第二話:【警告・戦闘可能戦力ゼロ】弟の資産口座とシステム同期完了
1.ハズレ召喚と, 逆転の「課金」
翔がスマホの画面を見ると、不気味な青い光を放つ奇妙なポップアップが表示されている。
【──ゲートの開設を確認しました。接続対象:三好 翔(固有ID: SH0-001)】
【管理者・三好 駿の資産口座との同期を完了しました】
【これより、異世界における『購買・投資システム』をアクティベートします】
「なんやこれ……ウイルスか?」
画面をタップしようとするが、操作を受け付けない。
代わりに、画面には信じられないステータスが表示された。
──現在の利用可能資金(JPY):¥4,258,900,000──
──変換レート:1円 = 1ルピア──
──【システム警告】同期対象は現在『極めて危険な状態(戦闘可能戦力:ゼロ)』にあります。即座に支援物資(またはステータス補正)を購入してください──
画面の奥に、翔の顔がリアルタイムの3Dグラフィックで表示されている。心拍数は跳ね上がり、呼吸は乱れている。その周囲には「言語不通」「敵対的環境」「致死リスク:極大」という不穏な文字。
「……まさか、兄貴。お前、本当にファンタジーみたいな世界に飛ばされたんか?」
個人投資家としての俺の直感が、これが単なる悪戯ではないと告げていた。
もしこれが本物なら。
兄貴の命が、俺の「口座残高」にかかっているということだ。
「おもろいやん。兄貴、そっちの物価がどれくらいか知らんけどな──」
俺は不敵に笑い、画面の『購入』ボタンに指を滑らせた。
「俺の金で、その異世界とやらを札束で殴り倒したれ」
* * *
一方、異世界の「召喚の間」では、冷酷な現実が翔たちに突きつけられていた。
「──†‡¶§‡†‡!」
法衣を着た老人が、棚から怪しげな青い水晶を取り出し、俺たちに向けて何か呪文を唱えた。
その瞬間、頭の中に直接、彼らの言葉が「日本語」として翻訳されて流れ込んでくる。
「おい、このデカいヒューマンはなんだ! 我らが召喚したのは、代表パーティーを強化するための『武具』か『従魔』のはずだろう!」
大聖堂のような広間に、神官長らしき老人の怒号が響き渡る。
俺は怯える四人の生徒を背中に庇いながら、必死に状況を理解しようとした。
武装した若者たち──この国の『代表候補』らしいカイルたちは、あからさまに嫌悪と失望に満ちた目をこちらに向けている。
「ちっ、ハズレかよ。ただの人間、しかもガキの教師だと? 戦力外にも程があるぜ」
カイルが吐き捨てた。
「待ってくれ! 私たちはただの一般人だ! すぐに元の世界に帰してほしい!」
俺が交渉を試みるが、神官長は冷酷に首を振る。
「帰還の方法などない。本来ならば、代表候補たちの力の源となる高ランクの武器・防具・従魔が召喚されるはずだったのだ。だが、召喚されたのは意思ある『ただの人間』。闘技会を勝ち抜くための戦力としては、完全に足手まといのゴミだ」
「使えぬハズレは、ここで処分するまで──。騎士たちよ, 片付けよ」
神官長が冷淡に手を振る。
「いや, いやだっ……!」「助けて、先生!」
生徒たちが悲鳴をあげる。
騎士たちが一斉に、鋭い剣の切っ先を俺たちに向け、距離を詰めてくる。
俺は歯を食いしばり、両手を広げて立ちはだかった。自分だって足が震えてまともに動けない。だが、教師として、生徒を守らなきゃいけない。
最接近した騎士が、冷酷な目で剣を大きく振りかぶった。
死の刃が、俺の首筋めがけて振り下ろされる──。
* * *
その瞬間、日本のタワーマンションにいる駿が、スマホ画面を見つめて不敵に笑った。
「アホか、何が『処分』じゃ、ボケが。お前ら、うちの兄貴を舐めとったらどうなるか、その身に刻んで教えてやるわ。ポチっとな」
駿は【言語理解パッケージ(30万ルピア)】に続き、高額なチート商品である【神殺しの聖剣(複製版):5,000万円】と【常時発動型・絶対障壁:8,000万円】を迷いなく購入した。
* * *
──キィィィィィィィン!!!
大聖堂に、耳をつんざくような美しい金属音が響き渡る。
騎士の頑丈な鋼鉄の剣は、翔の身体を包み込む透き通るような青い「絶対障壁」に触れた瞬間、粉々に砕け散った。
「な, なんだと……!? 結界魔術だと!?」
さらに、翔の目の前の空間が歪み、まばゆい黄金の光とともに、大聖堂の石畳に深く突き刺さるようにして、一振りの巨大な「聖剣」が現れた。
あ然とする翔の耳元に、絶対にここにいるはずのない「弟の声」が響く。
『──もしもし兄貴? 聞こえとる? とりあえず一億三千万ほど課金しといたから、その玩具みたいな剣で、その偉そうなジジイども全員黙らせてきてや』
「し, 駿……!? なんでお前の声が……!」
『話せば長くなるけど、とにかくそいつらを力でねじ伏せるしかないで。資金援助なら、いくらでもしたる』
「おい、あの男、虚空に向かって喋っているぞ!」
「あの剣はなんだ、神話級以上の魔力を感じるぞ!」
翔は、手元に現れた『神殺しの聖剣』の柄を、両手でしっかりと握りしめた。
あふれんばかりの超絶的な魔力と力が、剣を通じて全身の血管を駆け巡る。これなら、勝てる!
翔は聖剣を軽く一振りし、凄まじい風圧で周囲の騎士たちを吹き飛ばしながら、冷たい笑みを向けた。
「──ちょっと、特別授業を始めてやるから、大人しく座ってろ」
弟の駿、動きます。
次の話(第3話)は、このあと17:40に更新されます!




