石焼きいも屋
近藤は、これまでとは異なってどこかに所属するのではなく、移動販売車による石焼きいも屋を始めました。
「焼きいも~。石焼きいも~」
そうした音声を流しながら、トラックを街にゆっくりとしたスピードで走らせたのです。
しばらくすると、小走りで近づいてくる女性の姿を目にし、車を停めました。
「くださいな」
中年であろう、その女の人は言いました。
「いるんだ」
近藤はつぶやきました。
「は?」
「いえね、今どきまだ車で売る焼きいもを買う人がいるのか確かめてみたくなったんですけど、いるんですねー。へえー」
そう口にすると、まじまじとその女性を見つめました。
「何よ、それ。馬鹿にしてるの?」
「馬鹿になんてしてませんよ。ただ、いるんですねー。ほお~」
近藤は再び物珍しそうに女性を眺めました。
「やだ、馬鹿にしてるじゃない。もういいです!」
女性は怒って去っていきました。
「いけね」
近藤は反省しました。こんな調子では、またお金を手に入れられなくなってしまいます。
そして、再びトラックを走らせました。
「焼きいも~。石焼きいも~」
しばらくすると、先ほどより若そうな女性がやってきました。
「ください」
すると、近藤はつぶやきました。
「いるんだ」
焼きいもを売ることができず、近藤はその仕事を辞めたのでした。




