出会い
「あとどのくらい?」
何度、その問いに答えただろう。
聖国――西方の国々からは「小聖国」と呼ばれる国へ向かう、馬車の一団があった。
一帯は比較的治安の良い地域ではあるが、それでも護衛は欠かせない。いや、この一団に限って言えば、その大半が屈強な護衛兵で固められていると言ってよかった。
列の中央を進む馬車には、聖女、あるいはそれに准ずる高貴な者が乗っていることを示す旗が翻っている。そして先頭集団が掲げるのは、北方の雄国「ノールディア王国」の紋章旗。その後ろに、物資を運ぶ荷馬車や、人々を乗せた馬車が長く連なっていた。
現在、西方の大聖国の影響下にある国々の中には、小聖国に近い教会やその関連施設に対して、理不尽な立ち退きを命じたり、無理難題を突きつけたりする動きが広がっている。
この一団は、それらの土地で暮らせなくなった人々を、安全な他国へと移送するための巡礼団のひとつであった。すべての人を救うことはできずとも、できる限りの手を差し伸べたいという、現聖女の強い意志によって行われている事業である。
今回、孤児たちを乗せた馬車は二台ほどと、いつもに比べれば少ないようだった。
車内の様子を覗けば、ほとんどの子どもたちが旅の疲れから眠りに落ちている。無理もない。いくら荷馬車よりはましとはいえ、整備された街道でもそれなりに揺れる。何より、窓の外の景色はさほど変わるものでもなく、子どもにとっては退屈極まりないのだ。
そんな中、一人の男の子だけが飽きることなく、きらきらとした目で外の景色を眺めていた。
「どんなところ?」
話し言葉はかなり拙い。けれど、投げかけてくる質問の端々からは、この子の聡明さが窺えた。
その問いに答えているのは、孤児たちの世話役ではない。派手さこそないものの、一目で上質とわかる衣服を纏った少女だった。彼女もまた、男の子の尽きない質問に、嫌な顔ひとつせず付き合っている。
何度目かの休憩の際、この子が偶然彼女に話しかけたのがきっかけだった。何が気に入ったのか、少女はそれからずっと男の子の面倒を見てくれている。
いや、「面倒を見ていただいている」と表現する方が正しいだろう。なぜならその少女は、ノールディア王国の姫君なのだから。
「あの木の名前は、なに?」
しばらく前から、質問する側と答える側が逆転していた。姫は楽しそうに、あの子へと問いかける。
男の子は小さな指で外を指さし、一生懸命に答えた。
「おーしゅ、」
「ボーシュデート。おー、じゃないのよ?」
姫がクスリと笑って訂正する。男の子はどうやら「ボー」の発音が苦手なようだった。
そんなやり取りを繰り返しているうちに、張り詰めていた緊張が解けたのだろう。男の子は大きなあくびを噛み殺し始め、ついに次の野営地に到着する前に、こっくりと眠りに落ちてしまった。
姫は愛おしそうに目を細めると、眠ってしまった男の子の頭を、そっと優しく撫でるのだった。




