第三十五話:天啓の魔石、影からの襲撃
6.天啓の魔石の授与と、支援の同盟
その日の午後、公爵の執務室において、ブルグンド公爵、カノーヴァ伯爵が同席する中、特別な「授与式」が行われた。
「カイル、ミリーナ、シェリー、ジーモ。お前たちが本当の敗北を知り、一から這い上がる覚悟を決めたこと、心から嬉しく思うぞ」
公爵が豪快に笑い、カノーヴァ伯爵も満足そうに頷いた。
「さあ、カイル君。約束通り、君たちがこれから強くなるための『新たな手段』を渡そう」
翔はスッと左手を差し出した。
──すっ。
静かな空間の歪みとともに、翔の掌の上に、四つの不気味な紫色の輝きを放つ結晶──『天啓の魔石』が出現した。
これは、日本のタワマンで駿と名取蓮が 15日間の成果として、魔石の波動パターンのハッキングとトポロジー幾何学的再現に成功し、日本側のルート(システム)を通じて調達・複製した最高難度のチート結晶だった。翔の左手へと直接転送されてきたのだ。
「これは……『天啓の魔石』!? しかも、こんな瞬時に四つも……!」
魔術師であるミリーナが、その圧倒的な魔力の波動に驚愕の声をあげる。
「そうだ。これを使えば、肉体のステータスは上がらないが、君たちの持つ固有スキル(ソフトウェア)を爆発的に進化させる『固有スキル』が手に入る。受け取りなさい」
四人は震える手で魔石を受け取り、それぞれの胸元へと強く押し当てた。ドクン、と室内に魔力の共鳴音が響き渡る。
【──カイル:固有スキル『限界突破』を獲得──】
【──ミリーナ:固有スキル『多重詠唱』を獲得──】
【──シェリー:固有スキル『神速回復』を獲得──】
【──ジーモ:固有スキル『剛力無双』を獲得──】
「す、すごい……! 魔力の流れが、これまでの数倍の速度で脳内を駆け巡っている……!」
ミリーナが己の杖を見つめてあ然とする。
「これなら、俺の剣技をさらに高みへと引き上げられる……! 先生、俺たち、やれます!」
カイルの瞳に、再起の炎がぎらぎらと燃え上がった。公爵は、翔の『つながる手』による魔石の即時召喚を目の当たりにし、ゴクリと唾を呑み込んだ。
「……相変わらず、とんでもないチート能力だな、翔殿。よし、お主たちのダンジョン遠征、我が公爵家、およびカノーヴァ伯爵家が全面的に支援しよう! 最新の物資、飾りの騎士グスタフらを同行させ、『牙の洞窟』への挑戦を許可する!」
こうして、地球の生徒 4人と、新たな力を得た元代表候補 4人による、最強の「合同実戦チーム」が結成された。
7.牙の洞窟の激闘と、王都他派閥の刺客
翌々日。
霧が立ち込める険しい山中を進み、一行は初級〜中級ダンジョン『牙の洞窟』へと足を踏み切った。
「よし、フォーメーション展開! 陽斗とカイルが前衛、真司とジーモが肉壁だ! ほのかとミリーナは後方から魔法支援、鏡花とシェリーは遊撃と回復を担え!」
翔の鋭い指揮のもと、8人の若者たちが息の合った動きでダンジョンを進む。
「グガァァァッ!」
暗闇から、体長三メートルを超える『アーマードベア』や、素早い『シャドウウルフ』の群れが次々と襲いかかる。
しかし、15日間の科学的トレーニングによって鍛え抜かれた生徒たちの肉体、および魔石によってスキルを進化させたカイルたちのコンビネーションは、圧倒的だった。
「いくぞ、陽斗! 『限界突破』──『迅雷斬り』!」
「合わせるぜ、カイル! 『迅雷の刃』」
二人の超高速の剣撃が完璧にシンクロし、アーマードベアの頑丈な毛皮を一瞬で両断した。
「はぁぁぁっ! 『多重詠唱』──『トリプル・ファイアボール』!」
「私も負けない! 『大魔導』──『ウィンド・カッター』!」
ミリーナとほのかの、息を呑むような大魔法の連打が洞窟を真っ赤に染め上げ、迫り来る魔物の群れを瞬時に灰へと変えていく。
水分補給には、大塚製薬の粉末ポカリスエットを水に溶かしたドリンクを摂取し、エネルギー切れにはマルトデキストリンを補給する。
「……信じられない。これほど動き回っているのに、全く身体が重くならない……。これが、翔先生の『科学的栄養補給』の効果なのか……!」
ジーモが大槌を軽々と振り回しながら、驚愕の声をあげる。
実戦訓練は、これ以上ないほど順調に進み、一同はダンジョンの最深部(ボス部屋)の手前である、広々とした地下ドームへと到着した。
だが、その瞬間──。
翔の『絶対障壁』のセンサー、長年の武人であるグスタフの勘が、尋常ならざる「殺気」を感知した。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ──!
暗闇の天井から、音もなく、無数の黒い手裏剣や、毒を塗られた投げナイフが、生徒たちに向けて降り注いだ。
「──『絶対障壁』最大展開!」
翔が左手を前に突き出した。
青いまばゆい幾何学魔法陣がドーム状に広がり、降り注ぐ凶器のすべてをカツン、カツンと完全に無効化して弾き落とした。
「ちっ……! やはり、あのバケモノの結界は健在か!」
薄暗い岩陰から、黒いフルフェイスの金属兜に身を包んだ、十数名の不気味な暗殺者たちが姿を現した。その衣服に刻まれているのは、王都の過激派主戦派──ヘンドリックス侯爵お抱えの、極秘暗殺ギルド『黒の牙』の紋章だった。
「何奴だ! 我がブルグンド公爵領のダンジョンで、何という無礼を!」
グスタフが大剣を引き抜き、鋭い声を張り上げる。
「ブルグンドの猟犬め、吼えるな。
我らの主、ヘンドリックス侯爵閣下からの命令だ。
北の野蛮人どもが、異界の者を囲い込んで独自の軍備を増強し、新興商会『ミヨシ・トレーディング』などという不遜な利権を貪るなど、こちらとしては見過ごせん。
ここで、あの教師と、ハズレのガキども、および裏切り者のカイルたちを、ダンジョンの『事故』として処理させてもらう!」
暗殺者のリーダーが冷酷に宣告し、十数名の精鋭たちが、一斉に怪しげな魔力ポーションを飲み干して、その身体能力を強制的に跳ね上げた。
翔は、大剣を肩に担ぎながら、冷徹なグレーの瞳を彼らへと向けた。
その顔には、一切の焦りも、恐怖もなかった。あるのは、教育者としての、そして圧倒的な強者としての冷たい微笑みだけだった。
「……なるほど。授業中にお邪魔虫が紛れ込んできたな。
カイル君、陽斗。お前たち、これが本当に命を奪い合う、本物の『実戦』だ。
15日間の地獄のトレーニング、および手に入れた新たなスキルの成果を……この目の前の『動く標的』どもに、存分に見せてやれ」
「「──了解、先生!!」」
陽斗とカイルが、同時に不敵な笑みを浮かべ、地面を激しく蹴り破った。
王都の闇が放った刺客たちと、現代科学によって極限まで鍛え上げられた若き勇者たちの、本当の「実戦の授業」が、いま爆音と共に幕を開けるのだった。




