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第八話:ツンデレ公爵令嬢たちと新天地への出立

1.三台の馬車の出立


旅の編成は以下の通りであった。

先頭を走るのは、翔たち五人が乗り込む、最も大きく豪華な王家仕様の魔導馬車。御者台には、公爵家の騎士グスタフが座る。そして、その横の空いた席には──なぜか、身長百九十センチの大柄な男、翔自身がちょこんと腰掛けていた。

真ん中を走る馬車には、公爵令嬢アデライードと伯爵令嬢ベアトリーチェが乗り込み、その御者はカノーヴァ家の騎士レオンが務めている。

最後尾を走る馬車には、護衛兼御者を務める冒険者六名が乗り込み、不測の事態に備えて周囲を監視しながら、前二台の馬車の後に続いた。

王都の巨大な外門を潜り抜けると、目の前には、どこまでも青く広がる空と、舗装された街道、 そして見渡す限りの豊かな緑が広がっていた。

パカパカと軽快な馬蹄の音が街道に響く。

御者台の翔は、隣で手綱を握るグスタフに向けて、人当たりの良い教師らしい笑顔を向けた。


「グスタフさん。御者台にお邪魔してしまってすみません。せっかくの初めての旅なので、 この世界の風景や、これから向かうブルグンド公爵領について、あなたの口から教えていただけないかと思いまして」


グスタフは、最初は代表候補を一撃で粉砕した「異界の怪物」が隣に座ってきたことで、 全身を鉄のように硬直させていた。だが、翔のあまりにも丁寧で腰の低い、 暴力とは無縁の温和な態度に毒気を抜かれたのか、やがて少しずつ口元を緩めた。


「い、いや……こちらこそ、無愛想な男で申し訳ない。……三好先生、とお呼びすればよろしいか?」


「ええ、先生でも翔でも、お好きなようにお呼びください」


「では、翔殿。我が主君、ブルグンド公爵が治める北の地は、王都に比べれば冬の寒さが厳しく、 武骨な者が多い土地柄だ。公爵様自身も、武勇を重んじ、曲がったことを嫌う厳格なお方。 だが、領民に対しては極めて公正で、慈悲深いお方でもある。王都の政治屋どものような、 陰湿な企みをする者はおりませぬ。そういう意味では、あなた方にとっても、王城よりはずっと過ごしやすい場所になるはずです」


「なるほど。武勇を重んじる、厳格な公爵様ですか……。少し緊張しますが、裏表のない方なら、信頼できそうですね」


翔はグスタフの言葉に、心から安堵した。



2.車内の三者三様


その頃、それぞれの馬車の中では、異なる熱量を持った会話が繰り広げられていた。


【先頭馬車・車内(生徒たち)】

「ねえ、不破。本当に身体、軽くなってない?」


水上が馬車の柔らかいシートに深く腰掛けながら、自分の手のひらを何度も開閉させていた。


「めちゃくちゃ軽いよ。というか、昨日のあの魔法陣とか、騎士たちを正座させたこととか……未だに夢みたいなんだけど」


不破が窓の外を流れる異世界の風景を見つめながら応じる。


「一部始終、翔先生、本当にすごかったよね……」


橘ほのかが頬を少し赤くしながら呟いた。


「まさか、あの優しい先生が、あんなでっかい黄金の剣で一撃でカイルたちを吹き飛ばすなんてさ。私、ちょっと惚れ直しちゃったかも」


「橘、それはずるいよ! 私だって、先生が前に立って守ってくれたとき、心臓止まるかと思ったんだから!」


柊鏡花が橘を小突く。


「ま、何はともあれ、翔先生がいてくれて本当によかったな。もし先生が巻き込まれてなかったら、 俺ら今頃、あの偉そうなジジイどもに奴隷みたいに使われて、今頃あの代表候補とかいう奴らにパシリにされてただろ」


