限のある者であれば必ず、自らの所属エンブレムを提示するはずだから、そこで判断しなさい。……このようにだ」


 オリヴィアは自分のマスタープロテタスを取り出すと、札の角に二回触れた。すると、札に描かれた絵が10倍の大きさとなって投影され、セントフェラスト教諭のエンブレムが現れる。エンブレムの枠は、アイスブルーの結晶石でできており、紋様の真ん中や上部には、知識と賢者を意味する冠が付いていた。


 オリヴィアがもう一度、同じ角に触れると、エンブレムは一瞬で消えた。


「もちろん例外はあるが、君たちがもし、自分には何の罪もないと思った時は、提示だけで十分だ。大人しく取り調べに協力する姿勢があれば、マスタープロテタスを渡さずに済むだろう。回収を要請された時というのは、本人に罪の意識がある時、もしくは第三者から見て、学園に通うことは不適切であると見なされた時だ。その時には、抵抗せずに渡しなさい。そうすれば、それ以上の罪を背負うことはないだろう」


 炭色の手の男、アイアン・エフラートが手を挙げた。


「その罪ってのが、誰かに嵌められてた場合は、どうすれば良い?」


「退学命令がなければ、普通は同行の要請が出される。その場合、選択肢は二つだ。一つ目は大人しく同行し、しばらくは不自由の身になること。この時は常に真意聖霊がつくので、冤罪が判明次第、かならず釈放される。もう一つは、何もかもが厳しい状況であるなら、誰も追いつけないくらい、遠くへ逃げろ。いつかきっと真相は解かれると信じなさい。その場合は、マスタープロテタスを肌身離さず持っていて良い。札は形を変えることも可能だから、その時の自分が一番保管しやすい形で持っておけ」


 オリヴィアは水晶札を手に持ったまま、ペンダントの宝石に変形させた。


「今言ったことは、心苗条例として正式に定められている。他にもたくさんの条例があるから、ルールを犯さないよう、しっかりと読んでおけ。問題児にならないよう、各自が気を付けなさい。以上、マスタープロテタスの使用と保管について、他に質問のある者はいないか?」


 早い者は、もう条例を出してきて読み始めている。

 しばらく待っても誰も手を挙げなかったため、オリヴィアは黒板に何か記しはじめた。


「では次に、APポイントとPEポイントについて説明する。マスタープロテタス、第二ページを開きなさい」


 指示に従い、心苗たちがマスタープロテタスの操作を始めるのを確認して、オリヴィアは説明を続ける。


「まずはAPポイントについて。これはいわば、「実績ポイント」だ。今後、依頼を受けた時に報酬としてもらったり、校内の各イベントで勝った時にもらう」


「今、君たちには等しく、10000APポイントが与えられている。これから先、君たちが実績により得たポイントについては集計され、月に一度、反映される。このポイントは買い物レベルの判断基準になる。より多くの実績を積んだ者は、よりレアな資源や材料、高いレベルの商品やサービスの消費が可能となる」


 黒板を見れば、消費レベルには12段階があるようだ。段階を示す色の説明がグラフで示されている。


「入学前に学園内で買い物をした者は、棚にシールが貼られているのに気付いたはずだ。それがこの、12段階の消費レベルを表している。レベルに達した者はそれを買うことができる」


 トオルは顎に手を添えて、新世界のルールを頭に叩きこんでいく。周囲の心苗たちも真面目に聞いているようだ。


「そして、欲しいものを買ったり、サービスを受けた時には、ポイントの寄付を忘れないように。寄付をしなかったり、受けたサービスよりも少ない寄付しか行わなかったりすることは、泥棒と同じだ。信用のない消費者にならないよう、注意しなさい」


 ケニーが手を挙げた。


「先生、10000ポイントなんて、買い物したらすぐになくなりませんか?」


「消費レベルは月ごとの判定だから、一時的な消費で変動することはない。良いか、君たち。良い商売は、消費者が商品に適正な価値を与えることで巡る。君たちが適切なポイントの寄付をしなければ、販売元は泣くことになるぞ。そして君たちがより良い消費を求めるなら、しっかりと実績を積むことだ」


 今度はセレスティアが手を挙げた。


「先生、もしも判定時にAPポイントの保有がなければ、何も消費できないということかしら?」


「一般市民と同等の消費は可能だが、APポイントが0というのは普通ありえない。あるとすれば、重罪を犯すなど、何らかのルール違反により罰税が課された時だ。もしくは何かのイベントで勝負に負け、相手との条件で0になる可能性はある。その場合は、レベル消費は不可だ」


 ニーアは気が重いというような顔をして、手を挙げた。


「その場合、救済はないんでしょうか?」


「そうだな……。公機関から与えられた任務や、長期的な依頼については月に一度しか精算されない。だが、個人から受けた依頼については、即時ポイントをもらうことが可能だ。とはいえ、個人からの依頼は公機関に管理されているわけではない。任務完了後に報酬がもらえないトラブルが起きるリスクもあるから、その仕事を受けるかどうかは当事者の判断だ」


 ニーアが硬い笑みを浮かべている。


「先生、グラフを見ると……APポイントを稼ぐのはとても難しそうに見えるんですが……?」


「そうでもない。掃除などの環境整備、落とし物を拾って届けること、老人の介助や子どもの手助け。そういった、目に見えないような行動、本人ですら気付いていないような言動でも、評価は常に行われている」


 不遜な態度で聞いていた春斗が声を上げた。


「一年でも大金を稼ぎたい時は?」


「Mr.イシイ、質問する時は挙手しなさい」


 片方の手は首を支えたままで、春斗は反対の手を気だるげに挙げた。


「これで答えてもらえますかぁ?」


 オリヴィアは個人の性格を尊重し、それ以上は何も言わず、春斗の質問に答える。


「学校や国の機関から与えられた任務を受けることが一番だ。だが、君たちはまだ一年だからな。任務実行中の先輩、特に『尖兵』や、『源将尖兵』に協力することも良いだろう」


「なるほど、正しく、実力至上な世界だな」


 春斗は納得したように呟き、オリヴィアは説明を続ける。


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