特別家系の公認会計士
伽羅の絵の師匠である花村巴瑞季には既に連絡が回っていたらしく伽羅が報告すると
「知っていますよ~良かったですね~」
僕も誇らしいですよ~
と喜んだ。
「次の日曜日にはお祝いしないと」
伽羅は慌てて
「いえいえ、俺の方がお礼をしないとなので」
と答えた。
巴瑞季は「いやいや、ここは僕の気持ちを受け取ってくださいね~」と返したのである。
春彦も夜の勉強時間の時に巴瑞季の弟の巳瑞季に報告すると
「ああ、兄から聞いてる」
おめでとう
「次の祝いは春彦君の合格だな」
と眼鏡をチャキッと上げてビシッと告げられた。
春彦はピキーンと力を入れて頷くと
「頑張ります」
と答えた。
隣りの部屋では伽羅が美大受験のためのデッサン練習を行っている。
三年になってからは学校が終わると二人それぞれ違う夜を送るようになっていた。
一歩ずつだが自らが望む未来へと進んでいたのである。
その日の夜。
春彦の勉強が終わると伽羅もデッサン練習を終えて二人で少し話をするとそれぞれの部屋で眠りについた。
伽羅は深い深い夢の中で見知らぬ光景をぼんやりと見つめていたのである。
それはここ暫く見ていなかった夢であった。
窓が一つの小さなオフィスの中に伽羅は立っていた。
机が窓際に一つ。
そして、両側の壁にはファイルや本が詰まった棚があり、机を挟んでパイプ椅子が二つ置かれているだけのこじんまりとしたオフィスであった。
机の椅子には30代から40代くらいの男性が座っており懸命に書類を書いていた。
陽光は南天からではなく西に傾いて射しこみ足元に長い影を作っていた。
そう部屋に一つだけある窓に浮かんだ光景は夕刻を知らせる金色の町であった。
伽羅はそっと近寄り覗き込み、背後で音がしたと思うと振り向いて目を見開いた。
警棒を手にした男が飛び込んできて行き成り振り上げたのである。
「お前が!!」
そして、それが振り下ろされたのは「あ」という言葉も出ないほど躊躇のないものであった。
伽羅はガバッと身体を起こすと
「こわっ、久しぶりにこわっ」
とドックンドックンと音を立てて響く心音に胸を抑えた。
伽羅は枕元にある携帯を手にすると春彦に電話を入れた。
春彦は夜明け前の午前4時に響いた軽快な着信音に目を開けるとモソモソと手を伸ばして携帯を手にした。
「伽羅だ」
もしかして
そう呟いて応答ボタンを押した。
「もしもし、伽羅?」
夢見た?
「めっちゃ久しぶりな気がする」
伽羅は頷いて
「うん、俺も久しぶりだから春彦にとっても久しぶりだと思う」
と答えた。
春彦は身体を起こして
「来る?」
と聞いた。
伽羅は即答で
「いく」
まだ火曜日なのにごめん
というとベッドから降りて春彦の部屋へと向かった。
春彦もベッドから降りると部屋の明かりをつけて小さく欠伸を漏らした。
未だ外は深い闇が支配している。
後数十分ほどで夜明けだというのに闇はこの時間が一番深いのだ。
伽羅は戸を開けると
「週初めからごめんなぁ、春彦」
と謝りながら中へと入った。
春彦は首を振ると
「気にしなくて良いから」
俺にも必要な夢だからな
と答えた。
「それで、どんな夢だったんだ?」
伽羅は思い出しながら
「部屋は凄く狭いオフィスって感じで窓際に机が一つだけあって向かい合うようにパイプ椅子が二つあって…机の椅子には30代から40代くらいの男の人が座って書類を書いてた」
と告げた。
春彦は頷くと
「それで?」
と先を促した。
伽羅は頷き返し
「うん、それで扉が突然開いて警棒を持った男の人が入ってきて振り上げてガツンって」
おおお、こわっ
「大怪我で済めばいいけど…ヤバかった」
と震えた。
春彦は唇に指先を当てると思案しながら
「そのオフィスらしい部屋が何処にあるかと、その殴られる男の人と警棒を持った犯人を捜し出さないとだな」
何故、その男性を犯人が襲ったか
「そこを突き止めて解決しないと」
と告げた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




