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投資家の弟、異世界の兄に課金して無双させる~スマホとスキルの経済チートで世界を買い取る~  作者: かぶんす


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第五十五話:世界間通信と弟の受難、消えた足跡

1.世界間通信と、弟の受難へのからかい


その日の深夜、公爵邸の静まり返った個室。

翔は、ベッドに腰掛けながら、ポケットの中で震えだしたスマートフォンを取り出し、画面に映し出された駿の、これまでにないほどに「魂が抜けかけたような表情」を見て、怪訝そうに首をかしげた。


「──駿。どうした、その顔は。また徹夜でデバッグでもしていたのか?」

『……ちゃうわ、兄貴。デバッグなんかより、何百倍も精神を削られる「天災」が、こっちで巻き起こっとるんや……』


脳内に響く駿の声は、もはや幽霊のようによれよれだった。


「天災?」

『ああ。新事務所に怪しいスパイの影が忍び寄り始めてな。おかんたちの安全対策の暴走で、名取蓮と、不破真司の姉貴(玲香ちゃん)の二人が、明日から俺のタワマンに「共同生活(避難)」として転がり込んでくることになったんや……』


翔は一瞬、目を点にした。

そして、日本側の状況を察し、なんとも言えない楽しそうな、最高に意地の悪い苦笑いを浮かべた。


「……なるほどな、駿」

翔は、ベッドのヘッドボードに背中を預け、からかうように微笑んだ。


「お前は昔から、要領が良くて、何でも一人でスマートにこなしてきたからな。たまには、そうやって賑やかな美少女たちに左右から揉みくちゃにされるのも、良い人生経験だ。お母様(主婦同盟)たちの言う通り、二人とも本当に素晴らしい子たちなんだから、お前が責任を持って、二人まとめて幸せにしてやればいいじゃないか」


『──兄貴、他人事やと思って、めちゃくちゃ楽しそうに煽りよるな!』

念話の向こうの駿が、真っ赤になって叫ぶ。


「ははは、因果応報だ。いつも俺を令嬢たちのことでからかっていただろう。……まあ、お前も『最後の一線』だけは、くれぐれも死守するんだぞ? おかんたちの包囲網、課金防御でも心までは守れないからな」


『うるさいわ、この熱血教師め! ……まあ、そっちは次の10階層の本番、無事に突破できたみたいで安心したわ。先行の代表候補とかいう連中、カイルたちとは別格らしいから、くれぐれも気ぃつけや』


「ああ、分かっている。頼もしい弟よ、お前もタワマンでの生活、しっかりな」


奇跡の「世界間リアルタイム通信」は、双子の兄弟の、お互いの甘酸っぱくも深刻な『受難』を笑い合う、温かい笑い声の中で、賑やかに幕を閉じたのだった。

混迷を極める両界の運命。札束とテクノロジーで世界を支配する彼らの課金無双は、地球側での本格的な「同居サバイバル(?)」の幕開けを得て、いよいよ世界を恋愛と経済から支配する、混沌の次なる段階へと突入していくのだった。


