第三話:恐怖の特別授業、開幕。札束の契約書で国王を合法的に縛り付ける
1.恐怖の「特別授業」
「おい、そこ! 騎士団長か何か知らんが、そこの鎧! 姿勢が悪い! ちゃんと背筋を伸ばして正座しろ!」
「は、はいぃっ!」
大聖堂の冷たい石畳の上。
つい先ほどまで凶悪な刃を向けていた数十名の精鋭騎士たち、そして神官長を含む老人たち、さらに代表候補のカイルたち若者四人が、見事に一直線に「正座」させられていた。
翔は、黄金に輝く『神殺しの聖剣』を肩に担ぎ、教壇に立つかのように彼らを見下ろしている。その後ろでは、水上や橘たち四人の生徒が「先生、マジか……」とあ然とした表情でその光景を見守っていた。
「いいか? 授業中に突然呼び出しておいて、希望のブツじゃないから『ハズレ』だの『処分しろ』だの、教育者として、いや人として言語道断だ! そもそも他人の意思を無視した拉致監禁の時点でレッドカードなんだよ! 分かっているのか!」
「う、うむ……しかし我らの国難が……」
老人の一人がボソボソと言い訳しようとする。
「言い訳は聞かん! はい、マイナス十点! 人の話を遮るな!」
翔がビシッと指をさすと、老人はびくりとして首をすくめた。すっかり高校生の説教モードである。
「──そこまでにせよ、異界の強者よ」
重厚な扉が開き、大聖堂の奥から、豪奢な王冠をいただいた壮年の男──この国の国王アルトリウスと、その脇を固める大臣や魔術師長といった国家の重鎮たちが姿を現した。
「我が名はアルトリウス。この国の王だ。神官長たち……そして騎士たちのあまりにも無礼かつ野蛮な暴走、心より謝罪する。すまなかった」
国王は深く頭を下げた。王としての威厳を保ちつつも、翔が持つ『神殺しの聖剣』から放たれる規格外の魔力に、冷や汗を流しているのが見て取れた。
「国王陛下。話が早くて助かります」
翔は聖剣を地面にコツンと立て、真剣な眼差しを向けた。
「俺たちは元の世界へ帰る方法を探します。ですがそれまでの間、俺とここにいる教え子たち四人を家畜のように扱うのはやめていただきたい。我々を、尊厳ある『一人の人間』として、対等に扱っていただくことを提案します」
「な、何を不遜な!」
正座していた神官長がたまらず叫び、立ち上がろうとした。
「ハズレの人間風情が、王に対して対等などと……! 召喚された従魔は、代表パーティーの奴隷として機能するのが世界の絶対的な理──」
「お前は、少し静かにしてろ」
翔がスッと聖剣の切っ先を彼らに向け、ほんのわずかに魔力を解放した。
ごうっ、と大聖堂の空気が一瞬で氷結したかのような錯覚。
聖剣から放たれた極大の『威圧』が、ドーム状の衝撃波となって広がった。その威圧は、翔の後ろにいる生徒四人だけを綺麗に避けていた。
「...が、はっ……!?」
「く、苦し……空気が……!」
神官長を筆頭に、正座していた騎士たち、代表候補たち、さらには国王や重鎮までもが、まるで見えない巨大な足に踏みつけられたかのように床に突っ伏し、呼吸困難に陥って喘ぎだした。
「おい、老人。お前は話を聞かない上に態度も悪い。減点、減点、さらに減点だ。これ以上、俺の生徒たちの前で汚い言葉を使ったら、次は言葉が喋れないようにしてやるぞ」
冷徹な翔のグレーの瞳に射すくめられ、神官長はチアノーゼを起こしながら激しく首を振った。
翔が魔力を収めると、重鎮たちは一斉に激しく咳き込み、酸素を求めて胸をかきむしった。
「はぁ、はぁ……申し訳、ない……。一人の人間として扱う件、確かに承諾した。だが……」
魔術師長が息を整えながら、前向きとは言えない表情で告げる。
「この国には前例がないのだ。闘技会に勝たねば国は滅びる。戦力にならない者をただの人間として遊ばせておく余裕など……それを取り締まる公式な盟約の仕組みも、我々には……」
国王も重鎮も、謝罪はするものの、具体的な妥協案を提示できずに渋っている。口約束だけでは、翔の目が届かないところで生徒たちがどんな目に遭うか分かったものではない。
