第六話:生徒の覚醒と固有スキル『つながる手』の取得
1.公爵領への遷幸
翌朝、国王アルトリウスは、まるで親切な庇護者を装うかのような薄汚い笑顔で、翔たちの滞在する超高級客室を訪れた。
「三好先生、そして生徒の諸君。昨晩は快適に過ごせたかね?」
「ええ、お陰様で。ただ、朝食に白米と味噌汁に近いものが出てきたのには驚きました。王城の厨房へ指示を出していただいたようですね」
翔はすまし顔で答えた。
「う、うむ……。実は、君たちの今後の生活について、一つ前向きな提案があるのだ」
国王は咳払いを一つし、地図を広げた。
「ここ王都は、闘技会を前にして様々な派閥が蠢き、極めて不穏な空気に満ちている。実を言うと、君たちをよく思わぬ過激派の貴族どもが、不穏な動きを見せておるのだ。契約があるとはいえ、彼らの暴走を私が完全に防ぎきれるとは限らん」
「……ほう」
翔のグレーの瞳が、面白そうに国王を観察する。
「そこでだ。我が国でも最大の権力を持ち、極めて安全な北の広大なる領地──『ブルグンド公爵領』へ、君たちの拠点を移してはどうかと考えている。公爵は極めて厳格で武勇に優れた男だ。彼の領地であれば、王都のいかなる敵対勢力も手が出せん。もちろん、契約にある『最上級の暮らし』は、公爵の城でそのまま完全に保障させよう」
翔がどう答えるべきか迷っていると、耳元に駿の冷静な声響いた。
『──兄貴、乗っかれ。これ、体のいい左遷やろうけど、俺らににとって好都合や。王都っていう敵のど真ん中にいるより、ちょっと地方のデカい領地に引きこもって、力蓄えた方が絶対安全や。公爵領なら、俺の課金物資も目立たずに転送しやすいしな』
(なるほどな……。駿の言う通りだ)
翔は一つ頷き、国王を見つめた。
「分かりました、国王陛下。生徒たちの安全ためにも、王都を離れ、ブルグンド公爵領へと移動することに同意します」
「おお! よくぞ決断してくれた!」
国王は内心で(かかったな、厄介払い成功だ!)と大喜びしながら、すぐに旅の支度を整えるよう重鎮たちに命令を下した。
2.覚醒の夜、そして『つながる手』
その日の夜、移動を翌日に控えた翔たちは、王城で用意された最上級の三つの部屋に分かれて宿泊していた。
翔の個室。男子生徒(水上、不破)の部屋。女子生徒(橘、柊)の部屋。
「よし、それじゃあ、それぞれの部屋でさっそく石を使ってみようか。何か変化があったら、すぐに連絡するんだぞ」
翔の指示のもと、生徒たちは自室へと戻り、それぞれ『天啓の石』を握りしめた。
静まり返った個室の中、翔はベッドに腰掛け、掌にある紫色の『天啓の魔石』を見つめていた。
「ステータスは上がらず、スキルだけが得られる魔石、か……」
『──兄貴、準備はええか? こっちの画面でも、兄貴の魔力値が魔石と共鳴し始めとるのが見えるわ。いつでもいってや』
「ああ、いくぞ、駿」
翔が目を閉じ、魔石を強く握りしめると──。
ドクン、と心臓が大きく跳ね上がった。
冷たいような、熱いような、奇妙なエネルギーが手のひらから浸透し、神経を通じて脳髄へと駆け上る。頭の中に、システム的な無機質な音声が直接響き渡った。
【──『天啓の魔石』を使用。固有適合判定:『巻き込まれし者』──】
【基礎ステータス上昇:なし】
【──固有スキル:『つながる手』を取得しました──】
「……つながる手?」
翔はゆっくりと目を開けた。手のひらにあった紫色の魔石は、淡い光の粒子となって完全に消滅していた。
自分の身体を見回すが、筋肉が増強されたような感覚も、魔力がみなぎるような感覚もない。身体の軽さは、昼間に駿が購入してくれた装備品の補正によるものだけのようだ。
「駿、そっちの画面で何か変化はあるか?」
『……いや、確かにお前のスキル欄に【つながる手】って追加されとるけど、詳細説明が「???」になっとるな。どういう効果か、さっぱり分からんわ。まあ、バグではないやろうから、追々調べてみようや』
「そうだな……。まあ、何も起きないよりはいい」
翔が息を吐いたその時、ドアが激しくノックされた。
「先生! 先生、すごいよ!!」
ドアを開けると、顔を紅潮させた水上と不破、そして隣の部屋から飛び出してきた橘と柊が立っていた。
「どうした、みんな!」
「見て、これ! ステータス画面が、頭の中に直接見えるんだ!」
水上が興奮気味に叫んだ。
「俺、基本の筋力と素早さが3倍くらいになってる! それに、固有スキル【迅雷の刃】っていうのを開花させたみたいで、身体が勝手に動きを覚えてるんだ!」
不破も興奮を隠せない様子で、自分の拳を見つめている。
「俺なんて【金剛の肉体】だよ! 身体がめちゃくちゃ頑丈になった気がする!」
女子二人も嬉しそうに報告してきた。
「私は【大魔導】っていうスキル! 魔力の流れがはっきり分かるの!」(橘)
「私は【疾風のステップ】。身体が羽みたいに軽いよ!」(柊)
生徒たちのステータスは、天啓の聖石によって一気に「一線級の戦士」並みへと跳ね上がっていた。
自分の教え子たちが、この危険な異世界で生き延びるだけの力を得た。その事実が、翔には何よりも嬉しかった。
「よかった……! これで、お前たちも自分の身を守れるな」
翔は教え子たちの頭を一人ずつ優しく撫でた。
「先生は? 先生は何のスキルを手に入れたの?」
橘がキラキラした目で尋ねる。
「ああ、俺か? 俺は……」
翔は自分の手のひらを見つめ、苦笑交じりに言った。
「『つながる手』っていう、よく分からないスキルをもらったよ。ステータスは全く上がってないんだけどな」
『──まあええやん。兄貴の筋肉は、俺の「課金」でいくらでもドーピングできるからな。そっちのスキルは、そのうち俺が実用的な使い方を見つけたるわ』
耳元で、駿が自信満方に笑う。
ハズレとして召喚され、国から疎まれ、明日には未知のブルグンド公爵領へと旅立つ5人と、現代日本からそれを資本力で支える1人の投資家。
不穏な陰謀が渦巻く公爵領で、彼らを待ち受ける運命とは──。
謎のスキル『つながる手』の真の力が覚醒する時、この異世界の常識は、さらなる混沌へと叩き落とされることになる。
次の話(第7話)は、このあと18:00に更新されます!
王たちの陰謀が動き出します。