2.引っ越しの喧騒と、消えたサクラ色の足跡


大阪・北区。

梅田の喧騒から少し離れた、厳重なセキュリティを誇る新事務所「ミヨシ・ホールディングス日本支部」の上層階。

そのワンフロアには、業務用の開発エリアとは別に、駿たちが緊急時の仮眠やプライベートな作業を行うための居住スペースが併設されていた。


「よし、これで私の開発用ラックと資料の搬入は完了ね」


名取蓮が、少し汗を浮かべた額を腕で拭いながら、満足そうに丸眼鏡を押し上げた。

彼女はすでに、駿のマンションの空き部屋へ必要最低限の荷物を運び終えており、実質的な「寝食を共にする開発体制」を確立させていた。


だが、この日はもう一人、別の意味で「人生の引っ越し」を敢行しようとしている女性がいた。


不破玲香。

不破真司の実の姉であり、タワマンでの運命的な出会い以来、駿に猛烈なアプローチを仕掛け続けている現役女子大生である。

彼女の実家には、長年溜め込んだ大量の衣類や私物、そして大学の講義資料があり、本日はその本番の引っ越し日であった。


「駿さん、蓮さん! 本当に手伝っていただいてありがとうございます!」


不破玲香が、サクラ色のポロシャツにデニムという動きやすい服装で、実家の部屋から段ボール箱を抱えて嬉しそうに微笑んだ。

実家から新事務所の居住エリアへとピストン輸送するSUVの車内で、蓮と玲香のバチバチとした静かな火花は、すでに火薬庫並みの熱量を帯びていた。


「玲香さん、段ボールのパッキングが甘いです。底が十字にテープ止めされていないと、

積載時に崩壊する危険性があります。数学的に頑健なパッキングを推奨します」


「あら、蓮さん。私は『駿さんが運びやすいように』軽めのものだけをまとめて、角を丸く保護しているのよ。男の子の優しさに頼るのも、立派な引っ越しの『技術』よ?」


「……無駄な工数と非効率な役割分担は、プロジェクトの遅延を招くだけです」


助手席と後部座席で繰り広げられる高度なマウンティング合戦を、運転席の駿は「はぁ……」と生温かい目で見守るしかなかった。


昼過ぎ。不破の実家での荷物の搬出作業が一段落した頃。


「あ、私、ちょっと近くのコンビニまで、みんなの冷たい飲み物とアイスクリームを買ってきますね! 駿さん、何のアイスがいいですか?」


「俺はなんでもええよ。すまんな、玲香ちゃん」


「ふふ、任せてください! すぐに戻りますから!」


玲香は嬉しそうにパタパタと手を叩き、玄関から小走りで出ていった。


──だが、それが全ての悪夢の始まりだった。


玲香が出ていってから、30分が経過した。

不破の実家の片付けをしていた不破母が、エプロン姿で首をかしげながらリビングに入ってきた。


「あら、駿くん。玲香、遅いわね? 近くのコンビニなんて、歩いて往復5分もかからないはずだけど……。何か珍しいお菓子でも選んでるのかしら」


「……さすがに遅すぎるな。蓮、ちょっと様子見てくるわ」


「はい、先輩。私も同行します」


駿と蓮は、玲香が向かったとされる大通り沿いのコンビニへと続く、静かな住宅街の舗装路を歩き出した。

初夏の生温かい風が通りを吹き抜ける中、駿の投資家としての、そして『つながる手』を通じて異世界の死線を感じ取ってきた野生の勘が、尋常ならざる警鐘を鳴らし始めていた。


「先輩……あれ」


蓮が、アスファルトの路地裏の角を指さした。


住宅街の電柱の陰。その綺麗に整備された路肩に、ぽつんと「片方だけ」転がっているサクラ色のスニーカーがあった。

それは間違いなく、さっきまで玲香が履いていた、彼女のお気に入りの靴だった。


駿はスッと片膝を突き、その靴を拾い上げた。

靴底にはアスファルトに強く擦り付けられたような、不自然なゴムの摩擦痕が残っている。さらに、そのすぐ近くの側溝のコンクリートには、何者かが玲香を無理やり車へと押し込んだ際についたと思われる、乱暴なタイヤのブレーキ痕が刻まれていた。


「……連れ去られた」


駿の端正なハーフ顔が、一瞬にして極限まで冷たく凍りついた。

切れ長の瞳の奥に、かつてないほどの激しい怒りと焦燥の炎が宿る。


「蓮、おばさんに連絡や。玲香ちゃんが、何者かに拉致された」


「っ……はい、すぐに!」


蓮は震える手でスマートフォンを取り出し、不破母へとダイヤルを回した。

平和な現代日本において、突如として牙を剥いた「牙の洞窟」以上の暴力の気配。

駿はスニーカーを固く握り締め、梅田の空を見上げた。


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