第三十七話:主婦同盟の若返りと『ミヨシホールディングス』設立
1.ポーションの奇跡と、主婦同盟の若返り
新事務所の選定が動き出す中、主婦同盟は、もう一つの「劇的な検証成果」を駿に報告した。
「ねえ、駿くん。この前、異世界から送ってもらった治癒ポーション(回復薬)なんだけど……。私たちの手で、もっと凄い効果が実証されたのよ!」
橘ほのかの母親が、信じられないほどプルプルと輝く自分の頬を指さしながら、興奮気味に言った。
「凄い効果、ですか?」
駿が尋ねると、柊の母親が資料を差し出した。
「ええ。ポーションが細胞を『ゼロの状態(健康な状態)』に戻すプロセスを、現代の美容皮膚科やナノテクノロジーの技術と組み合わせてみたの。具体的には、市販の超音波導入美顔器や、成分の浸透率を極限まで高めるナノカプセル化処方を施して、肌の奥深くへ浸透させてみたところ……」
「浸透させてみたら、どうなったんです?」
「信じられないことに、シミやシワ、たるみが……一瞬で消えたのよ! ただ傷を治すだけじゃない、経年劣化による細胞の衰えそのものを『巻き戻す』、本物のアンチエイジング効果が発揮されたの!」
主婦同盟の母親たちは、皆一様に、前とは見違えるほどに肌が白く、シワが消え、まるで三十代前半(あるいは二十代後半)のような、凄まじい美魔女へと若返っていた。
「私の主人がね……。土曜日の夜、私の顔を見るなり『おい、お前、最近急に十歳以上若返ってないか……? どこの美容整形にいくら使ったんだ!』って、目を丸くして驚いて、大喜びしたのよ!」
不破の母親が嬉しそうにクスクスと笑う。他の母親たちも「私も主人が優しくなったわ!」「旦那の警察署内でも『奥さんが急に美人になった』って噂になってるらしいの!」と、大はしゃぎだった。
「なるほど……。高位のポーションを、地球の現代技術でさらにブーストするわけか。これは……美容サロンビジネスとして展開すれば、一口数億円でも、世界中の富豪のマダムたちが喉から手が出るほど欲しがるな」
駿は、その圧倒的な市場価値に、投資家としての目が冷徹に光るのを感じた。
「世間で受け入れられる魔法陣の製品としては、まずはこの『美肌浸透魔法陣(現代技術とのコラボ)』、それから『スマートフォンの超電導・超省エネ充電シート』の二つのラインで、新事務所を拠点にして極秘裏に製造を開始しましょう。怪しまれないよう、政財界のトップ層への裏コネクションから流していくのが最も安全です」
「任せなさい、駿くん! 私たちの旦那たちの警察・行政のツテと、マダム人脈をフル活用して、完璧な『ミヨシ・トレーディング地球支部』のセキュリティを構築してみせるわ!」
地球側の主婦同盟は、我が子の安全と、翔を支える資金を稼ぐため、恐るべきモチベーションで新事務所への移転、そして世界を裏から揺るがす「美容・技術利権」の獲得へと、力強く動き出すのだった。
2.新事務所「ミヨシ・ホールディングス」の設立
大阪・北区。
梅田の超一等地から少し離れた、静かだが厳重な警備が敷かれた新築のオフィスビル。その最上階ワンフロアを、三好駿は「主婦同盟」の恐るべきネットワークを使って、驚くほど迅速に丸ごと借り上げていた。
「どう、駿くん! ここならエントランスは静脈認証だし、エレベーターもカードキーがないと最上階には止まらないわ。それに、地元の警察署がすぐそこだから、セキュリティは日本一よ!」
不破真司の母親が、頼もしく胸を張った。
彼女の夫が警察幹部であること、そして柊や橘の父親たちが地元の政財界や行政に持つ太いコネクションをフルに活用した結果、ただの「ハーフの若手投資家の事務所」としては異例すぎるほどの超高セキュリティ要塞、すなわち『ミヨシ・ホールディングス(仮)』が爆誕したのだ。
広々とした執務室には、最新のマルチディスプレイ、幾何学パターンのAI解析用のサーバーラック、そして主婦たちがテキパキと作業をするためのトレース用PCが十数台並んでいる。