2.魂の契約書
『──おーい兄貴、聞こえとるか? じじいどもが渋りよるな』
翔の耳元に、再び現代にいる駿の楽しげな声が響いた。
「駿、どうすればいい? 口約束じゃ、こいつら裏で何するか分からん」
『ふっ、そんなこともあろうかと、こっちのショップでええもん見つけたわ。ゲームや小説でお約束のやつや。【魂の服従契約書(システム特製版)】:450万円。ちょっとお高いけど、今の俺らの資金からすれば端金や。今からそっちに転送するから、その王様とじじいどもに無理矢理にでもサインさせぇ』
「……そんなのあるのか?」
『あるある。契約に違えた瞬間、心臓が破裂して即死する最凶のチート呪書や。今、購入ボタン押したぞ。ほれ、受け取りや』
次の瞬間、翔の目の前に、赤黒い光を放つ古めかしい羊皮紙が滑り落ちてきた。
広間全員が驚愕の声をあげる。
「な、なんだその不吉なスクロールは……!?」
「これは『魂の契約書』です。システムと魂に直接刻まれるもので、契約に違反すれば命を失います」
翔は羊皮紙を広げ、国王に見せた。そこにはいつの間にか、異世界の言語と日本語の双方が自動で記述されていた。
内容は、駿が裏からスマートフォンで打ち込んだ、極めて実用的で──かつ現代社会の「至れり尽くせりなホワイト条件」を異世界基準に落とし込んだ、悪辣なまでの契約だった。
【契約条項】
1.被召喚者5名(三好翔、水上陽斗、橘ほのか、柊鏡花、不破真司)の安全、人権、および健康な生活を無条件で完全に保障すること。
2.5名に対し、最上級の個室、現代日本食に近い三食、および娯楽を含む快適な住環境を無条件で提供すること。
3.5名に対するいかなる強制労働、従魔としての使役、および自由意志に反する戦闘行為の強要を禁ずる。
4.【特記条項】被召喚者・三好翔が『所持している』と主張し、要求したあらゆる物品・防具・アイテムについて、それが王国の倉庫、あるいは代表候補の所有物にある限り、無条件で直ちに引き渡さなければならない。
「な、何という悪魔の契約……! 特にこの4番目の条項はなんだ! 我らの国庫を空にする気か!」
魔術師長が血相を変えて叫ぶ。
だが、翔は動じない。駿の「とにかく兄貴と生徒が快適に過ごせるようにする」という執念と、「金にモノを言わせて相手の資源を合法的にむしり取る」という投資家としての抜け目のなさを全面的に信頼していた。
「国王陛下。これを拒否するということは、俺たちを裏でハメる気満々だった、と受け取っていいんですね? なら、今ここで、この聖剣で大聖堂ごと全員消し飛ばしますが」
翔がそう言って聖剣を片手で持ち上げると、黄金の刃が空間を切り裂くような高音を奏でた。
「ま, 待て! 分かった、分かったから剣を収めてくれ!」
アルトリウス王は死の恐怖に顔を青ざめさせ、震える手で『魂の契約書』を手に取った。
「私に代わってサインする! だから、我が国を滅ぼさないでくれ……!」
王が指先を血で染め、羊皮紙にサインを刻んだ。契約書は赤黒い炎を上げて空中に消え去り、王の胸元、そして翔の胸元へと光となって吸い込まれていった。これで契約は完了だ。
生徒たちは「すげぇ、先生が国を脅迫してホワイトプランをもぎ取った……」と涙を流して感動している。
「よし、これで第一段階はクリアだな」
翔は安堵の息を漏らし、すぐに次のステップへ進むことにした。
「さあ、国王陛下。契約は締結されました。さっそく特記条項に基づき、お聞きしたいことがあります。この城に、個人の潜在能力を覚醒させ、ステータスを極限まで引き上げるような品物はありますか?」
「なっ……」
王は絶句し、背後に控えていた代表候補の少年・カイルたちが一斉にざわめき立った。
先生による、異世界での「特別授業(説教)」でした。
次の話(第4話)は、このあと17:45に更新されます!カイルくんたちの登場です。




