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投資家の弟、異世界の兄に課金して無双させる~スマホとスキルの経済チートで世界を買い取る~  作者: かぶんす


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第六十九話:疾走するオフロード・魔導キックボード

3. 疾走するオフロード・魔導キックボード:三重のサーキットへの緊急フライト


「──何だと、公爵閣下。北部領内で、すでに食料と塩の不足による領民たちの不安が、表面化し始めているのですか?」


王都を出発して最初の宿場町。王室仕様の豪華な魔導馬車、そして物資を積んだ数十台の荷馬車からなる大船団が、夕暮れの宿場に到着した直後。

宿屋の作戦室において、翔、ブルグンド公爵、そしてカノーヴァ伯爵(通信用の遠隔魔導書を介して同席)の三人は、北部からの最速の早馬がもたらした緊迫の報告書を前に、息を呑んでいた。


「うむ……。コーリア商会の経済封鎖のせいで、北部の穀物価格は通常の三倍以上に跳ね上がり、塩の流通は完全に麻痺している。領民たちの間で『この冬、私たちは飢え凍えて死ぬのではないか』という深刻なパニックが広がりつつあるのだ。王室の馬車を借りて荷馬車を軽くし、町ごとに馬を乗り換える最速の強行軍を行ってはいるが……。これだけの船団だ、ブルグンドまで到着するには、どう急いでもあと『五日』はかかる。その間に、領民たちの不安が爆発して、領内での暴動や、コーリア商会への妥協を求める世論が形成されてしまえば、我々の負けだ……」


公爵が、巌のような太い指をテーブルに押し付け、苦渋の表情で唸った。

カノーヴァ伯爵もまた、通信の向こうで「……盲点でしたな。物資は確かに日本から一瞬で倉庫へと移送されていますが、それを『私たちが無事に持って帰還した』という圧倒的な現実を領民に見せ、安心させなければ、心の包囲網は突破できん……」と頭を抱えていた。


その緊迫した空気の中、翔は静かに立ち上がり、グレーの瞳を鋭くぎらつかせた。


「──閣下。それならば、私が一人で先行します」


「翔殿、先行するだと!? 馬も無しに、この700km近い距離を、一人でどうやって!」


「私には、駿が日本の最高峰の科学技術をフル活用して送ってくれる、いかなる馬よりも速い『現代の脚(乗り物)』があります。

私が物資の入った空間拡張マジックバッグを身につけ、一足先に、明日の夜までにカノーヴァとブルグンドの領都へ同時に到達します。

領民たちの目の前で、日本の高品質な純白の塩と、純クリーンな大麦・小麦の山を倉庫に溢れ返らせて見せるのです。

『我々は、王都の最高級の物資を完璧に入手し、一足先に領地へと持ち帰った! 飢える心配などどこにもない!』と、大音声を轟かせれば、領民たちの不安は一瞬にして雲散霧消し、コーリア商会の心の包囲網は、突入する前に木端微塵に崩壊します!」


「な、何という大胆不敵な作戦……! だが、そんなことが本当に可能なのか!?」


公爵と伯爵が驚愕する中、翔はすぐさま、スマートフォンの通信を日本の駿へと繋いだ。


「──駿! 聞こえるか! 緊急事態だ!

王都からブルグンドまでの700kmの街道を、時速80km以上で単独突破できる『超高速のオフロード車両』が今すぐ必要だ。こっちに転送できないか!?」


脳内に響く駿の声は、驚きつつも、すぐに投資家としての冷徹な思考ギヤを高速で噛み合わせた。


『──な、700kmを時速80km以上で単独走破やと!?

兄貴、無理言うな! お前が異世界の金貨で俺の身体能力を極限まで底上げ(リバース・シンク)してくれたとはいえ……物質の双方向瞬間転送には、物理的な「ゲートのサイズと、手で踏ん張って引き抜く質量(インナー慣性)」の限界がある!

車や、大型のオフロードバイクを右手から左手へ持ち替えて送るなんて、重さとサイズがデカすぎて次元の歪みに引っかかって大爆発を起こすのがオチや!』


「やはり、サイズと質量の限界があるか……。だが、何かないか、駿! ゲートを通過できるサイズで、未舗装の険しい街道を、ノーメンテナンスで走り抜けられる最新のテクノロジーは!」


駿は一瞬沈黙し、それから、隣で検証コードを走らせていた名取蓮の画面を見つめ、ポンと手を叩いた。


『──ある。一台だけ、その無理難題を完璧に解決できる、現代日本の最新のモンスター・マシンがあるわ!

