第二十四話:公爵のデスクに現代日本の最高級ブランデーを叩き込め
4.公爵の執務室、そして「すべての開示」
食後、翔は公爵の執務室へと呼び出された。
重厚なマホガニーのデスクを挟み、二人の大柄な男が対峙する。暖炉の中で爆ぜる薪の音が、静かに室内に響いていた。
「さて、翔殿。今後の話をしよう。お主が何を考えているのか、腹を割って話そうではないか」
公爵が安楽椅子に深く腰掛け、鋭い眼光を向けた。
翔は一つ、深く息を吐き出し、覚悟を決めた。
昨日、公爵が国王からの『工作員ではないか』という歪んだ手紙の内容を隠さず教えてくれたこと。そして、自分の実力を認めて誠実に対応してくれたこと。この男は、裏で卑怯な手を使うような政治屋ではない。信頼するに値する。
「閣下。これからお話しすることは、我が教え子たちの命、そして私のすべてに関わる秘密です。これを明かすのは、あなたが信頼に足る武人であり、支配者だと確信したからです」
「……うむ。聞こう。この部屋の防音結界は完璧だ」
翔は静かに語り始めた。
「まず、私たちは元の世界へ帰る手段を探しています。そのために、私は王都で国王アルトリウスを力で屈服させ、人権と快適な暮らしを保障する『魂の契約』を認めさせました。カノーヴァ伯爵にも、それによる政治的な問題点を聞いてきました」
「ああ、魂の契約か。あれには国王陛下も相当肝を冷やしたようだな」
「ですが、ここからが本題です。……神官長は私を『ハズレ』と呼び、処分しようとしました。私のステータスが上がらなかったからです。それは事実です。なぜなら、私は魔法陣に『召喚されし者』ではなく、彼らを助けようとして文字通り『巻き込まれただけの一般人』だからです」
「巻き込まれし者……!」
公爵が目を見張る。
「カイルたち代表候補を倒し、国宝である『天啓の石』を奪いました。私は生徒たち4人に、基礎能力が底上げされる『天啓の聖石』を使わせ、彼らは一線級の戦士としての固有ギフトを開花させました。そして私は、能力が上がらず、スキルだけが手に入る『天啓の魔石』を使いました。彼らが強くなり、私はハズレのままでした。……普通なら、ここで話は終わりです」
翔はフッと不敵な笑みを浮かべた。
「ですが、私は『天啓』の他に、もう一つの絶対的な能力を持っていました。私には、この異世界にいながらにして、地球(元の世界)にいる双子の弟──三好駿と、常に意思を繋ぐ能力があるのです」
「何だと……!? 次元を超えて、対話ができるというのか!?」
公爵が思わず身を乗り出した。
「それだけではありません。弟の駿は、地球側で凄まじい資産を持つ投資家です。私は彼の持つ口座資金とシステムを同期させています。つまり……私は異世界のシステムショップから、弟の『無限の資金(資本力)』を使って、神話級の武具や、チート級の補正アイテムを、いつでもいくらでも『課金購入』できるのです」
「バ、バカな……!?」
「私が王都で展開した、あらゆる攻撃を無効化する『絶対障壁』も、あなたの突きを受け止めた見えない壁も、一瞬で現れた『神殺しの聖剣』も。すべては弟が、日本から私のために数億円を課金して購入してくれた、地球の資本力によるドーピングなのです」
公爵は顎が外れんばかりに驚愕し、絶句していた。国家の常識、魔導の常識を遥かに超越した、まさに「札束による異世界無双」の現実。
「そして、旅の道中に、私が『天啓の魔石』で得た固有スキル【つながる手】の本当の使い道が判明しました。閣下、ご覧ください」
翔は、テーブルの上にあった一本の未開封の木製ペンを右手に持った。
そして、それを「左手」へと持ち替える。
──すっ。
一瞬の閃光すらなく、ペンは完全に消失した。
「消えただと……!? 収納魔法か?」
「いいえ。いま私の左手から消えたペンは、数千光年離れた日本にいる、弟の駿の『左手』の上に出現しています。このスキルは、私と弟の左手を繋ぐ、物質の瞬間双方向転送スキルなのです」
翔は頭の中で駿に呼びかけた。
