第七十七話:不壊の連携(チームワーク)
4. 天空の悲鳴:掴まれた陽斗と、奇跡の空中キャッチ
だが、敵は四頭。
ダウンした一頭を仕留めようとした、その一瞬の隙。
別方向から急降下してきた、未だ無傷だった二頭目のスカイ・ワイバーンが、真司のカバーをかいくぐり、鋭い爪で陽斗の肩口をガッチリと鷲掴みにした。
「しまっ……!? 陽斗!」
「うわっと!? 離せ、このトカゲ!!」
バササササッ!!! と、ワイバーンは強靭な翼を羽ばたかせ、陽斗の身体を掴んだまま、一気に数十メートルの上空へと舞い上がっていった。
「陽斗君が掴まれました! 全員、上空への妨害魔法、および投擲を開始!
ほのか、風魔法で敵の翼のバランスを乱して!
ミリーナ、雷撃でスタンを狙いなさい!」
シェリーの、焦りのない、しかし迅速極まる指示。
「『大魔導』──『烈風の枷』!」
ほのかが杖を掲げると、上空のワイバーンの右翼の周りに、激しい空気の乱気流(竜巻)が渦巻き、その飛行バランスを強制的に崩した。
「グガッ!?」
「『多重詠唱』──『ライトニング・フォール』!」
ミリーナの放った、鋭い青白い雷撃が、ワイバーンの背中に直撃し、その肉体を大きく痙攣させる。
「こっちも食らいなさい!」
鏡花が、地上から日本の鋼のナイフをワイバーンの目に目掛けて連続投擲し、敵の視界と意識を完全に奪う。
上空で、ワイバーンの爪に掴まれていた陽斗は、決してパニックにはなっていなかった。翔から、毎日「いかなる極限状態でも、頭を冷やして重心を制御しろ」と叩き込まれていたからだ。
「……ナメるなよ、トカゲ!
これでも、俺は毎日 150kg のスクワットをやってるんだ!
『迅雷の刃』──フォーム・最大出力!!」
陽斗は、逆さ吊りにされた状態から、自らの強靭な腹筋と背筋の力だけで上半身をエビ反りのように跳ね上げ、自身を掴んでいるワイバーンの太い「足首」に向けて鋭い斬撃を叩き込んだ。
ザシュゥゥゥッ!!!
「ギャァァァァッッ!!!」
足首を骨ごと切り裂かれたワイバーンは、激痛のあまり陽斗を掴んでいた爪の力を緩めた。
陽斗の身体が、数十メートルの上空から、虚空へと真っ逆さまに落下し始める。
「──陽斗君が落下します!
真司君、落下地点へ即座にダッシュ!
『神速回復』──『落衝撃緩和』!」
シェリーが、落下する陽斗の身体の周囲に、重力を一時的に緩和するサクラ色の魔法の障壁を素早く付与。
同時に、
「『大魔導』──『風のクッション(エア・エアプレッション)』!」
ほのかが、陽斗の落下軌道の直下に、目に見えないほど巨大で柔らかい「空気のクッション」を魔法で瞬時に形成し、彼の落下速度を物理的に極限まで減衰させた。
「おっしゃあ! 受け止めるぜ、陽斗!」
不破真司が、大盾を放り投げ、日本の衝撃吸収サポーターに守られたその分厚い両腕を広げて、落下軌道の真下へと滑り込んだ。
フワリ、ズシンッ!
「──おっとっと! サンキュー、真司! 助かった!」
「おう、無事で良かったぜ!」
重力軽減魔法と風のクッション、そして真司の頑強な肉体。完璧な『トリプル・キャッチ』により、陽斗は数十メートルの落下にもかかわらず、かすり傷一つ負うことなく、完璧に地上へと生還したのだった。
5. 終局の蒼雷:完璧なる総攻撃と、不壊の連携
だが、ハプニングはそこで終わらなかった。
陽斗に足首を切り裂かれ、ミリーナの雷撃とほのかの風で翼の膜をズタズタにされた巨大なワイバーンもまた、飛行能力を失い、悲鳴を上げながら陽斗のすぐ隣へと落下してきたのだ。
バササササッ!!! という、巨大な翼の羽ばたき。
しかし、ワイバーンは落下の際、自身の引き裂かれた『腕の膜(翼)』で空気抵抗が不規則に変わり、その落下位置が、当初の予測よりも数メートル「右側」へと大きくズレて激突した。
土煙が舞い、巨大な巨体が芝生の上を転がる。
通常であれば、ターゲットの位置ズレにより、攻撃のタイミングが乱れて隙が生じる瞬間。
「──ターゲットのズレを感知!
フォーメーションを『個別最適化』へと移行!
ジーモ、着地を逃さずスタンを延長して!
カイル、陽斗、タイミングを合わせて最大火力を叩き込みなさい!」
シェリーの、状況の変化に一瞬で対応する完璧な「修正指示」。
「おうよ! 寝てろォォォッ!!」
ジーモが、ズレた着地点へと一足飛びで回り込み、その巨槌をワイバーンの顔面へと再び叩き落とし、スタン状態をさらに数秒、強制的に延長させた。
「『限界突破』──『真・迅雷斬り』!」
カイルが、全身の青白い魔力を極限まで高め、完璧な踏み込みでワイバーンの首元を切り裂く。
陽斗は、落下の直後でわずかに攻撃のタイミングがズレたものの、翔から伝授されたステップワークでそのズレを瞬時に補正し、カイルの半拍後に、全く同じ傷口へと自身の最大火力を叩き込んだ。
「『迅雷の刃』──連撃・最大出力!!」
シュザザザザザッ!!! という、美しい刃の交差。
さらに、
「ミリーナさん、この魔物、クリスタルの皮膚に『雷属性』が異常なほど高倍率で通りますわ!」
ほのかが、魔力の流れから敵の弱点を一瞬で見抜いた。
「ええ、橘さん! 私たちの合体魔法で、一気に塵にしますわよ! 『多重詠唱』──『デュアル・ギガ・サンダー』!」
二人の、青白い極大の雷撃魔法が、ワイバーンの巨体へと直撃した。
弱点属性を突かれたワイバーンは、全身の結晶の鱗を内側から爆発させ、悲鳴を上げる暇すら与えられず、一瞬にして光の粒子となって消滅したのだった。
残る二頭のワイバーンも、シェリーの完璧な指揮、そして鏡花とシェリーの「周囲への徹底的な索敵(敵の伏兵や上空からの奇襲を完全に警戒する防衛線)」の前に、近寄ることすら許されず、同じようにボコボコに無領地化され、消滅していった。
「……はぁ、はぁ。終わったな」
カイルが剣を収め、汗を拭った。
「ああ。完璧な、全員の『不壊の連携』だ」
陽斗が、親指を立ててシェリーにウィンクした。
シェリーも、鏡花と共に周囲の安全を完璧に確認し終えると、ホッとしたように美しいサクラ色のドレスの裾を揺らし、満面の笑みを浮かべたのだった。
日本の科学、そして翔の残した「戦術の授業」。
それは、天空の神殿という過酷な上級ダンジョンにおいて、彼らを世界で最も美しく、最も強靭な『不壊の軍隊』へと、完全に成⾧させていた。
彼らの不敵なる「異世界課金無双」は、若き戦士たちの完璧な魂の結託を得て、いよいよ三十階層の最上階、そして世界を揺るがす経済戦争の本番へと、地響きのような勢いで突入していくのだった。




