夏休みの謎解き冒険談
隆は立ち上がると
「一応、島津家から厳しく言われているからな」
とウィンクするとリビングを後にした。
春彦は「お願いします」と答え、オムライスを入れた食器を洗った。
春彦の部屋はそのままだったが、直彦の両親の絵…つまり乙女シリーズの絵が飾られ、コンピューターのリファレンスがところどころ抜けていた。
春彦は部屋に入りベッドに座ると後から入ってきた直彦に
「そう言えば、允華さんたちは?」
俺がいても来てくれていいけど
と告げた。
直彦は頷いて
「ああ、お前がいる間は俺の部屋を作業場にしてもらうことにした」
俺はリビングでもどこでも構わないからな
と答えた。
「允華君はお前に感想聞くのを楽しみにしている」
春彦は頷いて
「俺も楽しみ」
今月の推理小説も面白かった
と言い
「直兄の推理小説とは全然違うな」
俺はどっちも好きだけど
と告げた。
直彦は微笑むと
「そう言ってもらうと助かる」
と答えた。
春彦は暫く沈黙を守ってやがて
「直兄…俺が大学出て社会人になったら島津に名前を変える」
それまでは夏月でいたい
と告げた。
直彦は頷いて
「そうか、俺もお前が夏月の間は夏月でいる」
それにお前が何処にいても何と言う苗字になっても
「俺の弟であることは分からないからな」
忘れるな
と告げた。
春彦は「ん」と答え
「直兄も俺の兄さんだから」
と告げた。
「直兄が何処にいても苗字が変わってもずっとずっと」
直彦は微笑み
「当り前だ」
と答えた。
その後ろから隆が
「兄弟水入らずなところ悪いな」
と言い
「今、こっちのボディーガードと武藤譲氏と話をして明日、海埜探偵事務所の方へ春彦君が行くのを連絡しておいた」
と告げた。
OKということである。
春彦は頷いて
「ありがとうございます」
と答えた。
隆は笑顔で
「ま、アルバイト先を見ておきたい気持ちは分かるからな」
ただ向こうも春彦君が来るのを待っていたようだ
「なにかあるのかもな」
と告げた。
正に、その通りであった。
その翌日の朝に春彦と直彦と隆は車で海埜探偵事務所へと出向いた。
海埜七海が一人で切り盛りしているようなので雑居ビルの小さなオフィスかと思っていたらそうではなかった。
中目黒と代官山の間にある年金事務所に隣接した場所にあった。
二階建ての研究所のような建物であった。
敷地内に入り駐車場から春彦と直彦は降り立つと同時に目を見開いた。
直彦はフムッと
「探偵事務所…と言う感じではないな」
と呟いた。
春彦も頷いて
「俺、雑居ビルの十畳くらいの部屋かと思ってた」
と答えた。
隆は笑いながら車から降りると
「海埜家のご令嬢だからな」
と言い、直彦を見ると
「俺や白露と同系統だ」
もっとも海埜家ではなく彼女の母方だがな
「調べたらぶち当たった」
とコソッと囁いた。
直彦は驚いて隆を見た。
隆は肩を竦め
「奇縁だ」
と告げた。
その時、建物の扉が開き中から三人の女性が姿を見せた。
海埜七海と長坂真理子と港川絢華であった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




