特別家系の公認会計士
伽羅は大きく頷き
「二人とも男だったけど…」
と小さく呟いた。
春彦は目を細めて
「伽羅、美人でなくても犯行は止めないとな」
と突っ込んだ。
全くである。
伽羅は小さくぺコンと頭を下げると
「はい」
と答えた。
春彦は手にしていた携帯を伽羅に渡すと
「これに被害者と加害者の二人と部屋の様子を詳しく」
と告げた。
伽羅は頷くと指先を動かした。
「そう言えば、部屋の窓からお城が見えた」
春彦は驚いたように目を向け
「それはすごい手掛かりになるから出来るだけ詳しく描いてくれ」
と告げた。
伽羅は頷いた。
被害者は眼鏡を掛けたスーツ姿の凛とした整った容貌の男性であった。
そして、菱形の模様が並ぶバッチをつけていたのである。
春彦は伽羅から絵を受け取ると
「このバッチ…何かの会社のバッチかな」
と呟いて、パソコンを立ち上げると調べた。
が、その結果は意外なモノであった。
春彦は目を見開くと
「公認会計士のバッチだ」
と呟いた。
伽羅は覗き込み
「ってことは、この人…公認会計士なんだ」
つまり、公認会計士の事務所?
と告げた。
春彦は頷いて
「だよな」
弁護士バッチとかは知ってたけど公認会計士のバッチ初めてみた
とぼやいた。
伽羅は笑って
「俺も」
と答えた。
春彦は腕を組むと
「ってことは、企業の会計監査のトラブルっていうのもあるかもしれないな」
と呟き
「あと、この城だよな」
と伽羅が描いた窓の向こうの城を見た。
緑の稜線の上に小さく平べったい天守が見えているのだ。
春彦はパソコンで『天守 城』で検索した。
伽羅が描いた窓の風景に写り込んでいた城は春彦が良くイメージする天守閣の姿ではなかった。
春彦が持つ天守閣のイメージは独立式層塔型でシルエットにしたら二等辺三角形であった。
が、伽羅の描いた天守閣は台形のシルエットであった。
春彦は検索出てきた城の写真を見ながら
「…色々あるんだな」
と呟き、不意に手を止めた。
伽羅も春彦が出したホームページの写真を見て
「あ、こんな感じだ」
と指を差した。
春彦はホームページの見出しを見ると
「松山城だ」
と呟いた。
四国の愛媛県にある松山城である。
春彦は伽羅の描いた絵を見比べながら
「この角度から見える場所を先ず探すところからだな」
あと動くとしても武藤さんとの調整があるから
「それまではこの人を探してもらって護衛をつけるしかないか」
と呟いた。
何時、その時がくるか分からない。
今日か
明日か。
一か月後か。
本当なら飛んでいきたいのだが…そう言うわけにはいかない。
己の瞬発的な動きで今は兄の直彦にも、そして、母親の更紗や春馬にも迷惑が掛かるのだ。
迂闊には動けなかった。
「勇ちゃんにも怒られたし」
と春彦は呟き、時計を見ると
「もう5時か」
と言い、伽羅を見た。
「どうする?仮眠取る?」
伽羅は首を振ると
「部屋に戻って学校へ行く準備する」
と告げた。
「春彦は大丈夫?」
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