(──駿、聞こえるか? 今、公爵の執務室だ。すべてを話した。……お前の部屋にある、あの未開封の高級な酒を、俺の左手に送ってくれ)
『──おう、兄貴。バッチリ聞いてたで。公爵のオッサン、驚いて腰抜かしとるな。よし、ウイスキーやなくて、昔貰って飾ってあった高級ブランデー送るわ。いくぞ、ポチっとな』
次の瞬間、翔の左手の上に、豪華なクリスタルカットが施された、重厚なガラス瓶が出現した。中には、琥珀色の美しい液体が揺れている。現代日本の最高級コニャックブランデーだ。
翔はそれを、唖然としている公爵のデスクの上に、静かに置いた。
「……これが、今、日本から転送されてきた『我が実家の酒』です。どうぞ、お受け取りください」
「……あ、あり得ん……。このような精緻なガラス、そしてこの尋常ならざる魔力の残滓すらない、一瞬の転送……!」
公爵はガタガタと震える手でボトルを持ち上げ、その奇跡に言葉を失っていた。
「これが、私の持つすべてのカードです。私たちは、地球に帰る手段が見つかるまで、国王に様々な要求を突きつけながら、この世界で生き抜くつもりです。ですが、国王が用意した、一昨年と去年の代表候補たちのパーティーが、中央闘技会で勝ち抜けるとは限りません」
翔はデスクをコツンと叩いた。
「中央ダンジョンには、神に決められたルールがあり、そこには地球に帰る手がかりがある可能性が極めて高い。ならば、提案です。戦略は二点あります。
一点目は、私がこのスキルを使って、地球側で大きな価値を持つ異世界の魔石や資源を弟に送り、弟が現代の知識でそれを活用し、さらなる強大な武具や物資を購入して私に送り返す『物資循環ルート』を確立すること。
二点目は……カイルたち代表候補を、この公爵領に呼び戻していただくことです。彼らに『天啓の魔石』を与えて使わせ、彼らのレベルを上げ、最終的には私と、生徒たちと、彼らの合同パーティーで、中央闘技会を圧倒的に勝ち抜く。中央の権利を、確実に我が物にするのです」
翔は不敵に微笑んだ。
「私は、国王派の連中を一切信用していません。反旗を翻すつもりはありませんが、このブルグンド公爵領から、カノーヴァ伯爵領にかけての北部一帯を、私と弟の持つ『地球の資本力と技術』を使って、爆発的に発展させてみせます。……閣下、俺たちと手を組み、新しい時代を作りませんか?」
公爵は、デスクの上の美しいブランデーボトルと、目の前に立つ二十三歳の、底知れぬ力と未来のビジョンを持つ熱血教師の姿を交互に見つめた。
そして──ゆっくりと、しかしこれまでにないほど深く、不敵な笑みを浮かべた。
「ガハハ……! 面白い、面白すぎるではないか、三好翔! 国家を札束で殴り倒し、次元を超えて世界を発展させるか! よかろう、お主らの同盟、このブルグンド公爵が全面的に引き受けた! カノーヴァの伯爵にもすぐに早馬を送り、歩調を合わせるように私から直々に伝えておこう!」
公爵の大きな鋼鉄のような右手が差し出された。
翔はその手を、大きな、そして熱い掌で、ガシリと握りしめた。
異世界の常識が崩壊し、現代日本の莫大な資本力と、異世界の最高峰の武力が、ここに完全に結託した。
彼らの不敵なる「異世界課金無双」は、ブルグンド公爵領という絶対的な基盤を得て、いよいよ世界を揺るがす本番へと突入していくのだった。
ブルグンド公爵、完全に取り込み完了です!現代日本の圧倒的な資本力と、異世界最高峰の武力が手を結び、いよいよ世界を揺らす本番へ突入します!
ーーー【作者からのお願い】ーーー物語の第1部とも言える「ブルグンド同盟編」、ここまでお読みいただき本当にありがとうございました!「この双子無双、続きがめちゃくちゃ気になる!」「公爵との同盟ワクワクする!」と思ってくださった方は、ぜひページ最下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して応援していただけると、今後の執筆の物凄いエネルギーになります!
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