水上のその言葉には、全員が深く同意するように真剣な表情で頷いた。


「これから行く公爵領ってところでも、先生を信じて頑張ろう。それに、私たちも『天啓の聖石』で力を得たんだ。 いつまでも先生に守られてるだけじゃなくて、今度は私たちが先生を助けられるくらい、強くならなきゃね」


柊が力強く拳を握ると、車内は前向きな活気に満ち溢れた。


* * *


【真ん中馬車・車内(令嬢たち)】


「──信じられませんわ!」


アデライードが、椅子のクッションを拳でポカポカと叩きながら、不満を爆発させていた。


「なぜ、我ら最高爵位の令嬢たる者が、あの正体不明の『ハズレ召喚者』どもの旅路に同行しなければならないのです! しかも、カイル様たちを暴力で脅し、王家からあの貴重な『天啓の石』まで強奪したと聞きます! 完全に野蛮な侵略者ではありませんか!」


ベアトリーチェは、アデライードの激しい怒りを優しく微笑みながら受け流し、手元のお茶に口をつけた。


「まあまあ、アデライード。ですが、バルテル宰相の書状によれば、 そのハズレ召喚者のリーダーである教師の男は、カイルたち代表候補の四人を、 武器の『峰』の一撃だけで一瞬にして無力化したそうですわ。しかも、生徒たちには傷一つ負わせない完璧な技術で。 とても、ただの『ハズレ』とは思えませんわよ?」


「それは……何か邪悪な呪具でも使ったに決まっていますわ! あのような大男、我が父上が手にする魔剣の一撃で、 塵にされてしまえばいいのです!」


アデライードはぷいっと窓の外を向いた。

幼い頃に誘拐された経験から、彼女は人一倍警戒心が強く、力を持つ者に対して容易に心を許さない傾向があった。


「でも、少し楽しみですわね。どんなに恐ろしい方々かと思っていましたけれど、 先ほどお見かけした先生という方は、とても穏やかで、まるで大きなクマのようにお優しい眼差しをされていましたもの。 カノーヴァ領を通り過ぎるまで、ゆっくり観察させていただきましょう」


ベアトリーチェは楽しげに目を細め、先頭を走る翔の馬車の背中を見つめていた。


* * *


【最後尾馬車・車内(冒険者たち)】


「おい……本当に俺たちが護衛するのか、あの男を」


重厚な大剣を抱えた中年の冒険者バルトが、引きつった笑みを浮かべながら仲間に問いかけた。


「アホ、俺たちの仕事は『馬車の周囲の警戒』だ。あの先頭の馬車に乗ってる大男を護衛するわけじゃねえ。 むしろ、何かあったらあの男の背中に隠れる方が先決だぞ」


弓使いの女冒険者が苦笑する。


「だけどよ、今回の依頼は王都のギルド始まって以来の超破格、しかも道中の宿は全部最高級ホテルの一等室だ。 飯も王室御用達のマジックバッグから出されるって話だぜ? 命がけの戦闘もなさそうだし、こんな美味しい依頼、受けなきゃ一生の損だろ」


「それもそうだな。あの『三好』って先生、王家の連中には容赦なかったが、 俺たち冒険者にはすげえ丁寧に対応してくれたしな。意外と、良い旅になるかもしれねえぜ?」


最後尾の馬車では、ベテラン冒険者たちが、これまでにない「貴族顔負けの贅沢な護衛任務」に胸を躍らせながら、 和気あいあいと談笑していた。

街道を渡る爽やかな風が、三台の馬車を優しく包み込み、北へと運んでいく。

それぞれの思惑、それぞれの感情を乗せて、一行のブルグンド公爵領への旅路は、 極めて順調に、そして賑やかに始まったのだった。


初日のスタートダッシュ、全8話の一気読みありがとうございました!

謎のスキル『つながる手』を手に入れた翔。そして新天地・ブルグンド公爵領で待ち受けるツンデレ令嬢アデライードたちとの出会い……。

ここから、本当の「異世界経済支配」が始まります!


明日からは、あらすじ通り【毎日 朝07:40 / 夜20:40】の1日2回更新で、ストックが尽きるまで全力で駆け抜けます!


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