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第二十八話:中世の闇を暴く現代科学、根性論?体を壊さないぎりぎりを見極めろ

1.中世の根性論vs現代スポーツ科学


異世界、ブルグンド公爵領。

公爵領での三日目の朝は、未だ空が藍色から薄明るく変わり始める午前五時半、凄まじい部屋のドアのノック音から始まった。


「おい、翔殿! 朝だぞ! 騎士団の訓練に参加すると言ったのはお主だろう! 起きろ!」

公爵の嫡男、キースの野太い声が響く。

「う……、もう朝か……」

翔は這うようにしてベッドから起き上がり、昨日駿から送ってもらったばかりの日本の黒いジャージ(アディダス製)に身を包んだ。

隣の男子部屋からは、眠い目をこすりながら同じくジャージ姿の水上陽斗と不破真司が、女子部屋からは髪をポニーテールに結んだ橘ほのかと柊鏡花が、あくびをしながら出てきた。


「みんな、いくぞ。今日は、異世界の『騎士団』の訓練に参加させてもらう。この世界の強さの秘密を暴くぞ」

「はーい……眠い……」

5人は中庭へと向かった。


中庭では、すでに鎧に身を包んだ数十名の騎士や、簡素な革鎧を着た兵士たちが集まり、朝靄の中で激しく槍を突き、大剣を振り回していた。

「ハァッ!」「もっと腰を落とせ! 根性が足りんぞ!」

騎士団長や先輩騎士たちの怒号が飛び交う。砂埃が舞い、お互いに木剣で激しく叩き合い、打撲や擦り傷を負いながらも、痛みに耐えて訓練を続ける──まさに、中世ヨーロッパの「気合と根性」による過酷な騎士修行そのものの光景だった。


しかし、その光景を観察していた翔の、現代日本の「高校教師」であり、かつて大学でスポーツ科学を学んだ指導者としての目が、次第に鋭く、そして焦りに満ちたものへと変わっていった。


「……酷すぎる。これでは、強くなる前に身体が壊れるぞ」

翔は思わず呟いた。隣に立っていたキースが、怪訝そうに眉をひそめる。

「何だと? 翔殿。我が公爵領の騎士団は、王国最強の精鋭だ。この過酷な鍛錬こそが、彼らの強靭な肉体と心を育てるのだぞ?」


「いいえ、キース様。現代科学──私の世界の英知から見れば、彼らがやっているのは『肉体の破壊行為』、すなわち根性論の崩壊そのものです」

翔はキース、そしていつの間にか中庭に現れて腕を組んでいたブルグンド公爵に向けて、ハッキリと言い放った。


「前提として、3つの致命的な問題点があります。

第1に、『早朝の激しい空腹時運動』。

起床直後、エネルギーが枯渇した状態で激しい運動を行うと、体内ではコルチゾール(筋肉分解ホルモン)が大量に分泌されます。彼らは強くなるために鍛錬しているつもりでしょうが、実際には自らの筋肉を削って痩せ細らせているのです。

第2に、『重装備での長時間行軍・ダッシュ』。

重いフルプレートアーマーを着たままコンクリートのように硬い石畳や不整地を走り回れば、関節や腰、膝の半月板にかかる負担は通常の数倍に達します。これは慢性的な疲労骨折や関節の破壊を多発させるだけです。

第3に、『非効率な栄養補給』。

彼らの食事は、硬いパンと少量のスープ、塩辛い干し肉だけです。圧倒的なタンパク質不足と過度なカロリー消費により、彼らの肉体は慢性的な『オーバートレーニング症候群』に陥り、常に筋肉が炎症を起こしている状態です。これをポーションの魔法で無理やり治してごまかしている。違いますか?」


翔の容赦ない論理的な指摘に、公爵もキースも言葉を失った。確かに、騎士団の中には、慢性的な関節痛や、若くして膝を壊して引退する者が後を絶たなかったのだ。それはすべて「根性が足りないからだ」と片付けられていた。


「翔殿……。では、お主の世界では、どのように鍛錬するのだ?」

公爵が、真剣な眼差しで尋ねる。

「私の世界では、怪我のリスクを最小限に抑え、短期間で最大の戦闘力を引き出す『日本版の完全最適化プログラム』が存在します。公爵領の軍事力を王国最強にするため、2つの階級クラスに分けたメニューを提案させてください」


翔は懐からスマートフォンを取り出し、事前に日本の駿と連携して作成しておいた、現代科学を詰め込んだトレーニング計画書を表示した。


【1. 騎士ナイトクラス:エリート育成プログラム】


高価な重装甲(フルプレートアーマー等)を操り、一騎当千の突破力を得るための「重戦車型」エリート育成メニュー。


導入機材(現代日本技術・『つながる手』で搬入)


