対峙
解放の儀式は、そんなに難しいものではない。
儀式ために作られた魔法陣の書いてある地面に、手をかざすだけでいい。
それまで存在しているだけであった垂れ流しの魔力が、属性をそこで得て初めて解放される。
属性や魔力で光り方や色が異なり、それによって自分の属性を確認できるというわけだ。
「サファイア公爵家、ノルティーネ様」
「はい」
儀式の順番は、位の高い貴族の娘からだ。
今年度で1番地位の高い令嬢は、サファイア公爵家のノルティーネだ、すぐに呼ばれて別室へと連れて行かれる。
儀式が終われば、属性ごとに別れるからこのあとリデルはノルティーネに会うことになるだろう。
「ーー、ーー、パパラチア男爵家リデル様」
「はい」
ようやくリデルの番だ。
残っている少女は疎らで、待つのに飽きたといった感じで座っている。
リデルはゆっくりと立ち上がり、柔和な表情で案内をしてる女性の声の前まで行く。
彼女の後をついて回る気分は、まるで、処刑台に上がるような気分だった。
あの悲劇への始まりは、すべてここからだ。
けれど、今度こそあんな結末にしたりはしない。
「緊張しなくても大丈夫ですよ。必ず、貴方のもつ魔力がわかります」
「……はい、ありがとうございます」
儀式への緊張だと思われたのか、案内をしてくれた女性はドアの前でそう言って微笑んでくれる。
連れて行かれた小部屋には、属性と魔力を確認する魔法陣、そしてそれを確認するためのエアリエーゼではない、他の聖女が1名。
「それでは、この魔法陣へしゃがんで手をつけてください。両手をついていただければ、楽な姿勢で構いませんよ。すぐ終わりますから」
その声に従い、ゆっくりと手を地面へ下ろす。
両手をついた瞬間から、魔法陣は眩く光り始め、世界が遠のいた気がした。
これは、何だろう。一度目の人生で、こんなことはなかったはずだ。
何が起きているかわからない、リデルは呆然と真っ白く何もない視界に圧倒されていた。
『汝、世界の真理を望むか』
「……え?!」
『汝、世界の真理を求めて、この地へ挑みし者か』
声が聞こえる。
女とも男ともわからない、けれど力強く畏怖すら感じるその声に、リデルはそれが人ならざるものだと理解した。
自然に跪くことしか出来ず、その声の主を探すことすら叶わない。
声が聞こえているだけで、姿はないのかもしれないが。
リデルは震えながらも、何とか声を放り出した。
「高位の存在の方とお見受け致しますが、ーー私は、世界の真理など、望みません」
『世界の真理に挑みし者よ、その血で神を愚弄する存在よ。』
望んでいないと発言しようと、無駄なのだということはわかっていた。
自分より高位の存在が、当たり前のように対話してくるとは思っていなかったから。
けれど、世界の真理などリデルにとってはどうでもいいことだ。
リデルが望むものは、ノクスの生と彼の幸福、それのみ。
そのために戻ってきた、それ以上の理由はない。
『既にこの世界は欺瞞と虚飾に溢れている。されど、それすら真理を読み解く導となるだろう。探すのだ、真理を。理解するのだ、世界を。その資格を持つ者、今世界にただ一人2つの魂をその身に宿す人間よ。』
「……ああ、」
なるほど。
どうしてここに呼び出されたのか、リデルは理解した。
逆行したリデルは、確かに1度目の人生の魂と2度目の人生の魂が混じった人間だ。
理から外れてしまったリデルは、世界にとって異質であり特異なのだろう。
神は過去もパパラチアを、選んでいたのかもしれない。
エゴイストの多いパパラチアは、今日に至るまでその神からの啓示を無視したに違いない。
そして、リデルもそうするに違いないのだ。




