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投資家の弟、異世界の兄に課金して無双させる~スマホとスキルの経済チートで世界を買い取る~  作者: かぶんす


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第九十三話:樹齢五百年の神木と、三兆円の完璧なるペテン

1.おかんたちの説得と、悪魔の二〇〇億ドル(三兆円)計画


「──ええか、おばちゃんたち。相手は年間売上十兆円を超えるアメリカの巨大製薬コングロマリット、ヴァルケン社や。奴らは百億ドル(約一兆五千億円)の札束をチラつかせながら、裏では脅迫めいた提案を突きつけてきとる」


大阪・北区、『ミヨシ・ホールディングス』最上階の極秘応接室。

三好駿は、冷えたダージリンティーに口をつけながら、集まった「主婦同盟おかんたち」に向けて不敵な笑みを浮かべていた。


応接室には、不破玲香の母親、橘ほのかの母親、柊鏡花の母親、名取蓮、そして不破玲香が同席している。


「一兆五千億円……。途方もない金額だけど、相手は強奪する気満々なんでしょう? 駿くん、断ったらサロンや私たちの身が危ないんじゃないの?」

不破の母親が、少し心配そうに眉をひそめた。


「ふっ、断るわけないでしょう。……相手の提示してきた『百億ドル』の買収案、【二〇〇億ドル(約三兆円)】に吊り上げた上で、全部飲んで事業ごと売り払ってやりますよ」


「「「えええええええっ!?!?!」」」


おかんたちが一斉に悲鳴のような声をあげた。


「売っちゃうの!? 駿くん、せっかく私たちが作り上げた『HASEL』のサロンや、一般向けの『HASEL-LITE』の事業を、あのアメリカの悪徳企業に渡渡しちゃうっていうの!?」

柊の母親が、身を乗り出して抗議した。


「落ち着いてください、おばちゃん」

駿は宥めるように手をかざし、隣でノートPCを叩いている名取蓮へと目配せした。


「蓮、例の『ハッタリ(擬似科学)パッケージ』の概要を説明したってくれ」


「……はい、先輩」

メガネの奥の黒い瞳をキラリと光らせ、蓮がタブレットの画面をおかんたちに提示した。


「おば様方、ご安心ください。私たちが売却するのは、本物のポーションの権利ではありません。……『現代の科学では絶対に再現できない、樹齢五百年の木を使った完璧な偽の抽出システム』ですわ」


蓮は淡々と、しかし悪魔的な笑みを口元に浮かべて説明を続けた。


「相手は世界トップの製薬会社です。彼らにファンタジーの『ポーション』などと言っても信じません。ですので、HASELの奇跡的な美肌・細胞修復効果の正体を、『紀伊山地の修験道・高野山に秘伝として伝わる、樹齢五百年の神木(神代杉)から極めて稀に生み出される特殊なテルペン代謝物・細胞修復液テルペノイド・レトロシグナル』という架空の生化学理論に置き換えます」


「テルペン……レトロシグナル……?」

おかんたちは狐につままれたような顔をしている。


「ええ。最新の論文風に捏造した完璧な偽の検査データと、分析機器のジャミングプログラムを私が組み込みました。そして、紀伊山地にある駿先輩の遠縁の山林、そこに立つ本物の『樹齢五百年の御神木』を、HASELの『世界の唯一の源泉』としてヴァルケン社に売りつけるのです」


駿がニヤリと口元を歪め、引き継いだ。


「買収の条件は四つや。

一、HASELの全事業権、ブランド権、ならびに紀伊山地の『神木を含む山林の所有権』の完全譲渡。

二、対価は、紙幣でも口座送金でもなく、【二〇〇億ドル(約三兆円)相当の純金インゴット(金の延べ棒)】による即時現物決済。

三、俺や蓮たちの『名誉顧問』といった天下り・縛りポストは一切不要。買収完了と同時に、俺たちは事業から100%完全撤退・隠居する。

四、サロンの会員様や『HASEL-LITE』の定期購入者には、『世界のメガファーマへの事業譲渡に伴い、サービスを終了・移行する』として巨額の返金キャッシュバックを行い、後腐れなくクローズする」


「……ちょっと待って、駿くん」

不破の母親が、ハッと目を見開いた。

「それって……アメリカの製薬会社は、三兆円分の金の延べ棒を払って『ただの樹齢五百年の木』と『偽の抽出レシピ』を買い取らされるってこと……!?」


「その通りや」駿は悪魔のような笑顔で頷いた。「本物のポーションは異世界(兄貴のところ)にあるんやから、地球上でどれだけ実験しようが、俺たちの手が離れればただの『木こりの樹液』に戻る。ヴァルケン社が『騙された!』と気づいた時には、俺たちは三兆円分の純金を懐に抱えて、完全に高飛び(撤退)完了しとるわけや」


