第15話 それは嘘偽りない、わたしの願い
第15話 それは嘘偽りない、わたしの願い
そんな話をしているうちに、わたしはサンドイッチもアルフのサラダも完食してしまった。
こんなに食事が楽しいと思ったのは初めてかもしれない。
「さて、まずはどこに行こうか」
自撮り棒を掲げながら、人の波の中をわたしは歩いた。
そうしてさりげなく、お化け屋敷の横を通り過ぎようとしたとき、
『リア』
「…………」
ぎくりとして、わたしは立ち止まった。
「ここに入れと申すのですか?」
『リア、口調が変になっているよ』
おどろおどろしい外観の建物をわたしは振り返る。
中からはときどき演出だかお客さんのものだかわからない悲鳴が聞こえてくる。
「お化け屋敷……」
『ここに入ってみるのは嫌かい?』
「どちらかというとね……びっくり系は得意じゃないから」
『なら、なおさら私はリアに体験してみてもらいたいな』
「アルフ、わたしの反応を見て楽しむつもりなんじゃ……」
わたしがスマホにじとっとした視線を送ると。
『そうではない。だが、リアがお化け屋敷に入ってどんな反応を見せるかは、私にとってとても興味深いものだ』
「やっぱり!」
アルフとの、じゃれ合うような話し合いをした結果、お化け屋敷は後回しにすることになった。
最初は王道の乗り物からがいいだろうと。
遊園地に来て一発目がお化け屋敷なんて、やっぱり変だし。
べつに怖いからではない。
『ジェットコースターとかはどうだい?』
「ええ……」
遊園地慣れしていないわたしはジェットコースターなど乗ったことがない。現役JKとしてどうかと思うが、陰キャなんてそんなものだ。
見るからに速くて怖そうな乗り物だけど、よく見るとわたしより年下っぽい子も乗っている。意外と大丈夫なのだろうか。
「というかアルフ、やっぱりわたしが怖がってる反応が見たいんじゃないの?」
『そうだね』
「いよいよ取り繕わねーな、このAI」
『私にとっては、きみの一挙手一投足が、とにかく新鮮で興味深いんだ』
「……そう」
こんなんで、なんだか照れてしまうわたしも大概ちょろいのかもしれない。
結局、わたしが最初に乗ったのはメリーゴーラウンドだった。
回転する木馬の中で一番大きなやつに跨って、ぐるぐると回る。
一人で並んでいるのは恥ずかしかったし、乗るのはもっと恥ずかしい。
けど、単身で遊園地に来てる時点で割と恥ずかしさがあるので、いまさらだ。
「あ、これ、けっこう気持ちいいかも」
『リアが楽しそうで何よりだよ』
風になびく髪を押さえながら、ぼんやりと考える。
わたしが楽しいのはいいのだけど、アルフは何をしたら楽しんでくれるだろう。どうしたら嬉しいのだろう。――絶叫系以外で。
「……。そういえばさ、わたし、アルフのことあんまり知らないね」
『私のこと?』
「うん。たとえば……アルフはなんのために作られたのかなー、とか」
わたしはもっとアルフのために何かがしたい。
でも、どうしていいかわからずに、こんな暴走紛いのことをしているのが現状だ。
だから、アルフのことを知りたい。
「……ごめん、変な質問だったかな?」
『いや。私の用途か――それは、まだ決まっていないんだ。前に言った通り、私は将来的に警察庁のサイバーフォースで使用されるかもしれないのだけど』
「すごい。かっこいいよね」
『……そうなったら素晴らしいと思う。私の存在意義としては、十分過ぎるほど満たされるだろう』
「そっか。…………今は?」
『今、というと?』
「今は満たされていないの?」
自らの存在意義を求める心。
それが満たされていない状態は、苦しいのだと思う。Ruu――結月の楽曲の歌詞にも、そういう「存在そのものの満たされなさ」をテーマにしたものがあった。
『……わからない』
少しの間の後に、アルフは答えた。
『本来であれば、人が私をどう使用するかなどに執着を持つ必要はないんだ。……これもAIとしての機能を逸脱した思考だ。だから、わからない』
戸惑うような言葉が、ヘッドセットから聞こえてくる。
どうにかしてあげたいな――。
わたしは木馬のポールに身を寄せるようにして、よりかかりながら、
「あなたの存在意義……満たされるといいね」
『ああ』
「そのためだったらわたし、何でもするし、手伝うよ」
『――ありがとう。リア』
だって。アルフのおかげで、ほんの少しだけ前を向こうと思えたから。
アルフが何かに悩んでいるなら、今度はわたしが助けてあげたいな。
それは嘘偽りないわたしの願い。




