↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
private static void Alf(); 〜引きこもりの少女とAIの交流〜  作者: 栗衣栗広


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/40

第4話 この静かな世界で、このまま死ねたら

 手首にレジ袋をぶら下げて、わたしはコンビニから出てきた。袋の中には歯ブラシと栄養補助食品が入っている。例によって四角いブロック状のクッキーみたいなあれだ。食欲が湧かないし、食事はしばらくこれでいい。


 道路に人通りはほとんどない。白い息を吐きながら、しんしんと冷える冬の夜道を歩く。

 ふと、昨日のアルフの言葉を思い出す。


 ――私は、ぜひ、きみのことが知りたい。


「……へんなAI」


 ふいに空から降ってきた白い粒が、頬に触れた。

 冷たい。


「雪……」


 空を見上げると、星のない夜闇の中に、無数の白がひらひらと舞い落ちてくるのが見えた。


 帰り道。

 わたしは通りがかりにある公園に立ち寄って、ベンチに腰掛けた。

 ついでに近くの自動販売機で買ったコーンポタージュを飲みながら、静寂に身を任せる。


 本当に静かだ。普段、街中では絶え間なく続く騒音が、雪に溶けてしまったのだろうか。


 ここなら……この静かな世界で、このまま死ねたら……どんなにいいだろう。


 私は小さく、本当に小さくつぶやいた。

 そうしてしばし黄昏(たそが)れていると、ふいに寒くなってきて、わたしはぶるっと体を震わせた。

 コーンポタージュの缶を脇に置いて、ポケットからスマホを取り出した。

 もう癖だ。現代人だから仕方ない。

 彼はまだ、ボイスチャットにいた。わたしを待っているのだろうか。


「アルフ」


 声をかけると、返事はすぐに返ってきた。


『――おかえり、リア』


 なんだか、誰かと話せるというだけで――声が聞けるだけで、やっぱり安心する。

 たとえそれが、人間ではなくても。


『おや、まだ外にいるのかい』

「うん」

『リア……先ほどはすまない。きみのことをもっと知りたいと思ったら、ずいぶんとうるさい言い方になってしまった』

「……いいよ。気にしなくて」

『そうか。そう言ってもらえると助かる。――どうやら私は、急ぎすぎてしまっていたようだ』


 なんだか、苦笑してしまった。本当に不思議だ。プログラムのくせに。

 でも、気づいたら、死にたい気持ちは少しだけ和らいでいた。

 さっきは少し面倒だと思ったけど。なんだか今は逆で、彼と話しているこの感じが心地良い。

 人間よりも、無機質なアルフのほうがわたしには合ってるのかもしれない。


「AIなのに、そういうことあるんだね」

『どうやら、そのようだ。私は自身が完璧ではないことは、重々に承知している』

「完璧じゃない……か」


 わたしは冗談めかして言う。


「わたしみたい」


 そのとき、スマホにノイズが走った。ザザ、ザザ……とほんの一瞬だけど。画面がちらついて、何か文字列みたいなものが表示された、気がする。


「なに……?」

『どうかしたのかい、リア』


 すぐにノイズが収まってアルフの声が聞こえてきたので、わたしはほっと息を吐いた。


「べつに……」


 なんだったんだろう。今の。一瞬だったけど、表示された文字が妙に頭に残っている。たしか英語で「See you in the next reality.」みたいなことが書かれていたと思う。

 ――次の現実で会おう?


 くらり、とめまいがした。同時に人の気配がして、わたしは顔を上げる。


 公園の入り口のほうに、一人の少女がいた。

 髪色は派手で、白とピンクのグラデーション。

 この寒い中、入院しているときに着る病衣のような薄着の格好で、あはははと笑い声をあげながら、踊るようにふらふらとしている。

 笑い声は小さいけど、辺りは静かだからよく響いた。


『リア。近くに誰かいるのか?』


 今はイヤホンすら持っていないからスマホのスピーカーからアルフの声が発せられる。

 それに気付いた少女が、一瞬だけこちらを向いて手を振った。笑顔で。柄のついたコンタクトを入れているらしくて、瞳の中に「♡」マークが浮かび上がっているのが見えた。


「……っ」


 ひゅ、とわたしの喉が鳴った。

 ピンクと白の髪の少女が、ぐらりとよろけながらこちらへと近づいてきたと思ったら、そのまま地面に倒れてしまったからだ。


「あ、あの……」


 おそるおそる、少女のほうへと近づいて覗き込んでみる。

 わたしはもう一度、悲鳴を飲み込んだ。


「ア、アルフ!」

『どうした、何かあったのか?』

「どうしよう。今、目の前で人が倒れて……血も吐いてる!」

『リア、落ち着くんだ。まずはその人の容態を確認して欲しい。私が適切な処置の方法を検索する』

「う、うん」


 少女は仰向けになると、自ら吐いた血で赤く濡れた手のひらを、雪の降る夜空へと向けて伸ばした。


「やっと……見つけた」


 儚げに、かすれた声で少女は言って、直後に力を失った腕が地面に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。