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第十五話:奇跡のリアルタイム双方向ビデオ会議! 親たちの愛の動画と、投資家の受難

3.柊家でのビデオ会議、そして奇跡の双方向


一時間後。

現代日本の柊家のリビングには、四家族の父親と母親、合わせて八名が集まっていた。全員が強張った顔で、祈るように駿の到着を待っていた。

リビングの扉が開き、駿が入室する。


「皆さん、お揃いですね。……では、これより始めます」


異世界の客室では、翔の部屋に五人が息を潜めて集まっていた。

翔がスッと左手を差し出すと、掌に重みが加わり、あの日本のスマートフォンが再び出現した。


「──みんな、駿が日本の家族を柊さんの家に集めてくれた。今から、日本と通信するぞ」


翔の言葉に、四人の生徒は緊張で生唾を飲み込んだ。

日本側の柊家のリビングでは、駿が「つながる手」から送り返されたスマホを操作し、柊家のリビングの大きな壁掛けテレビへとワイヤレスで画面をミラーリングした。

画面に映し出されたのは、異世界の、明らかに日本のホテルとも異なる絢爛豪華な部屋の風景。そしてそこには、愛しい我が子たちの姿と、その背後に立つ大柄な担任教師・翔の姿があった。


「「「あっ……!!」」」


親たちの間から、息を呑む声と、同時に悲鳴のような泣き声が漏れた。

駿は、事前に全員分の個別のビデオレターを共有することについてためらっていたが、翔を通じて「先生、私たちに隠し事なんてないよ! 全員の親に全部見せて!」と生徒たちから快い許可をもらっていた。

テレビの大画面に、四人の個別のビデオレターが映し出される。 時には泣きそうな顔を隠しながら、時には「翔先生が一億三千万円もする絶対障壁と聖剣で守ってくれたから、騎士たちも一瞬で吹き飛んだんだよ!」と熱っぽく語る陽斗や真司の姿。 「お風呂も魔法で露天風呂を作ってもらったから大丈夫!」と笑顔を見せるほのかと鏡花。


「陽斗……陽斗……! よかった、生きて、本当に元気にしているのね……!」


水上家の夫婦はテレビ画面の前に駆け寄り、お互いの手を握りしめながらもらい泣きをしていたが、父親が警察官ということもあり、比較的早く立ち直って涙を拭った。


「三好さんの弟さん。……娘や息子たちが、本当に元気に、しかも安全な場所で暮らしていることは、この動画で痛いほど理解できた。だが……」


不破の父親が、苦渋の表情で言った。


「あの子たちがくれた手紙や、見せられた動画だけでは、どうしても足りないんだ。残された親として……今すぐ、あの子たちに言葉を返したい。今できる、最大のことを提案させてくれないか」


水上のお父さんがその言葉を継いだ。


「今ここで、我々両親のどちらかのスマホを使い、子供たちへ向けた返信の動画を撮らせてくれないか。それを、その『つながる手』とやらで、今すぐあの子たちへ送ってほしいんだ」


「……分かりました。やってみましょう。スマホをこちらへ」


駿が言うと、水上のお父さんが自分のスマホを差し出し、他の三家の親たちも、次々と自らのスマートフォンを渡してきた。

親たちはその場でカメラを起動し、


「お父さんだよ、お母さんだよ。絶対に諦めないで、先生の言うことを聞いて待っててね!」


と、必死の思いで動画を録画した。


「では、送ります」


駿が四台のスマートフォンを左手にまとめ、スッと力を込めた。

次の瞬間、リビングの八人の親たちの目の前で、四台のスマートフォンが光の塵すら残さず、一瞬で「消失」した。


「「「なっ……!?」」」


父親たちも母親たちも、超自然的な現象を目の当たりにして、驚愕のあまり腰を抜かさんばかりに目を見開いた。


* * *


異世界の客室。


「──みんな、親御さんたちからのメッセージが届いたぞ」


翔の左手から出現した四台のスマホ。生徒たちはそれぞれ、自分の家のスマートフォンをひったくるようにして受け取り、狂ったように画面を起動した。

そこには、泣きながら、しかし必死に笑顔を作って自分たちを励ます、大好きな両親の顔があった。


「お母さん……お父さん……!」


「うわぁぁぁん!!」


客室は、生徒たちの嗚咽と涙で満たされた。だがそれは、昨夜の絶望的な涙とは違う、未来への希望に満ちた、温かい救済の涙だった。

生徒たちはすぐさま、親たちのスマホのビデオ機能で「メッセージ、ちゃんと受け取ったよ!」というさらに短い動画を録画し、翔に手渡した。

翔はそれを左手で受け取り、日本へと送り返す。


* * *


わずか五分後。

柊家のリビングで、呆然と佇んでいた駿の左手の中に、四台のスマートフォンが突如として吸い込まれるように出現した。


「戻りました。動画を確認してください」


手渡されたスマホを親たちが開くと、そこには、今しがた撮影されたばかりの、涙を流しながらも「お父さんお母さんの顔が見られて、本当に嬉しい!」と飛び跳ねて喜ぶ子供たちの最新の姿が映っていた。


