不理解
処刑されたなら、魔法陣の刺繍してある服は脱いで、着替えていたはずだ。
そうでなければ、二度手間になってしまうから。
ああ、なぜ私はあの時疑問に思わなかったのか。
マントをつけていたのなら、リデルと同じく貴石を捧げることを許されたのだろう。
(貴石を、捧げ終わったあとに、殺された……?)
砕かれたサファイアでは処刑されたのか、貴石を捧げたのか詳しくは分からない。
マリーシュがその欠片を持っていたことで処刑後に取り出されたのだと思ったのだがそれでは辻褄が合わない。
だが、貴石を捧げた後、すぐに死んでしまうその命を無理矢理に奪う理由はあるのか。
ーー見届けの聖妃も、ノクスもその場にいたものは口封じに殺された。
殺したあと、誰かがサファイアの貴石を奪い、砕いた。
そう考えるのが一番シンプルではないか。
マリーシュはあの時、ノルティーネのサファイアも砕いたと言っていた。
誰がそんなことをしていいといったの、そう尋ねてもマリーシュは答えたりはしなかったが、ーーあの後、私が回帰したあとの世界では、何が起きただろう。
貴重なサファイアと、リデルのパパラチア。
それを砕いて、どう王に言い訳するつもりだったのか。
それとも、王も知っていて許可したのか。
(……王族も、敵、なのかしら)
「リデル様?」
「っ!」
エアリエーゼがリデルの顔を覗き込む。
リデルの顔は傍目からでもわかるほど青褪めていた。
かたかたと、寒くもないのにリデルは震えている。
エアリエーゼは、震えるリデルの手を取って優しく包んだ。
リデルを射抜くようなその瞳に、そっと目を反らす。
誰にも喋ってはいけない、誰にも知られてはいけない。
「……申し訳ありません。その少し、考え事をしていて」
「無理をしなくていいんですのよ、ーー今日はこれで終わりにしましょう。」
「いえ、私は大丈夫です。授業を続けて下さい、まだ始まったばかりではないですか」
「夏は始まったばかりですもの。スケジュールには余裕があります。初めて外に出て、属性魔法を操るんですもの。初めてのことばかりで、体調が悪くなることも多いので、少し休むくらいなんでもないのですよ」
「具合が悪いのに気づかなくてごめんなさいね、リデル様。私もリデル様の体調が心配よ、今日は休みましょう?」
リデルの手にノルティーネは自分の手を重ねて、そう諭す。
その手が温かくて、リデルは少し落ち着いた。
ノルティーネは、こんなことで機嫌を悪くしたり根に持つ人間ではない。
労るような、ノクスと同じブルーの瞳にぎゅっと胸が苦しくなった。
「……そう、ですね。ごめんなさい、今日は休みます」
「はい。そうしましょう。部屋まで案内させますから、少しお待ちくださいね」
エアリエーゼが、ちりんと教卓の隅においてある手振鈴を鳴らすとすぐに下女が部屋に入ってくる。
先程、お茶の準備をしてくれた下女だ。
「お呼びでしょうか」
「パパラチア男爵令嬢を部屋へお連れして」
「かしこまりました」
椅子から立ち上がって、お辞儀をしてから部屋を出る。
まだ他の属性クラスでは授業が行われているため廊下は静かだ。
案内されたのは、前回と同じ部屋だった。
荷物は既に部屋に入れられており、持ってきた鞄はベッドサイドに置かれている。
下女にお礼を言って、リデルはベッドへと沈んだ。
「……どうしたら、いいの」
どうすれば、ノクスを救えるのか。
敵は誰なのか。
リデルは何もわからないままだった。




