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投資家の弟、異世界の兄に課金して無双させる~スマホとスキルの経済チートで世界を買い取る~  作者: かぶんす


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第五十六話:逆転する課金システム

3.沈黙する親たちと、不気味な着信


数時間後、夜八時。

厳重な静脈認証で守られた「ミヨシ・ホールディングス日本支部」の応接室には、重苦しい、押し潰されそうなほどの静寂が満ちていた。


そこには、泣き崩れて夫の胸に顔を埋めている不破母と、それを支える不破父(警察幹部)の姿があった。

さらに、ただならぬ事態を聞きつけて駆けつけた柊家、水上家、橘家の親たち、すなわち「主婦同盟」の面々も、青ざめた表情でテーブルを囲んでいた。

我が子の異世界失踪に続き、現実に残された娘までが拉致されるという未曾有の異常事態に、彼らの精神は完全に限界を迎えていた。


「不破さん……警察の捜査網は、どうなっている……?」


水上の父親が、沈痛な面持ちで尋ねる。だが、警察幹部であるはずの不破父は、拳を血がにじむほど強く握り締め、ただ項垂れるしかなかった。


「……防犯カメラの映像は、特定の『外交特権』を持つ車両によって完全に遮断されている。奴らはプロだ。組織的な、国家規模の意思を感じる。現段階で、下手に警察を動かせば……玲香の命が保障できない」


その時だった。

不破父のポケットの中で、重々しい振動音とともに、プライベート用のスマートフォンが不気味に鳴り響いた。

着信画面には「非通知設定」の文字。


応接室の全員の視線が、その小さな画面へと集中する。


「……不破です」


不破父がスピーカーフォンをオンにして、震える声で応答した。

受話器の向こうから聞こえてきたのは、ノイズ混じりの、そしてどこか抑揚の乏しい片言の日本語だった。


『──フワ・レイカの父、およびミヨシの代表だな。よく聞け』


その声は、冷酷極まる意思を湛えていた。


『お前たちが裏ルートで流通させている、あの「奇跡の美容液(高位ポーション)」……。我々は、あれを高度に濃縮し、ある実験に使用した。……その結果、我が国の高官が事故で完全に失っていた「左手小指」が、骨組織ごと、ミリ単位で完璧に再生した』


「……なっ!?」


親たちが息を呑んだ。

高位ポーションの細胞活性化・肉体再生能力。それは、現代の最新医療プロセスを根底から覆す、まさに「神の領域」のチート薬液だった。


『あれはただの美容液ではない。国家の軍事バランスを、そして戦闘で欠損した兵士を無限に再生させる、最高峰の「戦略物資」だ。……我が国は、あの原液の製造レシピ、および原材料の独占権を、正式に採用することを決定した』


男は平然と言い放った。


『娘の不破玲香は、現在、我が国の極秘施設で保護している。……無事に返してほしくば、今から24時間以内に、あの美容液の「原液ポーション」を、一万本用意しろ。断れば、娘がどうなるか……言わずとも分かるな?』


「一万本……!? そんな、無茶な! あれは無尽蔵に用意できるものでは──」


不破父が叫びかけた瞬間、ツツツ……と一方的に通話が切られた。


応接室は、凍りついたような絶望に支配された。

ポーションの正体が異世界のチート物質である以上、一万本などという莫大な量を、たった一日で用意することなど天地がひっくり返っても不可能だった。

だが、用意できなければ玲香の命はない。


「……どうすればいいんだ。玲香、玲香……っ!」


不破母が涙を流して崩れ落ちる。不破父もまた、自らの無力さに、男泣きに頭を抱えて項垂れた。


(クソッ……! 完全に俺のミスや。ポーションの価値を、現代科学の製品として流通させる危険性を、俺は見誤っていた……!)


駿は奥歯を強く噛み締めた。

自身の投資家としての見積もりの甘さが、玲香を、そして不破家を地獄へと叩き落としたのだ。凄まじい焦燥感と自責の念が、駿の脳内を駆け巡る。


「……すんません。一度、席を外します」


駿は、誰にも表情を見せないよう、静かに応接室のドアを開けて外へと出た。

向かったのは、人気のない、防音結界が施されたサーバー室。


駿は左手を強く握り締め、心の中で、異世界にいる唯一の「半身」へと叫んだ。


(──兄貴! 兄貴、聞こえるか!? 今すぐ、今すぐ助けてくれ……!!)


