第十一話:ギリシャ彫刻の如き強靭な肉体と、少女たちの間に芽生える確かな絆
5.男たちの絆と、深まる信頼
女子組が十分に満喫した後、交代の時間となった。
「お待たせしました、翔先生! すっごく気持ちよかったよ!」
髪を濡らし、ほんのり肌をピンク色に染めたほのかと鏡花が、さっぱりとした満面の笑みで戻ってきた。
その後ろからは、アデライードとベアトリーチェも、心なしかすっきりとした、 少し恥ずかしそうな表情で付いてきている。アデライードのトゲトゲしていたオーラは、 すっかり鳴りを潜めていた。
「よし、それじゃあ次は俺たちの番だな。グスタフさん、レオンさんも、 長旅の疲れを癒してください」
翔の誘いに、二人の騎士も「では、お言葉に甘えて」と衣服を脱ぎ始めた。
生徒の水上と不破は、騎士グスタフとレオンの、 長年の訓練で鍛え抜かれた無駄のない鋼のような肉体に「おお、すげえ……」と憧れの声を上げていた。
だが、その二人が衣服を脱ぎ捨てた翔の「肉体」を見た瞬間、その場の全員が息を呑んだ。
身長百九十センチ。
十年間のバスケットボールの激しいトレーニングによって培われた、 ギリシャ彫刻のようになめらかで、かつ圧倒的な存在感を放つ強靭な肉体。
さらに、その胸元や背中には、昨日駿が購入してくれたステータス補正装備の効果による、 うっすらとした不可視の魔力のオーラが入れ替わっていた。
「せ、先生……。服着てるときもデカいと思ってたけど、脱いだらマジで化け物じゃん……」
不破が圧倒されて呟いた。
「おいおい、不破。教師に向かって化け物とは失礼な」
翔は苦笑しながら、お湯にドボンと浸かった。
「あはあ……。極楽だな。やっぱり日本人はこれがないと始まらない」
グスタフとレオンも隣に浸かり、その心地よさに「ふぅー……」と深い吐息を漏らした。
「いや、翔殿。これほど素晴らしいものが、魔法一つで即座に作れるとは。 あなたの教え子たちの【大魔導】のスキル、恐るべき実用性ですな」
グスタフが感心したように言った。
「彼らはただ魔力が高いだけじゃない、状況に応じて機転を利かせる賢さを持っています。 俺の自慢の生徒たちですよ」
翔は誇らしげに言い、水上たちの頭を湯の中で軽く小突いた。
「ほら、お前ら。騎士の皆さんに身体の動かし方をしっかり教わるんだぞ。 能力にかまけてたら、いざという時、自分の身体すらコントロールできなくなるからな」
「はい!」「分かってます、先生!」
水上と不破は、翔のその引き締まった肉体と、揺るぎない力強さに改めて憧れを抱き、 強く頷いた。
最後には、護衛の冒険者たち(男組・女組それぞれ)にも交代でお風呂に入ってもらい、 全員の疲労は完全にリセットされた。
ふたたび街道へと馬車を出発させたとき、真ん中の馬車の中では、大きな変化が起きていた。
「橘さん、柊さん。あなたの世界のお風呂というのは、本当に素晴らしいものですわね。 私の領地についたら、お父様に頼んで、同じようなものを作らせますわ!」
アデライードが、楽しそうにほのかの手を握って笑いかけていた。
「うん! アデライードちゃん、今度はお風呂の中で使える、いい香りのする石鹸の作り方も教えてあげるね!」
鏡花が微笑む。
敬称を抜きにして名前で呼び合うほどに、少女たちはすっかり打ち解けていた。
しかし、翔を見るアデライードの目にはまだ特大の棘が潜んでいた。
「橘さん、柊さん。カイル様達があのような人に負けるとは思えません、召喚の儀であの人がどのように戦ったか教えてもらえますか」
鏡花が困った顔で答えた。
「アデライードちゃんはカイルさんの婚約者だったんだよね?ベアトリーチェちゃんはジーモさんの」
「はい、それぞれ婚約者でしたわ。頻繁にお会いできるわけではありませんでしたが、父もカノーヴァ卿もその実力を見込んだお二人でした」
「実際の強さは私にはわからないから、わかることだけ言うね。アデライードちゃんは信じられないかもしれないけど」
鏡花はまっすぐアデライードに視線を合わせ苦言を言った。
「あの4人は私でもわかるくらい嫌悪と失望の目で私たちを見た。次に言った言葉が『ハズレ、ただの人間、しかもガキと教師、 戦力外にも程がある』彼らが希望したものではなかったのはわかる。でもね、言葉が分かる相手に吐き捨てるように言ったの」
「カイル様はそんな方ではありません!」
「ええ、あなたやベアトリーチェちゃんの前ではそうなんでしょうね。でもね、『天啓の聖石』を私たちが使うことになった時、彼はこう言ったわ、『俺たちが死に物狂いで掴み取った権利だ! 暴力で脅して奪うなど、お前たちそれでも人間か!』」
「それは普通のことでは?代表候補パーティーである以上、自身や従魔を強化して闘技大会で勝たなければなりません」
「そこが違うのよ、私たちはこの国やカイル達が行った召喚で無理やり連れさられた。もしこれがアデライードちゃんが無理やり連れ去られたとしたら、連れ去った人たちに理由があれば仕方ないと思う?」
話を聞いていたアデライードが自身の肩を抱き震え始めた。そんな彼女をベアトリーチェが優しくつつみこみ止めた。
「橘様、そこまでにしていただけますか」
「はい。何か触れてはいけない部分に触れてしまったみたいで。申し訳ございません」
時間がかかったがアデライードの震え治まった。
「・・・・いいんです。橘さんのおっしゃった意味、わかりましたわ。私はこの国や父が見込んだカイル様の立場でしか見てなかったのですね」
「わかってもらえて良かった。このままギクシャクして次の町までは厳しかったからね」
鏡花が少しおどけた口調で場を和ませた。アデライードも少しぎこちない笑顔で答えた。
お風呂という共通の文化を媒介にして、旅の一行の絆は、より一層強固なものへと変化していた。
北への旅路は、謎のスキル【つながる手】の驚異的な可能性と、 新たな信頼関係という、最高の収穫を伴いながら、力強く進んでいくのだった。
翔先生の脱いだら凄い肉体(+課金装備オーラ)と、お風呂をきっかけに少しずつ打ち解ける少女たちでした。
次の話(第12話)は、今夜20:40に更新です! 弟の駿、日本でとんでもない行動に出ます。