──【オフロード仕様・極太タイヤ搭載のモンスター電動キックボード】や!』


「電動キックボードだと……!? あれは、日本の歩道をトボトボと走る、あの頼りない乗り物ではないのか?」


『アホ言え、兄貴! 現代の日本や海外のクレイジーなモビリティ開発を舐めとったらアカン!

極太のオフロード専用ブロックタイヤ、前後に超頑強な油圧サスペンション、そして 6000W を超えるツインブラシレスモーターを搭載した、本物の「モンスター・キックボード」が存在するんや!

サイズは自転車以下で、折り畳めばお前が左手で十分に踏ん張って引き抜ける重量(約 40kg)や。

それでいて、未舗装の悪路や砂利道を、時速80kmから最大100kmでノープレッシャーで駆け抜けられる、クレイジーなオフロード・レーサーや!』


さらに、駿の隣に座っていた名取蓮が、丸眼鏡をキラリと光らせてスピーカーに叫んだ。


「翔先生! 私が開発した『現代版・電磁トポロジー魔導バッテリーシール』を、そのキックボードのリチウムイオンバッテリーに直接貼り付けます!

このシールを貼ることで、大気中の微細な魔力を電気エネルギーへと超高速で自動変換・自己発電し続ける、コンセント不要の『永久機関(無限充電)モンスターマシン』が完成します!

これなら、700kmをノーチャージ、ノンストップで、最大出力のまま走り抜けることができますわ!」


「素晴らしい……! それならいける! 駿、今すぐそのモンスター・キックボードを調達してくれ!」


『よっしゃ、任せとけ!

……ただな、兄貴。そんなマニアックで最高峰のモンスターキックボード、普通の自転車屋や家電量販店には絶対に置いてへん。

ネット通販じゃ明日の朝の転送には間に合わん。

急ぎで調べてみたら……なんと今日、日本の三重県にある「鈴鹿サーキット(三重のサーキット場)」の展示エリアで、その海外製の最高峰オフロード電動キックボードのデモ走行会と、現物の一点限定即売会が開催されとるらしいんや!

今から、俺の SUV を飛ばして、蓮と玲香ちゃんを乗せて、三重までドライブデートがてら強行軍で買いに行ってくるわ! 兄貴、明日の朝までに絶対に届けるから、次の宿場で一泊して待っててな!』


「頼んだぞ、駿! お前のそのフットワークだけが、北部の領民たちの命綱だ!」


繋がる意思が静かに切れ、翔は安堵の息を漏らした。


日本の大阪。

『ミヨシ・ホールディングス日本支部』。


「蓮、玲香ちゃん! すぐに出発や! 三重の鈴鹿サーキットまで、俺の SUV でぶっ飛ばすぞ!」


「はい、先輩! 私、先輩とのドライブデートなら、開発用のノート PC を抱えてどこまでもお供しますわ!」

名取蓮が嬉しそうに眼鏡を押し上げ、助手席のシートベルトを締めた。


「ちょっと、蓮さん! 駿さんの隣は私の特等席よ! 駿さん、私、道中でお腹が空かないように、特製の手作りドライブ弁当をたくさん作ってきたんです!」

不破玲香も、サクラ色のポロシャツを揺らして、SUV の後部座席から駿の肩をぎゅっと抱きしめて微笑んだ。


「お前ら、今は恋の鞘当てをしてる場合やない! 兄貴と北部の領民たちの命がかかっとるんやからな! いくぞ、ポチっと時速 140km 巡航や!」


駿は不敵に笑うと、愛車の SUV のアクセルを強く踏み込み、夕暮れの御堂筋から、阪神高速、そして西名阪自動車道へと向けて、猛烈なスピードでハイウェイを滑り出していった。

日本での賑やかで少し甘酸っぱい「トリプル・ドライブデート(調達任務)」、そして異世界での、時速100kmで悪路を疾走する前代未聞の「魔導キックボード単独包囲突破作戦」の爆音の幕が、いま力強く切って落とされるのだった。


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