表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
69/73

第六十九話 本物の力と本質の力

 ヴェスタを隔離し終えた瞬間、亜空間は「戦場」としての本性を露わにした。

 黒紫の霧が渦を巻き、金色の光が稲妻のように走り、空間そのものが呼吸するように脈動している。

 アリスはゆっくりと息を吸い、胸の奥でアレスの意志とエリスの魔力が重なり合うのを感じた。

 対するオルクスは、まるで舞台の幕が上がるのを待っていたかのように、静かに、しかし確実に死神の気配を濃くしていく。

 オルクスの足元から黒い霧が立ち上り、それは瞬く間に亜空間全体へ広がった。


「……ようやく邪魔が消えたな。ここからは――殺し合いだ」


 その声は低く、しかし空間の奥底まで響くような重さを持っていた。

 アリスは眉をひそめる。


(……空気が重い。これが死神の本気……? アレスの時よりも、ずっと濃い……)


 オルクスの魔力は、死そのもののように冷たく、触れれば魂ごと凍りつくような質を持っていた。

 黒い霧が形を変え、巨大な鎌のような刃がオルクスの背後に浮かび上がる。


「アレス・オリンの影よ。お前がどれほどの力を持とうと――死は覆せぬ」


 アリスは静かに首を振った。


「影じゃない。わたしは――アリス」


 アリスの足元から、黒紫と金の光が同時に噴き上がった。

 金はアレスの「光」の輝き。

 黒紫はエリスの「闇」の深さ。

 二つの魔力が混ざり合い、境界そのものが震える。


「あなたを倒す。仲間に危害を加えたあなたを許さない!!」


 その瞬間、アリスの髪が風もないのに揺れ、朝焼けと夜の境界のような色が亜空間に反射した。

 オルクスの目がわずかに細まる。


「……その色。その魔力。やはり『あの二人』の影響か」


 アリスは微笑む。


「影じゃないって言ってるのに」


 オルクスが一歩踏み込んだ。

 そのとき、亜空間が金切り声を上げた。

 空間が裂け、黒い刃がアリスの首元を狙う。

 速い。

 視界から消えるほどの速度。

 だが――アリスの身体は自然に動いていた。


(来る――!)


 アリスは半歩だけ後ろへ下がり、刃を紙一重で避ける。

 風圧だけで頬が切れた。

 オルクスは笑う。


「避けるか。ならば――これはどうだ」


 黒い霧が一斉に形を変え、数十本の刃となってアリスを包囲する。

 アリスは息を吸い、指先を軽く払った。


守護防壁ディフェンシブ・ウォール


 黒紫と金の線が空間に走り、オルクスの刃をすべて弾き返す。

 金の線は聖なる力で、黒紫の線は魔の力で、二つが交差するたびに空間が震えた。

 オルクスは刃を引き戻しながら言う。


「なるほど。アレスの白魔法と、エリスの黒魔法……二つを同時に使うか」


 アリスは笑む。


「私の力は二人の力そのものなんだから、当然でしょ?」


 オルクスは首を傾げる。


「だが――その力は借り物だ。本物には勝てぬ」


 アリスの瞳が鋭く光る。


「借り物じゃないよ。わたしのは本物だもん。だから――負けない」


 オルクスは笑った。


「ならば証明してみせろ。その『本物の力』とやらで――死を超えてみせろ!」


 オルクスが再び踏み込む。

 今度は速度だけでなく、死の圧が空間を押し潰すように迫る。

 アリスは両手を広げ、光の波動を呼び起こす。


神聖光弾ホーリー・ショット――!」


 黒紫と金の光が爆発し、二人の間で衝突した。

 亜空間が大きく歪み、空間の壁が砕けるような音が響く。

 オルクスの刃がアリスの肩をかすめ、アリスの光弾がオルクスの胸を打つ。

 互いに一歩も引かない。

 オルクスは後退し、胸元の傷を指でなぞった。


「……面白い。本当に借り物ではないようだな」


 アリスは肩の傷を傷部回復スクラッチヒールで治しながら、静かに息を整える。


「大丈夫……まだ動ける。アレスなら――絶対に諦めない。ここからが本番だよ、オルクス」


 オルクスは黒い霧をさらに濃くし、死神としての本気を解き放つ。


「ああ。ここからは――死の領域だ」


 アリスは直感した。


(……来る。オルクスの本質が!!)


 オルクスはゆっくりと息を吸い込んだ。

 その動作だけで、亜空間の霧が後退する。


「アリス。お前は強い。アレス・オリンの力を継ぎ、エリスの魔を宿す。だが――」


 その声が変わった。

 低く、深く、まるで地の底から響くような音。


「死を知らぬ者に、死神は倒せぬ」


 黒い霧がオルクスの足元から噴き上がり、その身体を包み込む。

 アリスは反射的に後退した。


(……魔力の質が変わった。さっきまでの死の気配とは違う。これは……もっと根源的な……)


 霧が渦を巻き、オルクスの輪郭が歪む。

 骨のような白い線が浮かび上がり、黒い霧がそれを覆い、やがて形を作り始めた。

 アリスが攻撃魔法を放っても、いともあっさりと弾かれてしまう。

 そして霧が晴れた瞬間、アリスは息を呑んだ。

 オルクスの姿は、もはや人型ではなかった。

 背後に広がるのは、巨大な骸骨の翼――

 骨と霧が混ざり合い、羽ばたくたびに空間が削れる。

 腕は細く長く伸び、指先は刃のように鋭い。

 その一本一本が死の概念を帯びている。

 顔は仮面のように白く、目の部分だけが深い闇の穴となっていた。

 その穴を覗き込むだけで、魂が引きずられそうになる。

 アリスの背筋に冷たいものが走る。


(……これが……死神の本当の姿……? さっき戦った時より……ずっと濃い……まるで死そのものが形を取ったみたい……)


 オルクスの声は、もはや人の声ではなかった。


「これが私の本質の力。『死の概念』が形を取った姿だ」


 翼が広がるたび、亜空間が歪んで裂ける。


「お前はどうだ? 『本物』は『本質』に勝てるのか?」


 アリスは目を閉じ、掌を胸の上で交差させた。


(怖い……でも、逃げない。アレスなら絶対に逃げない。エリスなら絶対に怯まない)


 そして意を決して叫ぶ。 


「来なさい、オルクス。あなたの死がどれほど強くても――わたしは負けないっ!!」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