第三十八話:王都の陰謀、令嬢の艶姿
2.王都の陰謀と、映像(現代技術)による報復
一方、異世界──ブルグンド公爵領。
公爵城の重厚な作戦会議室において、翔、ブルグンド公爵、そしてカノーヴァ伯爵(通信用の遠隔魔導書を介して同席)の三人は、冷徹な表情でテーブルを囲んでいた。
「──ヘンドリックス侯爵め。我が公爵領のダンジョンへ、自らの直属である暗殺ギルド『黒の牙』を差し向けていたとはな」
公爵が、極太の指でテーブルを激しく叩き、怒りをあらわにした。
昨夜、捕縛した『黒の牙』のリーダーに対し、公爵領の厳しい尋問が行われた結果、彼らが王都の過激派主戦派・ヘンドリックス侯爵から「異世界の教師(翔)と生徒たち、および裏切り者のカイルたち4人をダンジョンの事故に見せかけて暗殺せよ」との命令を受けていたことが完全に裏付けられたのだ。
「公爵閣下。そして伯爵閣下」
翔が静かに口を開いた。その手には、一台の黒いスマートフォンが握られている。
「ただ彼らの自白を王都へ送っても、ヘンドリックス侯爵は『言いがかりだ』『北部の野蛮人どもが我らを陥れるための捏造だ』と言い逃れをするでしょう。……ですが、私には『現代の魔法』があります」
「現代の魔法、だと?」
カノーヴァ伯爵が、通信用の魔導書から不思議そうに尋ねる。
「はい。私は昨日の戦いにおいて、彼らがヘンドリックス侯爵の名前を口にし、襲撃してきたその瞬間、および尋問でのリーダーの告白を、すべてこの板に『映像』と『音声』として完璧に記録しました」
翔がスマートフォンの再生ボタンを押すと、作戦会議室の虚空に、昨日『黒の牙』が犯行声明とも言える侯爵の命令を叫んだ場面が、あまりにも鮮明な3Dの「映像」と「音声」として浮かび上がった。
「な、何だこの魔法は……!? 昨日の出来事が、まるで本物の幻影のように目の前で再現されている……!」
公爵が驚愕のあまり椅子から腰を浮かせた。
「これは『ビデオレコーダー』という、捏造が一切不可能な動かぬ証拠です。これを、王都のヘンドリックス侯爵と敵対している他派閥の貴族たち、および国王アルトリウスに、公爵閣下と伯爵閣下の公式な『糾問書状』と共に突きつけるのです。
『王国の至宝である異界の賓客、およびブルグンド・カノーヴァの両家を私兵によって急襲した、明らかな反逆行為である』と。
これだけの動かぬ証拠があれば、王都のいかなる政治屋も侯爵を庇うことはできません。彼は一瞬にして政治的に孤立し、失脚へと追い込まれるでしょう」
さらに、翔は不敵な笑みを浮かべた。
「そして仕上げです。我が『ミヨシ・トレーディング』がこれから展開する、鉛を含まない日本の最高級化粧品や、精巧なガラス製品。これらの『北部限定・独占販売品』の流通を、ヘンドリックス侯爵の一族、および彼の派閥に属するすべての貴族に対して『全面的な取引禁止(禁輸)』とします。
侯爵派の貴族の夫人たちが、他の夫人たちがプルプルの美肌になっていくのを横目に、自分たちだけが取り残される。これは、どのような物理的な暴力よりも、貴族社会において強烈な『経済的・精神的制裁』になります」
「……クックック、ハハハハ!」
公爵は、あまりのスマートで冷酷な報復プランに、お腹を抱えて豪快に笑い出した。
「実に見事だ、三好翔! 映像という言い逃れのできない証拠で首を絞め、女たちの見栄と物欲を利用して侯爵の派閥を経済的に干からびさせるというのか! 政治的な暴力など、お主のその知性に比べれば生ぬるいな!」
『素晴らしい提案です、翔殿。カノーヴァ家も全面的にその方針に乗りましょう。ヘンドリックスの派閥に属する軟弱な貴族どもを、王都から一掃する好機ですな』
遠隔の魔導書から、カノーヴァ伯爵もこの上なく冷酷で満足そうな笑い声を響かせた。