「すごいです、おばさんたち……。ここなら、私の大学の研究室よりも何倍も快適に開発ができます」
名取蓮が、新品の人間工学チェアに深く座り、満足そうに丸眼鏡を押し上げた。
「蓮ちゃん、遠慮せずにどんどん使いなさいね。……はい、これは玲香ちゃんが焼いてきてくれた、駿くんへのマフィンよ!」
柊の母親が、不破玲香の差し出した可愛らしいラッピングの施されたバスケットを駿に手渡した。
「駿さん、お疲れ様です! これ、駿さんが好きな甘さ控えめのチョコレートチップを入れて焼いたんです。デバッグでお疲れでしょうから、ぜひ食べてください!」
玲香が、頬をサクラ色に染めて駿を上目遣いで見つめる。
「あ、ありがとう、玲香ちゃん。いただきます」
駿がマフィンを一口かじると、玲香は嬉しそうにパタパタと手を叩いた。
だが、その様子を横目で睨みつけていた蓮が、キーボードを叩く速度を無駄に高速化させながら、冷ややかな声を上げた。
「玲香さん、駿先輩はこれから、魔法陣の第一次解析コードを現代の『超伝導応用バッテリー回路』へ落とし込む、極めて精密な作業に入るんです。糖分の過剰摂取は脳のパフォーマンスを低下させますから、そのあたり、少しは配慮した方がよろしいかと思います」
「何ですって? 蓮さん。マフィンに含まれるブドウ糖は、脳の唯一のエネルギー源よ? 徹夜仕事の駿さんにはこれが一番必要なの! それとも、蓮さんは駿さんに栄養失調になってほしいの!?」
「いいえ。私はただ、無駄なアプローチで先輩の作業領域を侵食しないでほしいと言っているだけです。私たちは『最高の共同開発者』なんですから」
「共同開発者って、ただの仕事仲間でしょ!? 私は駿さんの『プライベートな健康』をサポートしてるの!」
バチ、バチ、バチ……!
新事務所の真ん中で、早くも凄まじい「恋の鞘当て」の火花が散り始める。
(……はぁ。タワマンを逃げ出してきたはずやのに、結局ここでも俺のプライベートな安息はゼロやないか……。主婦のネットワークが有能すぎて、事務所から一歩も逃げ出せへんし……)
駿は首筋を掻きながら、小さくため息をついた。
だが、主婦同盟の活動はそれだけに留まらなかった。
「ねえ、駿くん。この前、高位のポーションをナノカプセル化美顔器で浸透させる実験をしたじゃない?」
橘ほのかの母親が、驚くほど白く、シワ一つないプルプルの頬を指さしながら、興奮気味に言った。
「ええ。シミやシワが消えたって喜んでましたね」
「そうなのよ! 実はね、私の主人がね、土曜日の夜に私の顔を見て、腰を抜かして驚いたの。『おい、お前、最近急に二十代に戻ってないか!? どこの怪しい美容整形にいくら使ったんだ!』って。旦那の警察署内でも『奥さんが急に美魔女になった』って、大噂になってるらしいのよ!」
「私の主人のところでもそうよ!」と、柊や水上の母親たちも、まるで三十代前半にまで若返ったかのような、信じられないほどの美しさを湛えて大はしゃぎしていた。
「なるほど……。この『美肌浸透魔法陣』と『高位ポーション』を組み合わせたサロンビジネス。これなら、裏の政財界のトップ層マダムたちに一口数億円で会員権を売れば、あっと言う間に翔兄貴の向こうでの資金、そして俺たちの開発予算が数千億円規模で回収できますね」
駿の投資家としての冷徹な目が、不敵にぎらりと光った。
「よし、おばさんたち。まずはこの『美肌サロン(極秘)』の店舗を近くに借りましょう。怪しまれないよう、地元の警察・政界マダムたちの裏ルートから流していくのが最も安全です」
「任せなさい、駿くん! 私たちの人脈をフル活用して、完璧な『ミヨシ・ホールディングス』を構築してみせるわ!」
地球側の主婦同盟、そして蓮と玲香の二人は、それぞれの「目的(我が子の救済と、駿へのアプローチ)」のために、凄まじい機動力で動き出すのだった。




