第百四話:画面越しの再会と、衝撃の告白
ディスプレイの向こう側に映し出されたのは、異世界のブルグンド公爵城の豪華な応接室だった。
画面の中には、凛々しい表情の三好翔、そして水上、不破、橘、柊の生徒四人。さらにその脇には、重厚な威厳を放つブルグンド公爵と公爵夫人、そして遠隔魔導書を通じて同席しているカノーヴァ伯爵。さらには、アデライード、ベアトリーチェ、アイリスの姿があった。
「ベアト、アイリス……翔様のご両親とお話しするの、すごくドキドキしますわね……」
画面の向こうで、アデライードが緊張した様子でドレスの裾を握り締めている。
「そうですわね、アデライード。翔様はお母様似とおっしゃられていましたから、きっととても綺麗な方なのでしょうね……」
ベアトリーチェの囁きが、高性能なマイクを通じて日本側にも漏れ聞こえてくる。それを聞いた翔は、少しむず痒そうに耳を掻きながら、画面に向かって朗らかに声をかけた。
「皆様、準備は整いました。……始めてもよろしいでしょうか?」
異世界側の公爵たちの了承を得て、翔が通信を完全に同期させた。
「お父さん、お母さん、お久しぶりで──」
翔が挨拶を言いかけた、その瞬間だった。
画面の向こうに映る、エレノアの姿を見たブルグンド公爵、そして公爵夫人が、弾かれたように立ち上がった。さらに、遠隔魔導書越しに参加していたカノーヴァ伯爵までもが、ワイングラスを床に落として絶句した。
「「「──セリア・エレノア!??!?」」」
応接室に、雷が落ちたような衝撃が奔った。
日本側の画面の前で、エレノアは驚く公爵たちを見つめ、何事もなかったかのように優雅に微笑んだ。
「あら……ブルグンド公爵家子息のあなたが、なぜそこにいらっしゃるのかしら?」
スピーカーを通じて届く、エレノアの愉快そうな、そしてどこか懐かしむような声。
「い、生きて……生きておられたのか……!?」
ブルグンド公爵が、か細い、震える声で呟いた。普段の「北部の覇者」としての圧倒的な威厳は完全に吹き飛び、まるで幽霊でも見たかのように青ざめている。
周りの生徒たちや親たちは、公爵たちの尋常ではない反応に、完全に気圧されて見入っていた。
「ええ、生きているわよ。……かつて婚約者であったあなたに、何も告げられずにそちらを離れることになってしまって、ごめんなさいね」
「な……、婚約者……!?」
翔と駿が、同時に叫んだ。
「おかん!? 一体どういうことやねん!?」
「母さん、公爵閣下と婚約者だったって、どういうことですか!?」
双子の悲鳴のような問いかけに対し、エレノアはくすくすと上品に笑った。
「あの日、王宮で何があったのか……話せば長くなるわね。でも、今は過去の昔話よりも、バカ息子たちのこれからのことを話しましょう?」
「おかん、ええんか!? めっちゃ凄まじく大事そうな話やんか!?」
「いいのよ。私の過去の経緯は、後であなたたちにたっぷり話してあげるわ。……今は、来ていただいた皆様に関係のある、大切な議題を進めましょう」
エレノアの一言で、場の主導権は完全に彼女へと握られた。公爵もカノーヴァ伯爵も、動揺を隠せないまま、言われるがままに席につくしかなかった。
5.世界間家族会議と、残された火種
その後、家族会議は極めてスムーズに、かつ重厚に進められた。
まず、翔から異世界側での進捗が報告された。
「父さん、母さん。……そして皆様。私、三好翔は、ブルグンド公爵家の直系アデライード様、カノーヴァ伯爵家のベアトリーチェ様、そしてアイリスさんの三人との『婚約』を、両家から正式に認められました。ただし、彼女たちが十八歳を迎えるまでは結婚はせず、正式な婚約という形にとどめております」
日本側の親たちからは驚きの声が上がったが、翔の誠実な決意と、異世界での「人権と安全」が完全に確保されている説明を聞き、全員が深く納得した。
続いて、生徒たちの現状と今後のロードマップが示された。
「先日、生徒たちを含めた九人で、国内最高峰のダンジョン『天空の神殿』を完全攻略いたしました。この実績をもって、約半年後に開催される二つの闘技大会──『天上の闘技大会』と『深淵の闘技大会』に出場いたします。この二つの大会で確実に一位を獲得することで、最深部にある『天上のダンジョン』『深淵のダンジョン』への入場権が得られます。……そこに、生徒たちが地球へ帰るための決定的な手がかりがあると確信しております」
「さらに」と、翔は力強く言葉を継いだ。
「私自身がダンジョン攻略を通じて成長することで、固有スキル『つながる手』の能力も拡張され続けています。将来的には、このスキルそのものが成長し、生徒たちを直接地球へ帰すことができるようになるかもしれません。……皆様の子供たちは、私が責任を持って指導し、監督いたします。どうか、ご安心ください」
画面の向こうで、水上、不破、橘、柊の四人の生徒たちも、しっかりと成長した凛々しい顔つきで両親たちへ深く頭を下げた。
親たちは感極まって涙を流しながらも、我が子の無事と頼もしい姿に心からの安堵を覚えた。
こうして、双方の現状説明、および翔と駿の「二つの世界における婚姻・婚約」の報告は、両家の親たちの深い理解と賛同を得て、滞りなく終了したのだった。
しかし──。
「……では、子供たちの件はこれでひとまずまとまりましたね」
会議の終わり際、エレノアがサクラ色の唇を妖艶に歪め、画面の向こうのブルグンド公爵とカノーヴァ伯爵をまっすぐに見つめた。
「さて……ブルグンド。そしてカノーヴァ。……子供たちの話が終わったのだから、今度は私とあなたたちの『あの日の未清算の件』について、じっくりとお話しさせてもらいましょうか?」
画面の向こうで、ブルグンド公爵とカノーヴァ伯爵の顔が、目に見えて引きつった。
「「……ッ!?」」
「母さん……?」「おかん……?」
翔と駿の双子が、嫌な予感に冷や汗を流す中、世界間リモート家族会議は、新たな、そしてより巨大な「波乱の幕開け」を予感させながら、静かに通信を終えるのだった。




