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あの賢者タイムをもういちど  作者: 妖怪筆鬼夜行
一章『あたらしい朝が、来ない……』
33/91

1-32

 俺は騒ぎ立てず無言で立ち上がりクーネリアへと近寄った。

そこでもあえて声を掛けず偽妹の頭に手を乗せて無言を貫き通す。

喋ればこのウキウキが漏れ出してしまう。

だがまだ早い。

まだびっくりどっきり大成功の時間ではない。

俺は、クーネリアの頭から手を離し、ティーセットの残骸(ざんがい)(かたわ)らに移動してしゃがみ込んだ。

そして砕けた白磁の破片を一つ手に取り、ため息とも深呼吸とも取れないような長い息をわざとらしくしてみせる。

それによって場の空気が一段重いものになった。

俺が喋らないことでクーネリアもレーンも何も言えない。

二人はきっとこう思っているだろう。


――この兄は怒りを抑えているが、これはきっとよくない状況だ、と。


 そう。

俺は怒らない。

クーネリアには責任を取ってもらわなければならない。

と言うか、取らせるために罠にはめたのだ。

ここで怒ってしまってはこれ以上の罰はオーバーキルだとかレーンに怒られかねない。

だからここはあくまでもクーネリアの抵抗力を削ぐことに徹しておく。


「メイドさん。このティーセットは……」

「はい。代々王室に受け継がれてきた家宝でございます。勇者様へお出しするならそれを使うようにとジェームス様の仰せだったのですが……」


 嘘である。

当然、俺が仕込んでおいた芝居である。

しかしそうとは知らないクーネリアは今のを聞いて、さすがにちょっとまずいかな、という感じで顔をそらしてむくれている。

思ったより図太いな。

罠にはめた俺が言うのもなんだが、この()(およ)んでまだ反骨心が残っているとは大した魔王だ。

しかしここで手を緩めるほど俺は甘くない。

当初予定の()()()()はもう目の前だ。

きっちりとクーネリアを型にはめるとしよう。


「クーネ。ジェームス様には俺から言うから心配するな」

「あ、う、うん。ありがとう。お兄ちゃん」


 俺の言葉を聞いてクーネリアはようやくしおらしい態度をした。

同時にレーンもほっとした様子でようやく動き出す。


「ぼ、ボクも何か手伝えることがあったら協力します。さすがに壊れちゃったものは元に戻せないけど……」

「お気になさらずに。これは我が家の問題ですから」


 レーンに手を出されるのはまずい。

もしもジェームス王のところに行かれてしまえば俺の小芝居がバレてしまう。

王にはこの作戦のことは伝えていないのだ。

レーンの裸パンチ問題を説明できないから作戦の伝えようがない。

家宝のティーセットなど存在しないことが露見(ろけん)すれば計画は台無しだ。

誤解のないようにしてもらいたいが、これはあくまでもループ現象を解決するためにやっている。

楽しいか楽しくないかで言えば楽しいに決まっているのだが、それはあくまでも役得のようなもの。

決して今までの仕返しにクーネリアをいじめて遊んでいるわけではない。

これからクーネリアに与えるおしおきが状況を変えるきっかけになるはずなのだ。


「クーネ。お金のことは大丈夫だ。誠心誠意謝ればジェームス様なら許してくれる。分かるな。問題はお金じゃなくて誠意なんだ」

「分かってるわよ。あたしだって、ちゃんとごめんなさいするわよ」

「そうかそうか。それはじつにいい心がけだ」


 ならば見せてもらおうか。

クーネちゃん渾身(こんしん)の誠意とやらを。


「それじゃあすぐに始めるから、お(つと)め、がんばろうな」


 俺はクーネリアの肩に手を置き微笑みかけた。

だって、今にもましてこの後が楽しみでしかたがないのだから。

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