↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君に会える場所  作者: 芝川 千曲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/18

16. 焦燥

 雨はだいぶ小降りになっていた。

 都外に住むメンバーが多かったため、会は少し早めの時間にお開きとなった。

 浜村、中野、野村の3人は、終電が無くなる前に地元に戻り、二次会をするのだという。

 皆川は後ろ髪を引かれている様子だったが、ほとんど連行されるような格好で、花乃とともに帰っていった。


「もう1杯だけ飲もうかな」


 カウンターの海堂の隣の席に、ほのかが腰を下ろした。


「盛り上がってたね」

「うん! 懐かしかったなぁ。あ、カイくん、さっきタオルありがとね。助かっちゃった」

「いや、あれくらいでほのかちゃんの役に立てるなら、俺はいくらでも……」

「あ! 鈴木くん、こっちこっち! まだ時間大丈夫なら、一緒に飲もうよ!」


 照れてゴニョゴニョと言っている海堂に構わず、ほのかはトイレから出てきた翔を手招きする。

 海堂は密かに肩を落とした。


「鈴木くん、こちら、海堂章啓さん。Pillow Diaryってバンドの、ボーカルさんなんだよ」

「知ってるよ。僕、大ファンなんだ。この前初めて会った時、挨拶させてもらったよ。ね、海堂さん」

「えーっ、そうだったの!?」


 翔は海堂に会釈すると、ほのかを挟んで反対側の席に座った。「そうだね……」と返しながら、海堂は少々微妙な表情になる。


「やっぱり、良い曲ばっかりだもんね。鈴木くんはいつからファンなの?」

「転校して、アイドルの研修生になりたての頃。その頃リリースされたばかりの『ホシアカリ』をたまたま聴いて、ひと目惚れならぬひと聴き惚れしたって感じかな」


 ほのかの質問に、翔は少し照れながら答える。


「へえ、それからずっと?」

「うん。ファーストアルバムもめちゃくちゃ良かったから、次もその次も欲しくて、情報追いまくってね。僕自身アイドルデビューして忙しくなったから、ライブには1度も行けてないけど」

「ライブも良いよ……ものすごく! まだ2回しか観たことないけど、ものすごく心が解放されるよ……!」


 そう語るほのかの力の入りぶりが、海堂の気持ちを少し和ませた。


「ありがと、そんなに言ってくれて。翔くんも、機会があれば今度ぜひどうぞ」

「はい! ぜひ行きたいです!」


 その時、海堂のスマホに着信が入った。画面を確認し、手早く返信する。


「もうちょっとしたら、翔くんに嬉しいゲストが来るかも」

「嬉しいゲスト……?」

「うん、ちょっとね。それより、ふたりとも何飲む?」


 海堂はメニュー表を差し出した。


「カイくん、日本酒飲んでるんだ? 美味しそう。……じゃ、私も同じので」

「僕は、梅酒のロックで。すみません、お願いしまーす」

「あいよー」


 間もなく2人の前に、日本酒と梅酒が運ばれてきた。


「それにしても、奈良さんの紹介でこの店に来て、須東さんたちに会えたのも驚いたけど、須東さんが海堂さんと親しくしてるのにもびっくりしたなぁ。どうして知り合ったの?」


 翔の質問に、海堂は例の酔い潰れた顛末を話そうとした。が、その前にほのかが口を開く。


「この店でたまたま隣合って、意気投合してね。そしたら、次の日に観に行ったフェスに、カイくんが出てるんだもん。バンドマンだって知らなかったから、びっくりしちゃった」

「へえ! それはびっくりするね。でも、やっぱり須東さんって、昔から友達作るの上手いよね」

「そうかな?」

「うん。出会った人とどんどん友達になっていくというか。須東さん、気づいてた? 高校の頃、須東さんって結構モテてたんだよ? あわよくば付き合いたがってた男子は何人もいたんだけど、そいつらも気づいたらただの友達になっててさ」

「うそぉ? 全然そんなふうに思わなかったよ?」

「本当に気づいてないところが、真正の天然なんだよなぁ。『フラグクラッシャー』ってやつだね、須東さんって。告白する隙すら与えずに、『ただの友達』の座に相手を固定しちゃう」


 聞いている海堂は、気が気でなかった。


(……もしかしなくても、俺も、『ただの友達』フラグ立ってないか……!?)


「そ、そう言えばさっきの、チャラ……じゃなかった、陽気な感じの彼もなんというかその、ちょっと軽口っぽいこと言ってたけど……」

「あはは、聞こえてたの? 皆川くんは昔から、全方位あんな感じだから! あんなのいちいち本気にしないよ!」


 ほのかが可笑しそうに笑った。が、翔はそこに追い打ちをかけてきた。


「須東さん、そういう今でも、恋愛ごとは興味なさそうだよね」

「うーん、実のところ、そうだねぇ。今は仕事と趣味で忙しいから、なおさらかもね」

「これじゃあ、須東さんに惚れる男は、苦労するよなぁ」


 その言葉に、海堂は思わず翔に視線を向けた。目を合わせた翔が、口の端で小さく笑った。


 (……こいつ……)


 きっと、全て察している。

 そう思った時、ガラガラと店の戸が開いて、2人の人物の声が聞こえてきた。


「おっす、カイちゃん、まだいたな」

「あっ、ほのかちゃんもいる! こんばんはー」


 現れたのは、Pillow Diaryのドラムとベース。


「ええっ! 星野さんと、坂本さんですよね!?」


 さっきの不敵にも見えた笑みを一瞬で引っ込め、目を丸くした翔は2人を前に立ち上がった。


「Kittensのショウくんだよね? はじめまして!」

「本当に私たちのこと知ってくれてるんだ!」


 星野と瑠璃は嬉しそうに挨拶すると、空いているテーブル席に座った。

 荒井にハイボールとレモンサワーを注文する。

 ふたりは先程まで税理士の赤嶺と定例の打ち合わせをし、そのまま軽く食事をしてきたのだという。

 その後、海堂の家に寄ろうと連絡したところ、彼が円居屋にいると言うので、ここへやってきたのだ。


「カイちゃんから、Kittensのショウくんが俺たちのファンだって聞いた時は、まさかぁって思ったけど」

「いやいや、本当にファンですって。ファーストから全作聴いてます!」


 星野の隣に移ってきた翔は、目を輝かせて興奮していた。


「じゃあ……本当は内々の話なんだけど、もうここで話しちゃおうかな。カイちゃん」

「え?」


 呼ばれた海堂は、首を伸ばして星野の言葉に耳を傾ける。


「アルバムレコーディング、できることになったぞ。12月頃リリースを目指す」

「えっ、マジで!?」

「資金面も問題ないだろうって、赤嶺さんも賛成してくれた」

「おお! よっしゃー!」

「あとはカイちゃんが頑張って曲を書き揃えるだけだ!」

「お、おー……」


 自分のやるべきことを思い出して、ややトーンダウンした海堂だったが、それでも嬉しさが勝っていた。

 ここにいる2名の「ファン」もまた、この思いがけない朗報に顔を見合わせた。


「やったぁ! フルアルバムなんて久しぶり! 楽しみだね、須東さん!」

「鈴木くん、本当に! 私、ファンになって初めての新譜のアルバムだよ! 楽しみーっ」


「お、お……」


 満面の笑顔で喜び合うほのかと翔を目にして、嬉しさの中にまた、複雑な感情が混ざる海堂だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。