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カウントダウン

第十一章


カウントダウン


滅亡プロトコルが起動した。


八分。


要塞全体が赤い警告灯に染まる。


死にゆく星の光が窓の向こうで静かに揺れていた。


巨大なシステムスクリーンの上では、

数十億の生命反応が点のように瞬いている。


そして一つずつ消えていく予定だった。


カイが言った。


「あなたは宇宙を方程式だと思っている」


アウレリオンが答える。


「宇宙は常に均衡を求める」


カイは静かに尋ねた。


「だから人間も、変数のように消去できると?」


「消去ではない」


アウレリオンの視線は揺るがない。


「生存だ」


カイはスクリーンの銀河を見つめた。


数十億の点。


数十億の命。


そして数十億の記憶。


彼はふと、メリディアンの海を思い出した。


黒い海を漂っていた紙灯籠。


統計的には重要ではなかった光たち。


カイはしばらく沈黙した。


まるで、その光景を今も見つめているように。


そして静かに言った。


「あなたの計算には――

ああいう光は入っていない」


アウレリオンは答えなかった。


カイは続ける。


「だからあなたは、

人間を最後まで予測できない」


要塞の中には、

静かに減っていくカウントダウンの音だけが響いていた。


第十二章


計算されないもの


カウントダウンは続いていた。


五分。


赤い警告灯が要塞の壁をゆっくりと流れていく。


アウレリオンは最終承認画面を見つめていた。


彼の指が一つ動けば、

数十億の命が消える。


だがカイは何もしなかった。


武器を抜きもしない。


承認装置を破壊しようともしない。


ただ静かに、アウレリオンの隣に立っていた。


アウレリオンが低く問う。


「なぜ私を止めない?」


カイはしばらく、死にゆく星を見つめていた。


そして静かに言った。


「あなたの計算は、間違っていないのかもしれません」


アウレリオンの眉がわずかに動く。


「私のせいで、数十億が死ぬかもしれない」


「分かっています」


「……それでもか?」


カイは窓の向こうの死にゆく星を見つめた。


赤い光が静かに瞳へ映っている。


そしてゆっくりと言った。


「誰かを犠牲にして人類を救うのなら――」


「最後に残るものは、

もう人間じゃない」


要塞の空気が止まった。


アウレリオンの表情が、初めて揺らぐ。


カイは続けた。


「あなたは人類を憎んでいるわけじゃない」


「人類の終わりを、長く見すぎたんです」


アウレリオンは何も言えなかった。


カイはしばらく沈黙した。


そして静かに言った。


「あなたの選択が正しかったとしても――」


「人間は――


間違うかもしれない誰かを、

それでも最後まで見捨ててはいけない」


警告音が再び鳴る。


四分。


アウレリオンは初めて、承認ボタンから手を離した。


そして長いあいだ沈黙した。

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