「……本当に、騙されているわけでも、監禁されているわけでもないのだな」


水上のお父さんは、我が子が暴力や脅迫に晒されていないことを心から理解し、大きく息を吐き出して、駿の手を固く握りしめた。


「三好駿さん。本当に、本当にありがとう。貴方たち兄弟は、我が家の、いや、我々四家族の救世主だ」


「いえ。僕も兄貴が大事ですから。……一応、言っておきますが、この『つながる手』の転送は、僕が手で持てる範囲の重量や大きさであれば何でも送れます。ただし、向こうで兄貴が『受け取れる状態』にあることが前提条件です。兄貴が寝てたり戦闘中やったりしたら、送られへんので、そこだけはご注意ください」


駿はさらに、翔が異世界の国王と交わした、人権保障と快適な暮らしを約束させる『魂の契約書』の具体的な内容についても説明した。


「最上級の部屋に、毎日三食、現代の日本食に近いメニューを無条件で提供させる契約を結んであります。違反すれば、あちらの王様は即死します」


その説明を聞いた父親たちは、一瞬呆気にとられた後、


「……ハハ、そこまでやるんか」


「あのおっとりした翔先生が、国家を脅迫してホワイトプランをもぎ取るとはな……」


といった、安心感の混じった可笑しげな笑いや呟きを漏らしていた。

今後の地球側での対応について、警察関係者である水上のお父さんから、極めて現実的な提案がなされた。


「あの子たちが無事である以上、我々はこれ以上警察を刺激したくない。記者や野次馬、学校に対しては、現状維持──つまり『忽然と姿を消し、未だ捜査中である』という態度を貫くのが望ましい。我々親一同、時折現れるマスコミには、気丈に振る舞っている風を装って対応しよう。裏で生存が確認できているのだから、いくらでも演技はできる」


「それが一番安全ですね。お願いします」


駿も深く同意した。



4.投資家の「受難」と、夕方の依頼


こうして、重苦しい誘拐・神隠し事件の解決(裏ルート)が完了し、四家族と駿の間に強固な信頼関係が結ばれた。

……結ばれたのは非常に良いことだったのだが。

トイレを借りて戻ると


「駿くん、これから月曜日から木曜日の週四日、夜の市場が閉まっている時間帯は、私達の家で順番に晩ご飯を食べていきなさい」


「えっ? いや、僕はタワマンでデリバリーとか……」


「ダメよ! 二十三歳の男の子がそんな偏った食生活して! 私たちが毎日、最高の手料理をご馳走するからね!」


柊の母親が、母親特有の凄まじい包容力と圧力で駿を押し切る。


「それから、あの子たちに送る服や、向こうで必要そうな私物、あの子たちの好きなお菓子なんかを大量に送りたいんだ。駿くん、手で持てる範囲なら何でも送れるんだろう? 頼むよ」


「う……あ、はい。拒否権はなさそうですね……」


四人の親たちからすっかり気に入られ、未来の義理の息子候補のような、あるいは親戚の頼れるお兄ちゃんのような扱いを受けることになった駿は、月〜木の晩餐アポと、大量の「仕送り物資」の配送役を見事に押し付けられ、タジタジになりながら苦笑いするしかなかった。

夕方六時を回り、柊家での長時間の密会は一度解散となった。

だが、その解散の直前、翔のスマートフォンを経由して、生徒たちから現代日本の親たちへ向けた「とあるお願い」が回ってきた。


『──お父さん、お母さん! 実は向こうで、どうしても欲しいものがあるの! 用意して、明日の夕方に柊さんの家に持ってきてもらえる!?』


「あの子たちがそこまで言うなら、絶対に用意しなきゃね!」


親たちは我が子の願いを叶えるため、明日の夕方、柊家に指定された物品を持って再集合することを約束し、目の色を変えて解散していった。

ようやく解放され、梅田のタワーマンションへと戻ってきた駿は、ぐったりとソファに倒れ込んだ。個人投資家として一日で数千万円を稼ぎ出すよりも、怒涛の勢いを持つ親たちを相手にする方が、遥かにエネルギーを消費したようだった。

駿は疲れた身体を少しだけ起こし、購入しておいた木箱入りの最高級シングルモルトウイスキーと、光り輝く美しいガラスペンを左手に持った。


「──兄貴、送るで」


すっと、手元の木箱とペンが消える。


* * *


異世界の客室で、それを受け取った翔は、耳元に響く駿の、これまでにないほどに擦り切れた「疲れた声」を聞いて苦笑した。


『……ふぅ、やっと解放されたわ。疲れた……。おい兄貴、これ、そのカノーヴァ伯爵とやらに渡しとけ。梅田の百貨店の超ベテラン店員が「英国の爵位持ちなら絶対に喜ぶ」って太鼓判を押したお墨付きの品やからな。……あー、明日は仕送り物資の転送ラッシュや。今からちょっと、寝るわ……』


「ああ、お疲れ様、駿。本当によくやってくれた」


翔は黄金の光を湛えるガラスペンと、桐箱に納められた重厚なボトルを見つめ、日本の弟に向けて、心からの感謝を込めて微笑んだ。


現代の親たちの圧倒的な包容力(と物資配送依頼)にタジタジになる駿でした。

次の話(第16話)は、今夜20:40に更新です。異世界の伯爵へ、日本の最高級お土産を渡します!

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