第五話:王たちの邪悪な陰謀。厄介払いの左遷先は、最果てのブルグンド公爵領
1.天啓の石と、二つの区分
「……よろしい。契約に従い、我が王国の至宝を引き渡そう」
代表候補たちとの模擬戦から一時間後、大聖堂の謁見の間に、重々しい金属製の箱が運ばれてきた。
国王アルトリウスが苦渋に満ちた表情で箱を開けると、そこには、内側から溢れ出すような神秘的な輝きを放つ、五つの結晶が収められていた。
そのうち四つは、青く澄み切った光を放つ美しい『天啓の聖石』。
大地に残りの一つは、どす黒い、しかし魅惑的な紫色の光を放つ『天啓の魔石』だった。
「説明を求めます、魔術師長」
翔が聖剣を傍らに置いたまま問いかけると、老魔術師長は怯えながら一歩進み出た。
「そ、その、輝く四つの青い石が『天啓の聖石』だ。これは……この召喚の魔法陣によって、明確に『召喚せし者』、またはそれに紐づく『従魔』にしか反応しない。使用者の眠れる潜在能力、ステータスを極限まで引き上げ、強力な固有スキルを開花させる。ただし……我らこの世界の人間は召喚を行った代表候補パーティーしか使えぬ」
魔術師長はそこまで言うと、もう一つの紫色の石を指さした。
「そしてそちらの紫の石が『天啓の魔石』だ。これは誰にでも使える……能力の有無を問わず、使用すれば強力なスキルや固有魔法を獲得できるのだ。ただし……聖石のように、個人の肉体そのもののステータス(基礎能力)が底上げされるわけではない」
「なるほど。ステータスは上がらず、スキルだけが手に入る、と」
翔が顎に手を当てて納得していると、傍らで震えていた神官長が、先ほど翔たちを測定した水晶のログを見つめながら口を開いた。
「じ、実はな……先ほど貴殿らの『登録属性』を神聖水晶で確認したところ……水上陽斗、橘ほのか、柊鏡花、不破真司の四名は、明確に『召喚されし者』と刻まれていた。これはおそらく『従魔』と同じとおもわれる。だが……」
神官長は恐る恐る翔の顔を見上げた。
「三好翔、貴殿の登録名は……『巻き込まれし者』となっておったのだ」
「巻き込まれし者……」
翔はその言葉を反芻した。
つまり、魔法陣の本来の召喚対象は生徒の四人であり、自分はそれを助けようとして文字通り「巻き込まれただけの異分子」だということだ。
「したがって、貴殿には『天啓の聖石』は使えぬ。適合せぬ者が聖石を握れば、最悪の場合、魔力の暴走で命を落とす。だから……四人の生徒が『聖石』を使い、貴殿は『魔石』を使うのが唯一の安全な道なのだ」
「そういうことか。分かりました。生徒たちの安全が第一だ、その提案を受け入れます」
翔がそう言うと、生徒たちは心配そうに翔を見た。
「先生、ステータスが上がらないって……大丈夫なの?」
「気にするな。お前たちが強くなって、自分の身を守れるようになるのが一番なんだ」
翔は優しく微笑み、五つの石を回収した。
2.王たちの密議、カイルたちの去路
その頃、翔たちの目から逃れるように、国王アルトリウス、魔術師長、神官長、そして数の大臣たちは王城の最深部にある防音結界が施された別室へと集まっていた。
「おのれ……! 何が特別授業だ! 我が国の誇る高貴な代表候補たちをあのような赤子のごとくあしらい、この私を脅迫して魂の契約を結ばせるとは!」
国王は豪華な円卓を激しく叩き、怒りをあらわにした。
「陛下、落ち着かれませ。契約書にサインしてしまった以上、我々は奴らに直接手を下すことも、害することもできません。違反すれば本当に心臓が破裂して死に至ります」
魔術師長が冷や汗を拭いながら宥める。
「ならばどうするのだ! あのバケモノどもをいつまでもこの王城に置いておくわけにはいかん! 闘技会を控える我が国の威信は丸潰れだ!」
「……ならば、王都から追い出せばよろしい」
一人の老臣が、邪悪な笑みを浮かべて進み出た。
「追い出す? しかし契約には『最上級の個室、日本食に近い快適な食事、健康な生活の保障』とあるぞ!」
「ええ。ですから、ここ王都の城ではなく──地方の領地に押し付けるのです。例えば……王都から遠く離れた、北の辺境。『ブルグンド公爵領』。あの偏屈で頑固なブルグンド公爵の城であれば、最上級の部屋も、美味い食事も、何一つ不自由なく提供できます。これならば『契約違反』には当たりますまい」
アルトリウス王の目がぎらりと光った。
「ブルグンド公爵家か! 確かにあそこなら、王都の我々が直接世話をする必要もない。公爵は王家に対しても冷淡な男だ、あの教師どもが公爵領でどう過ごそうが、我々の知ったことではない。むしろ、あの戦闘狂の公爵が奴らと衝突してくれれば好都合……!」
「直ちに決定をまとめた書状を作成し、ブルグンド公爵家へ最速の早馬を走らせましょう。幸い、公爵の次女であるセリア・アデライードは、代表候補たちの婚姻相手として王都に滞在される予定でした。公爵家としても、断る理由はありますまい」
王たちは邪悪な笑みを交わし、即座に書類の作成に取り掛かった。
* * *
一方、王城の勝手口から、力なくトボトボと歩き出てくる四人の影があった。
カイル、ミリーナ、シェリー、ジーモ。
つい数時間前まで、国の代表として栄光の未来を約束されていた若者たちだ。しかし、翔に完膚なきまでに叩きのめされ、代表候補にありながら強力な武具や従魔を手に入れられなかった彼らの肩は、これ以上ないほどに落ちていた。
「くそっ……! なんだよあの教師は……! あんな化け物、勝てるわけがないだろ……!」
カイルが悔しそうに拳を握りしめ、地面を殴りつけた。
「カイル、もうやめましょう……。私たちは負けたのよ」
ミリーナが暗い顔で呟く。
「これからはどうするの? ここに私たちの居場所なんて、もうないわよ」
「……行くぞ」
カイルは泥のついた顔を上げ、王都の大通りを見つめた。
「王都の冒険者ギルドへ戻る。そこからもう一度やり直しだ。いつか必ず、あの男を見返してやる……!」
四人は失意を胸に抱きながら、冷たい夕暮れの街へと消えていった。
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