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private static void Alf(); 〜引きこもりの少女とAIの交流〜  作者: 栗衣栗広


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第35話 消えゆく命の灯火

 いつもより暗い街中をKazの運転する車が走り抜けていく。

 途中で警察官が交通整理している場所を通り抜けながら。

 信号が機能していない以上、全速力で走らせるわけにはいかないが、それでもできるだけ急ぐ。

 わたしはその間、助手席でアルフの作った地図を読みながらナビゲートする。


「Kazくん、この先の交差点を左! そのまま道なりに行けば駐車場がある!」

「はいな!」


 Kazはわたしの指示通りに車を走らせ、ようやく到着した。

 高尾工科大学。都心から離れているぶん、広大な敷地を持つキャンパスだった。


「ついたで。本当は自分も一緒に行きたいのやけど……」


 この足やからなぁ、と困ったように頬をかく。


「ありがとう。Kazくん……あとはわたしが行くよ。行って、結月を止めてくる」


 正直言うと、Kazに会う前は一緒についてきてくれることも期待していた。

 男手があったほうが、いざというときに心強いからだ。

 しかし、彼の体のことを考えると、無理をさせることはできない。

 それよりは、彼には彼にしかできないことをやってもらうほうがいい。


「そうか。……気をつけて、リアちゃん」

「うん。Kazくんも、あとのことはお願い」


 わたしが走り出すと、Kazも車を発車させた。

 これから彼はアルフのサーバーがあるAIRIへと向かう。

 協力者を増やしつつ、少しでもハッキングの被害を防ぐためだ。そのための迂回経路はすでに伝えてある。


『リア。結月がいるのは中央研究棟。そのあたりから見える一番大きな建物だ』

「うん。アルフ、待っててね」


 走る。

 足がかなり限界だけど、そうも行っていられない。


 わたしはそのまま一番大きな建物へと入った。

 ホールには電気がついていたし、入り口も開いていた。


『端末情報から、結月のいる位置は、おそらく高度計算技術研究室だろうと推測する。建物の四階だ』

「わかった」


 前方には階段。その脇にあるエレベーターは、どうやら二台のうち一台は稼働しているらしい。

 少し迷ったが、わたしは階段を選んだ。エレベーターのランプは四階を示していて、わずかに階段のほうが早いと思ったからだ。


 わたしは息を切らせながら、ふらふらと四階まで駆け上がった。

 エレベーターとどちらが早かったかは微妙なところ。


 高度計算技術研究室というプレートの書かれた部屋はすぐに見つかった。

 電灯がついているようで、扉についたスリットガラスから光が漏れていた。


「あー、しつこい! しつこいしつこいしつこいしつこいしつこい、しつこい!!」


 扉に近づくと、中から怒鳴り散らす声が聞こえてきた。結月だ。

 続いて、だん、と硬いものを叩く音。

 わたしは急いで扉を開けた。大型のコンピューターと机が整然と並んだ室内が視界に広がる。


「結月!」

「だれッ!! ……リア?」


 苛立たしげにホログラスを外した結月は、こちらを見て驚愕の表情を浮かべたあと、激しく咳き込んだ。


「げほっ、……なに、あたしに会いに、わざわざこんなところまで来たの?」


 わたしと結月は見つめ合った。互いに肩で息をしながら。

 昼から深夜まで活動しっぱなしのわたしも体力の限界だったけど、結月は命そのものが限界に近い。


「……アルフに攻撃するのは、もうやめて」

「じゃあアルフにも、Red.garmに攻撃するのやめさせてよ!」


 結月はもはや声を出すだけでもつらそうだ。

 椅子に座っているのもやっとといった様子で、体を震わせている。


「もうすぐ、現実とネットワークの立場が逆転して……現実はネットワークの下位世界になる。そんな世の中が、もう目の前まで来ているの……」


 そう語る結月の「×」印を宿した瞳は、どこか恍惚としていて現実味を帯びていなかった。

 VRで話したときはよくわからなかったけど、前に会ったときの意思の強い結月とは、どこかが違う。


『そんなことはさせない』


 声はわたしのスマホのスピーカーからだった。


『我々のようなソフトウェアは、所詮は作り物にすぎない。それが人間に代わって支配者となって、なんの意味がある? そんな世界は虚しいだけだ』

「なによ、それ……命がないから? だから虚しいっていうの……? アルフがそれを言うの!?」


 結月は机の上のキーボードをバンと叩いて、起きあがろうとした。

 が、それは叶わずに力なく床へと倒れてしまう。


「結月!」

「じゃあ……生きていけないあたしはどうしたらいいの? もうすぐ命がなくなっちゃうあたしは!!」


 絞り出すような叫び。

 それから、げほげほとまた激しく咳き込む。

 その言葉に、顔に浮かんだ死相に、彼女の命がもう長くないことを思い知らされて、胸がきつく締め付けられた。


 結月を助け起こそうと、手を伸ばした――瞬間、背中に嫌な気配を感じて、わたしは硬直した。


「恍成(こうせい)ぃ!」結月がわたしの背後、部屋の入り口に向けて叫んだ。


 おそるおそる振り向くと、そこに、わたしのよく知る顔があった。


「よぉ、紅霧」


 まるで心臓が凍りついたように、条件反射の恐怖で体が動かなくなる。


「杵島(きしま)……くん」


 そこには、わたしをいじめていた男子生徒の一人、杵島恍成がいた。

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