立体動態波治療器: 毎日の激しい鍛錬による関節の炎症や筋肉疲労を電気刺激で超高速ケア。


最上位ウエイトマシン: 鎧の重さに負けない強靭な体幹と下半身を作るパワーラックとレッグプレス。


着るクーラー/ヒーター: インナーに仕込み、重い鎧の中の体温を一定に保ち、熱中症や無駄な体力消耗を防ぐ。


作業支援用装着型サイボーグ: 午後の武具手入れや重労働時に着用し、腰や関節の負担をゼロにして回復を促す。


スケジュールとトレーニング内容


05:30【起床・エネルギー補給】


朝イチの運動による筋肉分解カタボリックを防ぐため、即吸収されるマルトデキストリン(粉末糖質)とBCAA、必須アミノ酸(EAA)のドリンクを摂取。


06:00【朝練:神経系・技術トレーニング】


空腹での激しい運動はNG。心拍数を上げすぎず、槍や剣の「フォーム」と「体幹連動」を意識した技術練。


07:30【朝食:高タンパク・高炭水化物食】


白米エネルギー、鶏胸肉・焼き魚(タンパク質)、味噌汁(塩分・ミネラル補給)。


09:00【午前:ウエイト&実戦高負荷訓練】


毎日鎧を着て走ると関節が壊れます。週3回は最新マシンでの筋力トレーニング(スクワット、デッドリフト)に置き換え。


残り2回は、防具の中にウエイトベスト(加重ベスト)を着用し、低衝撃のクロストレーナーや、関節への衝撃が少ない芝生・砂地での乗馬・ダッシュ。


12:00【昼食:クリーンなバルクアップ食】


赤身牛ステーキ、ブロッコリー、玄米。さらに消化を助ける日本の強力わかもと等の胃腸薬。


13:00【午後:アクティブリカバリー&座学】


武具手入れ時はHALを着用して腰痛予防。


文官仕事(戦術論・兵站学)の時間は、エルゴノミクス(人間工学)チェアに座り、姿勢崩れによる疲労を防ぐ。


夕方に交代で「高気圧酸素カプセル」に入り、細胞レベルで疲労回復。


19:00【夕食・就寝前】


焼き鮭、豆腐、納豆。就寝直前に吸収の緩やかなホエイ&カゼインプロテインを摂取。


【2. 兵士ソルジャークラス:量産型育成プログラム】


集団戦、長距離行軍、そして長時間の警備に耐えうる「不壊のスタミナ」と「頑強さ」を最短で詰め込むコストパフォーマンス重視のメニュー。


導入機材(現代日本技術)


高機能ランニングシューズ: 行軍訓練での膝・足首の破壊を防ぐため、中世の革靴を廃止し、日本の誇る衝撃吸収シューズを全員に支給。


低周波治療器(大量導入用): 兵舎に複数台設置し、兵士たちが互いにふくらはぎや腰のケアを行えるようにする。


大塚製薬・ポカリスエット(粉末バルク): 脱水症状による戦線離脱を完全に防ぐため、訓練中の水分補給を徹底化。


スケジュールとトレーニング内容


06:00【起床・アミノ酸補給】


味の素・アミノバイタル(粉末)を1包飲み、カタボリック(筋肉分解)を即座にストップ。


06:30【朝練:集団動作・HIIT(高強度インターバルトレーニング)


槍の突き出しなど集団での基本動作。その後、20秒全力・10秒休憩のHIITを4分間行い、短時間で心肺機能を爆発的に強化。長時間のダラダラした朝練を排除。


07:30【朝食:スピードチャージ】


卵かけご飯(TKG)、納豆、バナナ。素早くエネルギーとタンパク質、ビタミンを補給。


09:00【午前:超効率行軍訓練】


毎日何十キロも歩かせず、負荷パッキングの重量を徐々に増やす「プログレッシブ・オーバーロード(漸進性過負荷の原則)」を適用。


足元はランニングシューズ。歩行フォームをスマートウォッチで管理し、姿勢が崩れた兵士は即離脱させ、怪我人をゼロにする。


12:00【昼食:高栄養集団食】


豚肉の生姜焼き(ビタミンB1補給で疲労回復)、具だくさん豚汁、白米大盛り。


13:00【午後:メンテナンス&リカバリー】


武具の手入れをしつつ、ストレッチポールやマッサージガンを使用した「セルフケア」の時間を1時間義務化。


18:00【夕食・睡眠】


鶏大根、サバの塩焼き。


兵舎のベッドには簡易マットレスを導入し、睡眠の質を極限まで高めて翌朝に疲労を残さない。


「……どうでしょうか、公爵閣下。

この現代科学に基づいたプログラムを導入すれば、中世の騎士が10年かけて到達した強度へ、わずか1〜2年で、しかも怪我人をほぼ出すことなく到達可能になります。また、無駄な怪我をポーションで治す必要がなくなるため、高価なポーションの消費量を劇的に減らし、領の財政を大幅に浮かせることができます」


翔が説明を終えると、中庭はしんと静まり返っていた。

公爵は、翔のスマートフォンに表示された、緻密に計算されたスケジュールや聞き慣れない機材のリストを見つめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「……ポーションの消費量が、減るだと? 我が領の軍事予算の実に二割は、負傷した騎士を即座に治療するためのポーション購入費に充てられている。それが減るというのは、財政的にも極めて魅力的だ……」

公爵は顎を撫で、キースと視線を交わした。


「よし、翔殿! お主の言うその『にほんのトレーニング』とやら、我が騎士団の一部で試してみよう! 期間は三ヶ月だ。効果が出れば、全軍に正式導入する!」

「ありがとうございます、閣下。さっそく、駿に必要な物資の手配を依頼します」

翔は力強く頷いた。


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