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呪文を発した瞬間、空気がキュッと張り詰めるのが分かった。風が少し強くなり、私の髪がふわりと靡く。
何だろう……。一気に自分に力が湧いてくる気がする。自然が私に集中しているような感覚になる。
力がみなぎり、今なら何でもできそうだ。……これが魔力?
空気がとても煌めいて見える。ついに私、目がおかしくなったのかな。
そんなことを考えながら、私は自分の願いを声に発した。
「私をルミアーナ家に連れて行って」
そう言い終えると、嵐のような強い風が吹き私を包み込んだ。そしてその瞬間、目の前が真っ暗になった。
数秒間、視界を奪われた後、視界に入ってきた景色は大きな重厚で立派な屋敷だった。
……学校じゃない、ルミアーナ家? こんな一瞬で移動できるものなんだ。
「酔いもないし、体に異変もない……。これが魔法……」
自分の身体を軽く一瞥し、身体が変わっていないことを確認した。
これは確かに怖い力だ。悪用したら一瞬で世界を支配できるかもしれない。……魔法を使うのに代償がなければ、の話だけど。
いっそのこと私の記憶を全ての人から消したら、死刑されないんじゃ……。いや、でも忘れられるってかなりきつい。
頭の中でぐるぐるとそんなことを思い巡らせながら足を進めた。
整えられた庭園に人が数人いるのが見えた。私の存在にはまだ気付かれていないみたい。少し会話して情報収集すてみようかな……。いや、今バレたらまずいか。こっそり侵入する方が良い。
「おねえちゃん!?」
いきなり幼い声が私の耳で爆発音のように響いた。
「へ?」
私は声のした方に視線を向ける。キラキラした薄い緑色の瞳が私をじっと見つめていた。
……ウルグ? どうしてリマの弟がここにいるの?
「わぁ! やっぱりおねえちゃんだ!」
そう言って、無邪気に叫ぶ彼の様子に焦る。
「シィ――」
私は人差し指を口元に押さえながらウルグを見つめる。ウルグは不思議そうな表情をしつつもちゃんと口を閉じた。
「良い子ね」
軽くウルグの頭を撫でながら小さな声で呟いた。
ウルグがここにいるってことはカミンスキー家の旦那がここにいるってこと……? まさかカミンスキー家とルミアーナ家が繋がっているとは想像していたなかったな。
「おねえちゃんはここで何してるの?」
ウルグが私に合わせて小さな声でそう聞いた。
「少し冒険をしようと思って」
「ぼうけん!? 僕もしたい!」
私の言葉に目を輝かせる。五歳の少年に冒険というワードを言うべきでなかったと彼の様子を見て少し後悔した。
「ウルグ、この冒険は少し危険だから」
「じゃあ、僕がおねえちゃんを守るよ!」
私の言葉を被せるように彼は声を張る。その声に反応して庭園にいた人達が私達の方に目を向ける。
まずい、このままじゃ、完全に見つかってしまう。
私は彼を抱えて、近くの木に身を潜めた。彼らの話し声が少しずつ近づいてくるのが分かる。話し方的に、ルミアーナ家の使用人のようだ。
もし、ここに私がいるってことがバレると、間違いなく両親の耳に入る。不法侵入で罰を与えられるのは別に良いんだけど、ここまで来た手段を聞かれて魔法を使ったなんてバレたら私は終わりだ。
「僕に任せて」
ウルグはポツリとそう呟くと、私の腕からスルリと飛び出て、「ばぁ!」と言って彼らの前に姿を現した。そして、満面の可愛らしい笑顔を浮かべる。
「びっくりした~?」
「ああ、ウルグ様でしたか。驚きましたよ」
「ここで一体何をなさっているんですか?」
「猫を追いかけてたんだ! 追いかけている間に逃げられちゃったんだけど」
ウルグが眉を少し下げて悲しそうな表情を浮かべると、使用人達は同情の目を彼に向ける。彼らは優しい表情をウルグに向けて、しゃがみ込んだ。
「私達が見つけて、ウルグ様の元へ連れて行きますよ。だからそんな悲しい顔をしないでください」
「本当~!?」
一瞬で、ウルグの表情がパッと明るくなる。その表情を見て、使用人達も笑顔になる。
……私と同じ匂いがする。まぁ、私とは天と地の差だが、この社会を器用に生きるための術を既に手にしている。見た目は五歳のあどけない少年だが、実際は計算高く、猫のかぶり方を知っている。
「有難う~! もう少しだけここにいてもいい?」
「はい。大丈夫ですよ。ですが、先程、少し女性の声が聞こえたのですが……」
「誰もいなかったよ~。僕の叫び声かなぁ? 猫を見逃しちゃった時に声出しちゃったから」
「そうですか。それなら良かったです。もし何かあればいつでも呼んでください。私達は仕事に戻ります」
「うん!有難う!」
ウルグの可愛らしい様子に心が癒されたようにして使用人達は庭園の方へと戻って行った。
まさかウルグに助けられるとは思わなった。本当にウルグに守られるなんて……。まぁ、五歳でもちゃんと自我はあるし、貴族の教育をしっかりと受けていたら、それなりに大人の考えも身についているか。
「有難う」
私の言葉にウルグが嬉しそうに笑った。
「僕も役に立つでしょ? 僕はおねえちゃんのことが好きだから何があっても守るよ」
……彼も攻略対象の一人なの? 十一歳も年下の男の子も含まれているとしたら、運営はきっと頭がおかしい。
「だから、僕もいっしょにぼうけんに連れてって!」
「分かった。けど、危なくなったらすぐに逃げること。いい?」
「うん! おねえちゃんも危なくなったら逃げてね」
彼は満足気に頷いた。手間が増えるかと思ったけど、ウルグなら役に立つかもしれない。勿論、危険なことはさせれないけど。
ウルグと一緒に屋敷の方へ歩き出した。
感想本当に有難う御座います!
とてつもなく嬉しいです。いつも元気を貰えます。
更新ペースがバラバラになってしまい申し訳ございません。これからもよろしくお願いします。




