第二十三話:生徒たちの固き覚悟と、ツンデレ令嬢が熱弁する公爵家の誇り高き治世
3.生徒たちの覚悟と、夕食の違和感
翔が水上の個室を訪ねると、案の定、水上、不破、橘、柊の四人が一堂に会し、ベッドや床に座り込んで、日本のスナック菓子を分け合いながら談笑していた。
「先生!」
四人が一斉に居住まいを正す。
「みんな、身体は休まったか?」
「はい! おかげさまで、めちゃくちゃ軽くなりました!」
不破が元気よく答える。
「それは良かった。だがな、今夜は公爵閣下やご家族と同席する重要な夕食会だ。いつまでも部屋に引きこもっているわけにはいかないからな。ちゃんと服を着替えて、食堂へ行くぞ」
「はーい!」
生徒たちが素直に頷くのを見届け、翔は一呼吸置いてから、少しトーンを落とした。
「……それから、みんなに今後のことについて、俺の考えている方針を伝えておきたい」
その真剣な声に、車内の活気がすっと引き締まり、四人の目が翔へと集中した。
「俺たちの目標は、何があっても無事に『日本へ帰る』ことだ。その手段を探すために、俺はこれから公爵閣下と、裏のつながりや、闘技会、そしてこの世界の神殿の仕組みについて、本格的な交渉を始める。場合によっては、少し危険な場所──ダンジョンへの潜入や、元の代表候補たちとの関わりも出てくるかもしれない」
翔は四人を見渡した。
「みんなには、自分たちの身を守るための力を磨き続けてほしい。いつまでも俺が前で守り続けられるとは限らないからな。……ついてきてくれるか?」
四人は一瞬、お互いに顔を見合わせた。しかし、その瞳に「恐怖」や「迷い」は一切なかった。
「先生」
水上が一歩前に出て、不敵に笑った。
「何言ってるんですか。俺たち、もう決めてますよ。先生に守られてるだけのお荷物には、絶対になりません。手に入れたこの力、先生のために、そして全員で日本に帰るために、使いこなしてみせますよ」
「そうだよ、先生。私だって、魔法の練習、めちゃくちゃ頑張るからね!」
橘ほのかも力強く拳を握りしめた。
「よし。お前たちの覚悟、確かに受け取った。……じゃあ、腹が減ったな。食堂へ行くぞ!」
「「「うおおおお!」」」
夜の食堂には、公爵家の一族、そしてベアトリーチェたちが勢揃いしていた。
賑やかな晩餐の席。翔は出された肉料理を口に運びながら、昼間の街の散策で気がついた「ある違和感」について、公爵に向けて問いかけた。
「公爵閣下。昼間に領都の市場や大通りを散策させていただいたのですが、一つ、非常に驚いたことがございます」
「ほう、何だ? 我が領の誇る美女たちにでも見惚れたか?」
公爵がニヤリと笑う。
「いえ。……このブルグンド公爵領は、王国の中でも最も冬が長く、厳しい寒さに晒される土地だと聞いておりました。しかし、市場には豊かな穀物や野菜、様々な調味料が溢れており、飢えている様子が微塵もありませんでした。それだけでなく……王都周辺や、道中の町では必ず見かけた『孤児』たちの姿が、この領都には一人も見当たりませんでした。これは、一体どういうことなのでしょうか?」
翔の鋭い質問に、公爵はフッと満足そうに口元を歪め、隣に座るアデライードへと視線を向けた。
「アデライード。翔殿の問いに、お前が答えてやれ」
アデライードはハッとして姿勢を正し、少し誇らしげに、しかし翔を真っ直ぐに見つめて語り始めた。
「……我がブルグンド公爵家は、ただ武勇を誇るだけの家柄ではありません。お父様は、領内のすべての教会や孤児院に対し、公爵家の国庫から直接、十分な『扶助金』と『食料供給』を毎月義務付けています。身寄りのない子供たちは、すべて公爵家が運営する教育施設へと収容され、将来の文官や、騎士、あるいは職人としての基礎訓練を受けることができる仕組みになっているのです。彼らは『ゴミ』ではなく、我が領の未来を担う『財産』なのですから!」
アデライードの毅然とした、そして誇りに満ちた回答に、翔は目を見張った。
ただのツンツンとした令嬢だと思っていたが、彼女はしっかりと、自分の領地と領民を愛し、その責任を背負っている。
「素晴らしい教育制度ですね、アデライード様。閣下、あなたの治世は、本当に見事です。心から尊敬いたします」
翔が心からの賛辞を送ると、アデライードはまたしても顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。公爵は「ガハハ! 惚れ直したか、翔殿!」と宴を大いに盛り上げた。
生徒たちも「守られるだけ」を卒業する覚悟を決めました。
次の話(第24話)は、今夜20:40に更新。ついに、すべての秘密を公爵へ開示します!




