第十七話:二十三歳投資家の受難。女子高生の下着選びは不審者一歩手前!?
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3.地球側での超調達と、最低限の「仕送り」
同じ頃、地球──。
翔がカノーヴァ領都を離れ、険しい旅路へと一歩を踏み出した時間、弟の三好駿は自前のSUVを走らせ、大型ドラッグストアの駐車場に滑り込ませていた。
「よし、まずは身の回りのケア用品やな。あいつら、異世界に行ってからまともにシャンプーもできてへんはずや」
駿はカートを引きずりながら、店内を物色した。
「お買い得パック」ではなく、あえて少し値の張るノンシリコンのシャンプーやリンス、肌に優しいボディーソープを棚から鷲掴みにしてカートに放り込んでいく。さらに、女性用の基礎化粧品、化粧水、乳液、そして何より重要であろう「下着」や「衣類」のコーナーへと向かった。
「サイズは……鏡花ちゃんがこれで、ほのかちゃんがこれくらいか? うわ、二十三歳の男が一人で女子高生の下着選んでるの、客観的に見て完全に不審者やな……。通報されんといてくれよ」
周囲の目を気にしながらも、駿はプロの投資家としての集中力を発揮し、肌触りの良い綿100%のインナーや、着心地の良さそうなスウェット、靴下などを車に積める限界まで大量に購入した。
買い物を終えて車に戻った駿は、スマホを取り出して翔に連絡を取る。
『兄貴、今ドラッグストアで買い込めるだけ買い込んだわ。下着とか化粧品、シャンプー、色々あるぞ。今から柊さんの家に行って、他の親御さんたちから預かった荷物と一緒に送る手筈になっとる』
異世界の街道を移動中の翔から、すぐに返信が届く。
『駿、本当に助かる。ただ、一つ提案なんだが……ブルグンドに着くまでは、送る荷物は最低限のものだけにしてくれないか?』
『ん? なんでや? せっかく集めたのに』
『アデライード様たちや、カノーヴァ伯爵家の騎士、ギルドの冒険者たちと同行してる。俺の『つながる手』の能力は、彼女たちにはまだ教えられない。カノーヴァ伯爵には自前の小さな「アイテムボックス」を持っていると言い張って手土産を渡したが、それも限界がある。道中で突然大量の近代的な衣類やプラスチック容器のシャンプーを取り出したら、怪しまれるどころか、教会や国家に目をつけられかねない』
『あー、なるほどな。確かに「怪しい魔法道具使い」として警戒されたら面倒や。よし分かった。差し当たって今すぐに必要な下着や、小分けにできる衛生用品だけを厳選して送るわ。残りの大荷物は、ブルグンドの安全な宿か、公爵邸に着いてから一気に送ることにしよう』
『ああ、生徒たちにもそう説明して、了解を得ておく。すまないな、駿』
『気にすんな。こっちは金なら腐るほどあるからな。兄貴はそっちの生徒たちをしっかり守ったってや』
夕方、駿は再び柊家を訪ねた。
リビングには、柊、水上、橘、不破の四家族の親たちが再び集まっており、それぞれのテーブルには我が子を思う親たちが用意した「愛の結晶」とも言える荷物が山積みにされていた。お気に入りの私服、お菓子、使い慣れた筆記用具、そして涙ながらに書かれたであろう手紙。
「駿くん、これ、あの子たちが少しでも安心できるように……」
親たちの切実な願いを受け止めつつ、駿は事情を説明した。
「皆さん、本当にありがとうございます。ただ、翔たちはいま、異世界の高貴な令嬢や騎士たちと一緒に移動中でして、あまりに目立つ現代の荷物を一気に取り出すと、彼らの立場が危うくなります。ですので、今夜は特に必要な『下着』や『シャンプー類』など、最低限のものを厳選してその場で翔に送ります。残りの荷物は、彼らが安全な拠点に到着した瞬間に、必ず責任を持って届けますので、少しだけ待ってください」
「そうなのね……。ええ、あの子たちの安全が第一よ。駿くん、よろしくお願いします」
柊の母親が理解を示し、他の親たちも深く頷いた。
駿はその場で、厳選された衣類や生活必需品を、翔の『つながる手』を通じて異世界へと送り込んだ。
4.極限状態の女子生徒たちと、小さな奇跡
その日の夜。
翔たちが二つ目の町を超え、野営に近い状態で宿屋に泊まった際、翔は四人の生徒たちを自分の部屋に集めた。
「みんな、お疲れ様。毎日モンスターとの戦いや長旅で、本当に心身ともに限界だと思う。……実は、日本の駿と連絡がついて、親御さんたちから荷物を受け取ったんだ。まだ同行者に見せるわけにはいかないから、最低限のものだけだけど……これを受け取ってくれ」
翔がベッドの上に、駿から送られてきたばかりの荷物を広げた。
「え……っ!?」
橘ほのかと柊鏡花は、その中身を見た瞬間、目をごしごしと擦った。
そこにあったのは、見慣れた日本のドラッグストアの袋、そして丁寧に包装された新品の下着や、お気に入りのメーカーのシャンプー、リンス、洗顔料、さらにはスキンケア用の化粧水だった。
「これ……シャンプー!? しかも、私がいつも使ってるやつ……!」
鏡花がボトルを抱きしめるようにして、涙ぐんだ。
異世界に来て以来、彼女たちを最も苦しめていたのは、モンスターの恐怖もさることながら、劣悪な衛生環境だった。泡立ちの悪い硬い石鹸、髪がゴワゴワになる水、洗っても取れない汗と泥の臭い。十代の少女にとって、それは精神を削るには十分すぎるストレスだったのだ。
「下着も……新品だ……。向こうのやつ、ゴワゴワしてて痛かったから、本当に嬉しい……!」
ほのかもまた、柔らかい綿のインナーを手に取り、感極まった表情を見せた。
「男子たちにも、下着とシャツがあるぞ。あと、動きやすいスウェットだ」
「うお、マジか! 先生、マジで神!!」
不破真司が声を上げ、水上陽斗もホッとしたように肩の力を抜いた。男子生徒にとっても、異世界の粗末な下着は擦れて痛む原因になっており、密かな悩みだったのだ。
「今回の旅が終わって、ブルグンドで落ち着いたら、親御さんたちが用意してくれた荷物を全部受け取れるようにする。それまでは、これでなんとか持ちこたえてくれ」
「はい! 先生、本当にありがとうございます!」
日本の香り漂うシャンプーと、肌になじむ柔らかい衣服。
それは、過酷な異世界サバイバルの中で、彼らに「元の世界と繋がっている」という圧倒的な安心感と、明日を生き抜く活力を与える最高のプレゼントとなった。
駿、ピンチ(社会的意味で)。
次の話(第18話)は、今夜20:40に更新されます!




