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投資家の弟、異世界の兄に課金して無双させる~スマホとスキルの経済チートで世界を買い取る~  作者: かぶんす


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第五十二話:無自覚な抱き枕の翌朝

1.無自覚な抱き枕の翌朝、侍女の艶やかな変化


王都のブルグンド公爵邸に、小鳥のさえずりと共にひんやりとした朝の光が差し込む。


「う、頭が重いな……。さすがに日本の缶ビール二本は効いたか……」


寝返りを打った三好翔は、自分のベッドの異常な「柔らかさ」と、鼻腔をくすぐる妙に甘いフルーティーな香りに、うっすらと目を開けた。

いつもなら、フカフカではあるが少々無機質なシーツの感触があるはずだ。しかし、いま翔の腕の中に収まっているのは、驚くほどしなやかで、温かく、そして触れるだけで指先がとろけてしまいそうなほど滑らかな「何か」であった。


「……んぅ……」


腕の中から、小さく、そしてひどく色っぽい吐息が漏れる。

翔がハッとして視線を落とすと、そこには薄手のシーツに包まれ、翔のグレーのTシャツに顔を埋めるようにして、すやすやと眠りこけているアイリスの姿があった。

彼女の豊かな黒髪はシーツの上に乱れ、はだけた襟元から覗く白いデコルテが、朝日に照らされてサクラ色に輝いている。さらに、翔の長い脚が、彼女の細い太ももの間に無意識にしっかりと絡みついており、逃げ場を完全に奪う形でガッチリと抱きしめていた。


「──ッ!?!?」


翔の脳内から、一瞬でアルコールの霧が吹き飛んだ。

昨日、駿との長時間の晩酌で泥酔し、ベッドに入ったところまでは覚えている。だが、なぜアデライードの侍女であるアイリスが、自分のベッドの中で「極上の抱き枕」として収まっているのか、記憶が完全に白紙だった。


(お、おいおいおい! 俺は、俺は何をやらかしたんだ!? 教育者として、一人の男として、最後の一線は……衣服は……よし、着ている! お互いに着ている! セーフ、セーフだが……アウトだろこれ!)


翔が頭を抱え、冷や汗を流しながら、彼女を傷つけないよう慎重に腕と脚を解こうとした、まさにその瞬間だった。

アイリスの長い睫毛がかすかに震え、ゆっくりと、その深い黒い瞳が開かれた。


「あ……。翔、様……」


目が合った瞬間、アイリスの顔が、まるで熟したリンゴのように耳の裏まで真っ赤に染まった。

彼女は自分が翔の逞しい胸板に抱きしめられ、彼の男らしい体温に一晩中包まれていた現実を思い出し、小さな手で口元を覆って身を縮めた。


「す、すみません、アイリスさん! 完全に泥酔していて、私は無自覚にあなたを……! 怪我はありませんか!? 不快な思いをさせてしまって──」

「い、いいえ……!」


アイリスは蚊の鳴くような声で囁き、シーツを胸元まで引き上げた。


「……翔様の手、すごく、温かかったですわ。……あ、あの、昨晩お持ちしたお茶のカップを、片付けなければいけませんので……失礼、いたします……っ」


アイリスは、シーツを体に巻き付けたまま、弾かれたようにベッドから飛び出すと、顔を真っ赤にしたまま、小走りで部屋から逃げ出していった。

後に残された翔は、自分の両手を見つめ、「俺は、一晩中、あのアイリスさんを撫で回していたのか……。終わった。公爵にバレたら、今度こそ大剣で縦真っ二つに斬られる……」と、絶望の中で天を仰ぐしかなかった。


だが、ハプニングの「本当の影響」は、その日の朝食の席で現れた。


「翔様、お茶のお代わりはいかがですか?」


食堂に現れたアイリスは、翔と目が合うたびに、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてうつむいた。

しかし、お茶を淹れるために翔の傍らに寄り添った際、普段なら一定の距離を保つはずの彼女が、アデライードやベアトリーチェの目を盗んで、翔のシャツの襟元を直すふりをしながら、翔の首筋にそっと指先を滑らせたのだ。

さらに、カップを置く瞬間、アイリスの白く細い指先が、翔の大きな手の甲に、すっ、と熱を帯びた様子で、愛おしそうに触れた。


おっとりとした微笑みの中に、どこか「他者には越えられない一線(朝まで共に過ごした実績)」を経験した者にしか出せない、艶やかな勝者の余裕。

そのアイリスの微細な変化を、恋する乙女たちの鋭い嗅覚が、見逃すはずがなかった。


「……ねえ、ベアトリーチェ。あなたも感じるかしら?」


アデライードが、お茶のフォークを握りしめながら、隣のベアトリーチェに低く囁いた。


「ええ、アデライード。……アイリス、最近なんだか、雰囲気が艶っぽくなっている気がいたしますわね。肌がサクラ色に上気して、翔様を見つめる視線が、妙に熱を帯びていますわ……」


ベアトリーチェも、サクラ色のプルプルの唇を歪め、給仕をしているアイリスの背中を、鋭い品定めするような目で見つめていた。


「アイリス。あなた、昨日の夜、翔様のお部屋へ『加湿用の魔法道具』を届けに行ったきり、戻るのがずいぶんと遅かったけれど……何か、特別なことでもありましたの?」


アデライードの、底冷えするようなツリ目の尋問に、アイリスはハッとして手元を震わせながらも、この上なく上品で、おっとりとした微笑みを浮かべてみせた。


「あら、アデライード様。……ただ、翔様のお疲れを癒すための、ほんの少しの『おもてなし(抱き枕)』をさせていただいただけですわ。……ふふ、翔様は本当に、お優しいお方ですものね」


「お、おもてなしぃぃっ!?」

「翔様、アイリスに何をさせましたの!?」


アデライードとベアトリーチェがガタッと椅子を鳴らして立ち上がり、翔に向けて「説明しなさい!」と凄まじい嫉妬の視線を向けた。翔は、カップを持つ手をピキリと硬直させ、ただ気まずそうに視線を逸らすことしかできなかった。

公爵邸の朝は、一人の侍女が放つ「勝者の余裕」によって、早くも一触即発の恋の戦場と化していた。


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