4.逆転する課金システム


異世界──王都のブルグンド公爵邸、深夜の個室。


ベッドの上で瞑想していた三好翔は、脳内に直接響いてきた、かつてないほどに切羽詰まった駿の悲鳴のような念話を受け取り、弾かれたように目を開けた。


「──駿!? どうしたんだ、何があった!」


『玲香ちゃんが、ポーションに目をつけた現代の他国の工作員に拉致された……! 24時間以内に原液を一万本用意しろって脅迫されてる。でも、そんな数、そもそも用意できへん、絶対に無理や……! 兄貴、どうすればいい……! 警察も動かせん、俺の手元には何も……!』


駿の声は、完全に理性を失いかけていた。

翔はベッドから立ち上がり、冷徹なグレーの瞳をぎらりと光らせた。

教え子たちの家族が、日本で危機に晒されている。それを、この異世界の最強の熱血教師が黙って見過ごすはずがなかった。


「落ち着け、駿。パニックになるな。……解決策は必ずある」


翔は思考を高速で回転させた。

異世界から日本の拉致現場へ、直接翔がテレポートして助けに行くことは、現在の『つながる手』のレベルでは不可能だ。

ならば、日本にいる「駿自身」が、敵を蹂躙するほどの『圧倒的な暴力チート』を手に入れるしかない。


「駿、お前がいつも、俺のステータス画面をリアルタイムで監視している、あの『システム専用スマートフォン』……。あれを今すぐ、左手の『つながる手』で、こっち(異世界)に送れ!」


『え……!? スマホを、そっちに?』


「いいから早くしろ! 時間がない!」


『分かった、いくぞ!』


──すっ。


翔の左手のひらの上に、見慣れた黒い高機能スマートフォンが出現した。

翔はすぐさまスマートフォンの画面を起動し、システムの設定メニューをくまなくスワイプした。

翔の脳内に、無機質なシステム音声が鳴り響く。


【──警告:同期デバイスの物理的介入を検知しました──】

【デバイス管理者による、システム適合・属性の変更を申請しますか?】


「申請する! 対象は、日本にいる『三好駿』だ!」


翔はスマートフォンの画面上に、自身の魔力を指先から直接流し込み、複雑な魔法陣の適合コードを高速で書き換えていった。


【──『つながる手』の双方向権限を拡張します──】

【適合判定:逆転現象(Reverse System Sync)を確立】

【システムスマートフォンを介して、異世界側(三好翔)から、地球側(三好駿)への『システムショップ課金・能力適用』が可能になりました】


「よし、できた……!」


翔は不敵な笑みを浮かべた。

これまでは、地球の駿が日本のおマネーを使って、システムショップでチート装備を購入し、異世界の翔へと「仕送り(課金)」していた。

だが今、システムのバグとも呼べる逆転現象により、異世界の翔が、こちらで稼ぎ出した莫大な『金貨(ミヨシ・トレーディングの利益)』をシステムにブチ込むことで、地球の駿のステータスを爆発的に上昇させ、チートスキルを直接買い与える(リアル課金する)ことが可能になったのだ。

翔の左手の画面には、信じられないログが高速で流れていた。


【──対象:三好駿 ── ステータス同期完了──】

【基礎素早さ、体幹、および物理耐性を極限まで底上げしました】


「……なんだ、これ。身体が、信じられんほど熱い……!」


駿は自身の両手を見つめた。

身体の奥底から、かつて感じたことのないほどの、宇宙の法則をねじ曲げるような膨大な「魔力」と「物理的パワー」が、津波のように溢れ出してくる。


『──駿、俺の声が聞こえるか?』


翔の頼もしい声が、脳内に響く。


『今から、俺がそっちのスマホのショップから、玲香ちゃんを救い出すための「最強のチート能力一式」を課金して適用する。お前は今すぐ応接室に戻って、不破のおじさんに「時間稼ぎの交渉」をさせるんだ!』


「交渉……? なんて言えばいい?」


『相手が望むポーションの個数に関わらず、こう言わせるんだ。

「2個なら明日、すぐに指定の場所へ納品できる。だが、それ以上の調達には、明後日まで時間がかかる」とな』


駿は一瞬で、兄のその作戦の意図を理解した。

投資家としての冷徹な脳が、再び高速でギヤを噛み合わせる。


「なるほど……。一万本という非現実的な要求に対し、あえて『2個』という現実的な数字を即座に提示することで、相手に『ポーションは本当に実在し、小出しになら調達できる』という強烈な餌を植え付けるわけやな。相手は玲香ちゃんを人質として生かしたまま、次の交渉に乗るしかない」


『そうだ。その隙に、お前が直接、敵のアジトへ突入して全員ぶち殺す。……いくぞ、駿!』


「ああ、頼むわ、兄貴!」

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