第八十二話:令嬢たちへの誓い
天空の正解ルートと、若き騎士たちの成長
一方、遙か高空に浮かぶ『天空の神殿』の第二十一階層。
「全衛、展開! 陽斗、カイル、敵の左翼を同時に突いて!」
指揮官であるシェリーの凛とした指示が、雲海の迷宮に響き渡る。
「『限界突破』──『迅雷斬り』!」
「『迅雷の刃』!」
カイルと陽斗の二人の、完璧にシンクロした超高速の斬撃が、急降下してきたスカイ・ワイバーンを次々と両断していく。
だが、この浮島エリアの本質は、目に見えない落下トラップと一方通行の転移魔法陣。そこで大活躍しているのが、翔が日本から調達し、鏡花たちが操作する最新のテクノロジーだった。
「ドローン、第二浮島の座標を確保。ラジコンカー、床の魔法陣トラップをハック中……よし、ここが安全な『先達の正解ルート』だ!」
鏡花が液晶画面を見つめながら指示を出し、彼らは一切のトラップに引っかかることなく、天空の浮島をスイスイと周回し、着実にレベルと連携を向上させていた。
時を同じくして、王都のブルグンド公爵邸。
ハァッ! という、重々しい大盾と剣の交錯する音が、屋内修練場に響き渡る。
アルベルト、ライネル、クロエ、ユリウスの「新・先行代表候補パーティー」の四人が、泥水をすすって得た謙虚さと、日本のプロテインの効果により、驚異的な成長を遂げていた。
「……そこまで!」
模擬戦の相手をしていたブルグンドのベテラン騎士たちが、感嘆の息を漏らして剣を収めた。
「見事だ、アルベルト、ライネル! お前たち四人の連携、以前の『個の暴力』とは見違えるほどに、美しく、無駄のないものになっている。お互いの死角を完璧に補い合えているぞ。これなら、王都の騎士団はおろか、闘技大会でも十分に勝ち抜ける!」
「ありがとうございます、先輩!」
四人は、汗を拭いながら、お互いにプロテインボトルを掲げて、翔の「数理戦術プログラム」の圧倒的な効果を噛み締めていた。
3.令嬢たちへの誓い
その日の夕暮れ、ブルグンド公爵城の、美しい薔薇が咲き誇る秘密の庭園。
翔は、北部の事後処理を見届けた後、アデライード、ベアトリーチェ、そしてアイリスの三人娘をその場に呼び出していた。
「みんな、集まってくれてありがとう。……伝えておきたいことがあるんだ」
翔の真剣なグレーの瞳に、三人は小さく息を呑み、静かに彼を見つめた。
「北部の敵対貴族、そしてコーリア商会の掃除は、これで完全に完了した。……俺は、明日、一度王都へ帰り、そのまま教え子たちと合流して『天空の神殿ダンジョン』の最上階、三十階層への踏破に向かう」
「翔様……! あそこは、未だ人類が誰も攻略したことのない、最上級の……」
アデライードが、心配そうに翔のシャツの袖をぎゅっと握りしめた。
翔は、三人の細く、温かい手を順番に自分の大きな両手で優しく包み込み、引き締まった表情で語りかけた。
「駿と話して決めたんだ。 俺がこの世界で、あなた方三人を同時に妻として迎えることを、公爵閣下やカノーヴァ伯爵閣下に正式に認めてもらうためには……。 王国の歴史を塗り替えるほどの、圧倒的な『成果』を神の前に示す必要がある。 だから、俺は天空の神殿を完璧に攻略し、来るべき闘技大会で、この国を間違いなく『1位』へと導いて見せる。……それが、俺の戦いだ」
「翔様……っ!」
ベアトリーチェが胸元に手を当て、アイリスもまた、熱い涙を瞳に溜めて翔を見つめた。
「……ただ、俺の元の世界、日本の法律では、あなた方の年齢(未成年)では結婚することができないんだ。だから……その年齢に達するまでは、どうか『婚約』という形にしてほしい。
それに……俺には、水上たち4人の生徒を、責任を持って日本へ、無事にあいつらの家族の元へと返す義務がある。
……。それらのすべてのハードルが解消できたその時には、俺は、男としてのすべてをかけて、あなた方三人全員を、必ず俺の生涯の妻として迎えるから。
だから……俺を信じて、待っていてほしい」
真っ直ぐで、一片の嘘も打算もない、翔の魂の誓い。
三人の少女は、顔を真っ赤に染め、しかしその瞳に、これまでにないほど強固な「愛の炎」をたぎらせて、翔の胸板に優しく顔を寄せた。
「はい……! どこまでもお待ちします、私たちの愛しいお婿様!」
アデライードが、ベアトリーチェが、そしてアイリスが、翔の温かい身体にぴったりと密着し、未来の不壊の婚姻を、静かに、そして熱く誓い合うのだった。
1.蒼雷のとんぼ返りと、腹をくくった熱血教師
バチバチバチィッッ!!!
王都近郊へと続く旧街道に、凄まじい放電音とミントグリーンの電光が吹き荒れていた。
日本の最先端オフロード仕様モンスターキックボード『モンスター 6000』のステップに両足を乗せ、身の丈百九十センチの三好翔は、風圧でジャージのフードを激しく羽ばたかせながら爆進していた。
時速は、未舗装の悪路としては完全に常軌を逸した『時速百キロ』。
名取蓮が開発した魔導バッテリーシールが、周囲の大気中から無尽蔵に魔力を吸い上げ、電気エネルギーへと超高速で自動変換し続けている。どれだけスロットルを力強く捻り込もうが、液晶のバッテリーインジケーターは「100%」からピクリとも動かない。
「おい、前方に何かが──グガアァッ!?」
街道の藪から、あまりの高速移動に驚いて飛び出してきた中級魔物『アーマードベア』の群れ。だが、翔は止まらない。
右手でスッと虚空から黄金の『神殺しの聖剣(複製版)』を出現させると、すれ違いざまに大剣の腹で魔物たちの巨体を軽く小突いた。
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