第五十九話:強制タワマン同居
1.美魔女サロン『ミヨシ・ビューティー』の掌握と、強制タワマン同居
一方、現代日本の大阪・北区。
厳重な警備が敷かれた新事務所「ミヨシ・ホールディングス日本支部」からほど近い、高級住宅街の一角。
そこには、日本の警察キャリア幹部夫人や、政界の重鎮マダム、果ては大手芸能事務所の女性社長といった、日本の裏社会やトレンドを支配する「特権階級の女性たち」が、怪しげな、しかし狂おしいほどの熱気で集まる完全会員制の隠れ家サロンが設立されていた。
──『ミヨシ・ビューティー』──
主導したのは、ポーションと現代技術のコラボによって三十代前半(あるいは二十代後半)の美魔女へと若返った、4人の「主婦同盟」であった。
「ねえ、奥様。私のこの肌、本当にシワが一つもないでしょう?
『ミヨシ』の特製ローションを、この最新のナノ美顔器で浸透させるだけで、翌朝にはお肌の細胞が十歳以上若返るのよ。……ただし、会員権は一口一億円。完全紹介制ですわ」
柊の母親が、自慢の白く輝く肌を誇示しながら、政界の重鎮マダムに語りかける。
一億円という、常識外れの価格。普通なら「詐欺」と切り捨てられる額だが、実際に施術を受けた警察キャリア夫人の、見違えるような「奇跡の若返り」を目の当たりにしたマダムたちは、狂ったように財布を開いた。
「一億円なんて、私の美しさに比べれば端金よ! ミヨシさん、今すぐ会員権を一口、一括で振り込ませてちょうだい!」
「私もよ! 旦那の政党の裏資金を使ってでも、今すぐ若返らせて!」
一口一億円の会員権は、またたく間に政財界のトップ層マダムたちの間で完売。
アンチエイジングの「奇跡」を身をもって体験した彼女たちは、自らの若さと美しさを人質に取られたも同然となり、結果として『ミヨシ・ホールディングス』、そして駿たちを裏から守る「日本最強の絶対的な後ろ盾(防諜ネットワーク)」へと昇華していった。
「……でも、駿くん。一億円はさすがに高すぎて、本当に一部のトップ層しか買えないわ。
だから、もっと効率よく、世間の稼いでいる女性たちから定期的にお金を毟り取るための『廉価版サブスク』を開発したのよ!」
不破真司の母親が、新しい企画書を駿に提示した。
それは、希釈したポーションと、出力を抑えた「美肌浸透魔法陣美顔器」を用いた、月額100万円の『ミヨシ・サブスクリプション型プラン』であった。
「月100万なら、北新地の売れっ子No.1キャストや、SNSで数千万円を稼ぎ出す女性起業家、美容に命をかけるキャリアウーマンたちが、喜んで毎月支払い続けるわ。若さを維持するためのサブスク……これは毎月、数億から数十億円の『純利益』が、何もしなくても自動で口座に振り込まれ続ける、最高の集金システムよ!」
「なるほど……。おかんたち、ビジネスセンスが恐ろしすぎるわ」
駿は、マルチディスプレイに表示された、秒単位で増殖していくミヨシの預金口座の残高(JPY)を見つめ、投資家としてただただ圧倒されていた。
地球側の資金は、今や五百億円を超えつつある、異世界への「無限の課金」を完全に支える基盤が完成していた。
しかし、そんな巨大な富と影響力を手に入れた代償として、駿を襲ったのは、究極の「強制タワマン同居生活」であった。
「工作員の拉致未遂事件があった以上、蓮ちゃんと玲香ちゃんを一人で民間に置いておくわけにはいかないわ!
一番セキュリティが万全なのは、駿くんのあの梅田のタワマン要塞よ! だから今日から、三人で同居しなさい!」
主婦同盟の凄まじい「お節介」と、警察・公安の防犯ルートの根回しにより、駿の静かなプライベートスペースであったタワマンの広い一室は、朝から晩まで二人の若い女性の「熱気(と恋のバチバチ)」で満たされることとなった。
「駿さん! 朝のご飯ができましたよ! 今日は駿さんの大好きなスタミナ豚生姜焼きと、栄養バランス抜群の具だくさんお味噌汁です!」
「生活サポート(家庭的アプローチ)」を担当する不破玲香は、朝からエプロン姿で、駿のために完璧な栄養管理を行っていた。
彼女は、倉庫街での救出劇において、「自分のために青い雷を降らせて、敵を一瞬で全滅させてくれた王子様」として駿を完全に神格化しており、そのアプローチには一切の迷いも遠慮もなかった。
駿がリビングのソファに脱ぎ散らかした服を素早く回収して完璧に洗濯し、部屋の隅々までルンバ以上に綺麗に掃除する。
さらに、駿が仕事のデバッグやお風呂から上がってきた瞬間──。
「駿さん、今日もお疲れ様です! 肩、すごく凝ってますよ。ちょっと失礼しますね」
玲香は、お風呂上がりの駿の背後にぴったりと密着し、その豊かな胸の柔らかさを駿の背中にほんのりと押し付けながら、細く温かい指先で、首元や肩を優しくマッサージし始めた。
「あ、玲香ちゃん……。近い、近いって……」
「ふふ、駿さんが毎日頑張っているから、私のこの温もりで、お疲れを溶かしてあげるんです!」
アプローチに一切の容赦がない妹キャラの猛攻。
だが、それに負けてなるものかと、もう一人の美少女プログラマーが立ち上がった。
「……先輩。玲香さんの家庭的アプローチは、ただの原始的な肉体労働にすぎません。
脳の疲労を本当に回復させるのは、知的刺激と、私との『共同研究』の結晶です」
「開発サポート(知的アプローチ)」を掲げる名取蓮は、駿を引っ張るようにして、防音のサーバー室へと引きこもった。
蓮は、駿のすぐ隣、肩が常に触れ合うほどの超至近距離で、マイノートPCを開いて幾何学魔法陣の共同コーディングを深夜まで行っていた。
「先輩、ここのアルゴリズム……このトポロジー行列のねじれは、私と先輩の共同開発でしか到達できなかった、世界で唯一の『結晶』です。……ふふ、私たち、やっぱり最高の相棒ですね」
蓮はそう言いながら、作業中にわざと肩を駿に押し当てたり、駿が口をつけたコーヒーカップを、何気ないふりをしながら「間接キス」の角度でそっと口にして、お茶を濁した。不器用ながらも、顔を真っ赤にして必死にツンデレ・アプローチを展開する蓮。
「……はぁ。俺の安息はどこへ行ったんや……」
駿は、家庭的で献身的な玲香と、知的な相棒として不器用ながら必死に自分を求める蓮の二人から発せられる凄まじい熱量に挟まれ、毎日精神を削られていた。
だが、マッサージの心地よさに身を委ね、深夜のサーバー室で蓮と二人きりでコードを叩く懐かしい感覚に浸るうち──駿の冷徹な心の奥底は、二人の純粋な可愛さに、少しずつ、確実に「絆され」始めていたのだった。




