スーパーの店員
思わぬ早期にプロレスラーの道を絶たれてしまった近藤は、食いつなぐために、求人誌で募集しているのを見て、スーパーマーケットの店員になりました。
そこで、店長の男性からレジをやるように指示されたのですが、なんとこのように返事をしたのです。
「嫌です」
「え?」
店長は唖然としました。それはそうでしょう。自ら望んで申し込んできた仕事ではないのか? と。
何度か言えば渋々やるものの、その後もたびたびこう返すのです。
「だから、嫌ですって」
「なんでだよ!」
店長は少々短気な性格ですが、最近はパワハラなどになったら大変なので、しないように気をつけているというのに、思わず怒鳴り口調で言ってしまいました。
「品出しをやらせてください」
実は、近藤は、客としてスーパーを訪れていたときに、新しく入った店員がレジを行う割合が高いことに気づき、「レジ=下っ端がやること」と頭にインプットされていたのでした。それは単にレジ打ちの仕事に慣れさせるためだというのに。
一方で彼は、このままではまたしてもクビになって職を失ってしまうという危機感も抱いていたので、店長に気に入られようと頭をひねりました。
「店長」
「何だ?」
「黒ずんできたバナナを値下げして販売してますけども、あの状態のほうが甘くて食べ頃なんですよ」
「わかってるよ、んなことは。でも、見た目が悪いし、あれ以上になる前に売らなきゃいけないから、敢えてやってんの!」
近藤は「やばっ! また店長の機嫌を損ねてしまった」と思い、アワワとなりました。
それで、再度考えを巡らせました。
「店長」
「何だ?」
「今日のチラシでお得とアピールしてる、これとこれ。他の店はもっと安くて、なのにチラシに載せてもいませんよ」
「……」
店長の苦虫を噛みつぶしたような顔つきに、近藤は「やっばー! またまた店長の機嫌を損ねてしまった」と思って、一層アワワとなりました。
不安に押しつぶされそうになった近藤は、店長に退職届を提出して、店を去っていきました。
店長の男性はつぶやきました。
「何だったんだ? あいつは」