「……まぁ! なんて恐ろしい、ううん、なんて痛快な作戦なのかしら!」

橘の母親が、両手を叩いて歓声をあげた。


「アメリカの横暴な大企業から三兆円もぶんどって、私たちはサロンの返金で大儲けして、危ない標的ヘイトからも完全に脱出できる……! 駿くん、あなた本当に天才だわ!」


主婦同盟おかんたちの満場一致の賛同を得て、歴史上最大の「三兆円のペテン劇」の幕が切って落とされた。


2.紀伊山地のハッタリ舞台と、演者たちのセッティング


三日後。世界遺産・熊野古道の深奥に位置する、霧深き紀伊山地の私有林。


鬱蒼と茂る巨木たちの中心に、幹の周囲が十メートルを超える、圧倒的な存在感を放つ巨木──樹齢五百年の『神代杉かみよのすぎ』が鎮座していた。

その根元には、あたかも古代から続く修験道の極秘の儀式場であるかのように、しめ縄や苔むした石碑、そして最新のガラス製精密ろ過ろ過プラントが怪しく配置されていた。


「……おい、駿。本当にこれで大丈夫なんか? ワシはただの木こりのジジイだぞ?」


古びた作務衣を纏い、立派な白い髭を蓄えた老人が、不安そうに駿を見つめていた。

駿の父方の遠縁にあたり、この山林の所有者である三好源三郎(八十二歳)だ。


「大丈夫や、源三郎のじいちゃん」駿は源三郎の肩をポンと叩いた。「じいちゃんはな、今日から『高野山修験道の奥義を代々受け継ぐ、山の第十四代密法長労・三好源山げんざん』や。アメリカ人が大好きな『東洋の神秘の長老』を演じきってくれればええ。セリフは全部、耳元の超小型イヤホンから俺と蓮が指示する通りに喋れば完璧や」


「三兆円の金塊の一部で、この過疎った村に立派な温泉施設と道路を作ってくれるんだったな? よし、ワシの役者魂を見せてやるわ!」

源三郎は、長年培った年輪を感じさせる圧倒的な威厳の表情を浮かべ、深く頷いた。


その時──上空から重厚なプロペラ音が響き渡り、二機の大型民間ヘリコプターが、山林の特設ヘリポートへと着陸した。


ヘリから降り立ってきたのは、高級サヴィル・ロウのスーツに身を包んだ、精悍だがどこか焦りと傲慢さを瞳に宿した白人男性──ヴァルケン・バイオメディカル社副社長、ドナルド・ミラー(四十五歳)。

そして、彼を護衛する厳めしい体格の私設特殊部隊(SP)と、鋭い目つきの筆頭生化学研究者たちの一団であった。


ドナルドは、ぬかるんだ山道を一歩踏みしめるたびに不快そうに顔をしかめていたが、目の前に聳え立つ巨木と、そこに佇む源三郎、そして立ち会う駿と蓮の姿をとらえると、口元に洗練されたビジネスマンの不敵な笑みを浮かべた。


「──ハロー、ミスター・ミヨシ。こんな日本の極東のジャングルへ呼び出されるとは思わなかったよ。だが……この空気、ただ事ではないな」


ドナルドは通訳を介さず、完璧な流暢な日本語で語りかけてきた。彼の瞳には、実績を欲する野心と、東洋の神秘主義に対する隠しきれない好奇心がギラギラと燃えていた。


「初めまして、ミスター・ドナルド」

駿は仕立ての良いジャケットのポケットに手を突っ込み、冷徹な投資家の笑みで出迎えた。


「わざわざアメリカからお越しいただき感謝します。……ヴァルケン社からの『一〇〇億ドルでの完全買収提案』、じっくり読ませていただきましたよ」


「フッ、賢明な判断だ」ドナルドが満足そうに頷いた。「我がヴァルケン社の資金力と製造ラインがあれば、君たちの『HASEL』は世界中の人類の美と健康を支配する。君たちにも『名誉顧問』として、一生遊んで暮らせるロイヤリティを保証しよう」


「いいえ、ミスター・ドナルド」

駿は人差し指を左右にチチチと振った。


「条件が変わりました。……買収額は【二〇〇億ドル(約三兆円)】。支払い方法は【純金インゴット(金の延べ棒)での即時決済】。そして、当社は『名誉顧問』などのポストは一切辞辞退し、買収完了と同時に研究・事業から完全に撤退・隠居します」


「なっ……! 二〇〇億ドルだと!?」

ドナルドの顔色が変わった。「一〇〇億ドルでも破格だ! 倍額など、本社の最高経営会議ボードが納得するわけが──」


「納得させられますよ。……『これ』の正体を、あなたの目で直接確かめればね」


駿が手招きすると、作務衣姿の源三郎が、ゆっくりと重厚な歩みで神代杉の根元へと進み出た。

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