第十四話:土曜日の梅田百貨店で最高級の贈り物バイイング。そして水上家での一触即発
1.土曜日の梅田と、高級品のリサーチ
翌朝の日本──大阪で起きた高校生集団失踪事件のニュースが未だ世間を騒がせる土曜日の午前。 大阪・梅田の巨大な百貨店に、一人の長身の青年が立っていた。
いつもなら、クーラーの効いた自室のパソコン前で、よれよれのTシャツにスウェットというだらしない格好でチャートを睨みつけている三好駿であったが、今日の身なりは違った。仕立ての良いジャケットに身を包み、非の打ち所のない綺麗めな「余所行きの服」を着こなしている。
「英国の伝統的な爵位、それも伯爵級の歴史を持つ家柄の方が、心から喜ぶような日本の最高級品。……何かそれに該当するような物はありますか?」
駿は紳士用品売り場や高級美術品コーナーで、丁寧な物腰の店員を捕まえては、投資家ならではの鋭い質問攻めを繰り返していた。店員も、その長身で上品なハーフ顔の青年から放たれる「本物の資産家」のオーラを敏感に察知し、お辞儀の角度をいつもより深くして、恭しくお勧めの商品を提示してきた。
数時間に及ぶ徹底的な聞き取り調査の結果、駿が選んだのは二品だった。
一つは、日本の職人が何ヶ月もかけて磨き上げた、光の加減で芸術的な色彩を放つ最高峰の「ハンドクラフト製ガラスペン」。
そしてもう一つは、桐の箱に納められた、世界的に絶大な評価を得ている日本の最高級シングルモルトウイスキーのヴィンテージボトル。
(これなら、異世界の伯爵とやらも文句は言えんやろ)
用事を済ませた駿は、百貨店の地下、いわゆるデパ地下の隅にある賑やかな立ち食いフードコートへ滑り込んだ。高級レストランに入る時間すら惜しかったのだ。熱い麺を一気にすするような手早い昼食で腹を満たすと、すぐに手元にある「四つの住所」へと意識を向けた。
ここからが、今日の本番だ。
駿は気合を入れ直すようにジャケットの襟を正し、最初の目的地へと向かった。
2.水上家での対峙と、四家族の招集
駿が最初に訪れたのは、水上陽斗の実家だった。土曜日ということもあり、玄関のチャイムを鳴らすと、すぐに重々しい足音が響いてドアが開いた。
現れたのは、頑強な体躯をした、鋭い眼光の男だった。大阪府警に勤務する、陽斗の父親だ。
男はドアを開けた瞬間、駿の顔を見るなり、その胸ぐらをものすごい力で掴み上げて怒鳴り散らした。
「──翔ッ!! 貴様、どの面下げて戻ってきた! 陽斗たち四人を、一体どこへやったんや! 言えっ!!」
「ちょ、待っ……痛たた! 離してください、人違いです!」
「言い訳はいらん! 警察をなめるな!」
一触即発の事態に、奥から慌てて飛び出してきた母親が割って入った。
「あなた、やめて! 落ち着いて、よく見てちょうだい! 翔先生はもっと物静かで、この子とは雰囲気が全然違うわ!」
「な、何やと……?」
父親がハッとして手を離す。駿は衣服の乱れを整えながら、ふぅと息を吐き、真剣な眼差しを両親に向けた。
「お初にお目に掛かります。私は三好翔の双子の弟で、三好駿と申します。……お父さん、お母さん。陽斗くんは、生きています。無事です」
「……何、だと?」
駿はすぐに、昨夜スマホを通じて受け取った「手紙」と、笑顔で喋る陽斗の「グループ動画」を差し出した。
手紙に書かれた文字は、間違いなく息子の汚い筆跡だった。そして、画面の中で「翔先生がいるから大丈夫!」と笑っている陽斗の姿を見て、母親はその場に泣き崩れ、父親は我が目を疑うように絶句した。
「すまなかった……。取り乱して、本当に申し訳ない」
父親は深く頭を下げ、駿に謝罪した。
「気にしないでください。それより、これから不破くん、柊さん、橘さんの家を順に回る予定なんです。……ですが、皆さん、お互いに連絡を取り合って不安な日々を過ごされているんですよね?」
「ああ、毎日ラインや電話で情報を共有し、励まし合っている」
「なら、今から一箇所に集まって話をしませんか? その方が一度に手紙も動画も確認できますし、これからの段取りも決めやすい」
駿の提案に、陽斗の父親は即座に賛同した。
「よし、それなら私が今から他の三家に連絡を取り、すぐに集合をかけよう。場所は、一番広くて集まりやすい柊の家が最適だろう」
段取りが決まると、駿は一旦水上家を辞し、移動の合間に耳元で異世界の翔へと連絡を取った。
「──兄貴、聞こえるか。今、日本側で四家族を柊家に集める段取りをした。一時間後にそっちのスマホを一時的に返却する。何とか理由をつけて、生徒四人と一緒に自分の部屋で待機しておいてくれ。その時に、伯爵への手土産も一緒に送るわ」
その頃、異世界では夕方。
伯爵家の好意に甘え、午前中から昼過ぎまで、グスタフを伴ってカノーヴァの美しい異世界の街並みを散策させてもらっていた翔は、屋敷に戻って遅めの昼食を食べているところだった。
「分かった、駿。生徒たちには俺から上手く言って、一時間後に俺の個室に集まらせておく。日本の親たちのこと、本当に頼んだぞ」
陽斗のお父さん(大阪府警)、強烈な初登場でした。
次の話(第15話)は、明日朝07:40に更新。日本と異世界を繋ぐ、前代未聞のビデオ会議が始まります!