こうして、現代のテクノロジーと経済封鎖を組み合わせた「ヘンドリックス侯爵への冷徹な報復」が、極秘裏に開始されるのだった。
3.鏡花とほのかの「エッチな悪戯」と、翔の怒り
その日の夜、嵐のような政治の時間が終わり、翔が自分の個室で、次のダンジョン『牙の洞窟』のボス部屋攻略のシミュレーションを行っていた、まさにその時だった。
コン、コン……と、部屋のドアが非常に控えめに、しかしどこか落ち着きのない様子でノックされた。
「……? はい、どうぞ。開いてますよ」
翔が顔を上げると、静かにドアが開いた。
そこに立っていたのは、アデライードとベアトリーチェの令嬢二人だった。
だが──。
「──ッ!?」
翔は持っていたペンを床に落とし、驚愕のあまり椅子から飛び上がった。
そこにいたのは、いつもの格式高いドレスを身にまとった気高き令嬢たちではなかった。
アデライードは、日本の駿が「おかんたちの仕送り物資」に紛れ込ませていた、驚くほど柔らかく、かつ身体のラインを驚くほど強調する、少しシースルーなピンク色の『ジェラートピケ風ルームウェア(ショートパンツ仕様)』を着ていた。白い細い太ももが惜しげもなく晒され、鎖骨のラインが艶っぽく見えている。
ベアトリーチェは、さらに過激な、光沢のあるサクラ色のシルクのスリップパジャマを身につけており、その豊かな胸元が、屈むたびに見えそうになるほど大胆に開いていた。
二人とも、顔が耳まで真っ赤に染まっており、お互いの露出度の高い格好を恥じるように、もじもじと身を縮めている。
「しょ、翔様……。その、夜風が冷えるので……お茶でも、と思いまして……」
アデライードが、日本の可愛い部屋着を着こなしながら、潤んだツリ目で翔を上目遣いに見つめる。
「は、はい……。翔様、このような、日本の『勝負パジャマ』というものは、本当に少し……涼しいのですね……」
ベアトリーチェも、大きな胸元を手で押さえながら、恥ずかしそうに吐息を漏らした。
(お、おいおいおい……! これはいくら何でも過激すぎるだろ! なんで二人がこんな日本の勝負服を着て俺の部屋に突入してきてるんだ!?)
翔は鼻血が出そうなのを必死に堪え、冷や汗を流しながら頭をフル回転させた。
このような「突飛で過激なアプローチ」を、あの箱入り娘たちが自ら思いつくはずがない。背後にいる黒幕は、一人(いや、二人)しかいなかった。
「……アデライード様、ベアトリーチェ様。その服、誰に借りたんですか?」
「え……? ええと、柊の鏡花さんと、橘のほのかさんに『日本の男の子は、これを着てお部屋に突入すれば、一瞬であなたの虜になって、最後の一線なんて簡単に越えちゃうんだから!』って、お勧めされて……」
(──あのバカどもめ、絶対に許さん!!!)
翔は額に青筋を浮かべ、即座に立ち上がった。
「アデライード様、ベアトリーチェ様。服を、今すぐいつものドレスに着替えてください。……話はそれからです」
翔は怒濤の勢いで鏡花とほのかの部屋へと向かい、ドアをノックすら忘れて開け放った。そこには、「今頃、翔先生、鼻血出して倒れてるかなー?」「アデライードちゃんたちの可愛い部屋着姿、マジで見たかったなー!」と、ゲラゲラ笑いながらスナック菓子を食べていた女子二人の姿があった。
「──柊鏡花。橘ほのか。ちょっと、こっちへ来い」
「「ひゃ、ひゃいいいぃぃっ!?」」
翔の、教師生活の中でかつてないほどに冷徹で怒りを湛えたグレーの瞳に射すくめられ、二人は一瞬で魂が抜けたように硬直した。
約2週間1日2話投稿でやってきましたが、ストックが尽きつつありますので明日から1日1話に変更します。
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