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「失礼します。お茶をお持ちしました」
ノックの後にドアが開かれるとそこにメイドさんが一人立っていた。
その手には白磁のトレーを持ち、やはり白磁のティーポッドとカップのセットが三つ載せられている。
どことなく、本当にどことなく気品のあるような気のする陶器たちだ。
それらを持ったまま、しかしメイドさんは部屋に踏み込むことはせず入り口のところで立ち止まったままだ。
これは遠慮しているのでも礼儀作法に則っているのでもない。
俺の仕込みだ。
「クーネ。悪いが受け取って来てくれ」
「あたしが?」
「大事な話の途中なんだ。頼む」
そう言うと、不承不承ながらクーネリアは立ち上がりドアの方へと向かった。
そしてメイドさんからトレーを受け取りこちらへと戻ってくる。
そういった行為にはあまり慣れてないのか、クーネリアの顔ははいつになく集中している。
一つのトレーとは言え三人分のティーセットだ。
バランスを取るため手元に最大限の注意が注がれている。
何せこぼしたら大変だし、ましてやティーセットを落としてしまったりしたら目もあてられない。
弁償しようにもクーネはほとんど文無しだから困るだろう。
だから残念だ。
君はいい偽妹だったが君の偽兄がいけないのだよ。
そう。
パルメディアの弟子として正しく成長したこの偽兄が。
(石)
俺は小さく呪文を唱えクーネリアの足元に小石を生み出した。
それは些細な行為だが、しかし何もないと思って歩いているところに突然障害物が生まれたらどうだろう。
ましてクーネリアの意識はトレーの上へと集中している。
足元への注意はまったくと言っていいくらいに散漫になっていたはずだ。
結果は明白。
クーネリアはものの見事につまずいた。
バランスを崩して前方へとつんのめってティーセットが空を舞う。
そこまで確認したところで俺は術式を解いて小石を消滅させた。
かくして証拠は隠滅され完全犯罪が成立する。
クーネリアは転倒し、ティーセットは粉々、カーペットはびしょびしょだ。
「だ、大丈夫。怪我してない?」
「なんともない、けど……」
すぐさま席を立ったレーンがクーネリアを助け起こす。
もちろんただコケただけなので大事はないだろう。
しかしクーネリアにはその判断がつかないようだった。
もしかしたら自分の転倒が俺の作戦を台無しにしてしまったのでは――そんな『あたしやっちゃった?』みたいな顔で俺を見ている。
安心しろ。
お兄ちゃんの作戦は順調だ。
何せクーネリアには『相手を罠に掛けて騙す』とは伝えたがその相手がレーンだとは一言も言っていない。
俺の標的は最初からお前なんだよ、クーネちゃん。
時間が巻き戻る度に顔面を踏んだり店で一番高い服を買わそうとしたり、今までの悪行のおしおきをここで受けてもらおうじゃないか。




