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第四話

 奇妙なことは幾度かつづいた。


 田端が仕事帰りにコンビニに行くと、自動ドアが開くたびにふわりと緑色の何かが舞い上がった。鳥の羽毛のようだった。


 コンビニの出入り口に小鳥の死骸が落ちている。気付かなかった誰かが踏んだのか、幾分かひしゃげていた。羽毛がふわふわと目の前を漂うなか、誰かが拍手をした。近くを通りかかったベビーカーに乗った、小さな子供だった。


 田端は小さな子供があげる無邪気な声と拍手を聞きながら、不気味さに首をすくめてコンビニの自動扉をくぐった。


 コンビニで夕食を買った帰り道、長野から電話があった。

 

「田端さん、にゃるら様についての、次の取材ですが」

「……もうやめません? にゃるら様の取材に行ってから、変なんスよ。不気味なことが何度もつづいてて」

「でも田端さん、怪異譚お好きじゃないですか」

「当事者になると、話は違いますね。僕ァ、傍観者として怪異譚を見たり聞いたりするのが好きだったんだなって、今さら理解しましたよ」


 田端の目の前に、突然何かが落ちてくる。つづく破裂音に驚いて顔を上げると、電線の上に止まったカラスが大きな声で鳴いた。


 カラスが飛び立つ。何気ないバサバサという羽ばたきさえ、今の田端には不気味に聞こえる。電柱の蛍光灯がまたたくと、アスファルトの上で何かがきらりと小さく光った。


「田端さん、何かあったんですか?」

「……また怪異譚です。ねぇ、本当にやめましょうよ、長野さん」


 ため息混じりの田端に、電話の向こうの長野はけろりと言う。


「田端さんが行かないなら、一人で行きますけど……」

「そういう訳にはいかんでしょう。だって、長野さん女性じゃないですか」


 女性に、ましてや自分と親しい美女に、危険な目になど遭って欲しくはない。


 田端は深々とため息をついた。


「にゃるら様の取材、本当にこれが最後ですよ。……シャレになんないスよ、ミイラ取りがミイラになった、なんて」


***


 田端と長野は、再びK県へと取材に向かった。


 メールのやりとりをしていたM氏はその後、何度か彼の母親と話し合ってくれたらしい。しかしM氏の母親はとりつくしまもなく、取材許可はなかなか下りなかった。


 M氏の母がしぶしぶ取材許可を出したのは、にゃるら様を初めて取材した日以来、田端の身に起きたさまざまな異変を伝えてからだった。


 田端と長野がK県にあるM氏の家を訪ねると、彼の母親はこの上なく渋い表情をしたまま、二人を迎え入れた。


「取材を請けていただき、ありがとうございます」

「……どうやら、にゃるら様の怒りに触れてしまった方がいるようですから」


 M氏の母は怒りを抑えたように、パーマの当たった頭をかいてそう言った。


 靴箱の横の束ねた段ボールはなくなっていた。資源ごみの日に出したのだろう。


 うっすらとほこりが積もった鏡も、古びた時計がカチカチと音を立てるのも、前回取材で訪れたときと同じだった。


 田端と長野は、応接間に通された。サイドボードのガラスに、恐縮している田端の姿が映っている。隣には神妙な顔をした長野が映っていた。


「にゃるら様について、ご存知のことを教えていただけませんか?」


 ソファに腰を下ろすや否や、長野が好奇心を抑えられないといった様子で切り出した。M氏の母は二人の前にお茶を出すと、いらだちを隠しもせずに、ため息まじりに言った。


「……いいですか。取材というよりは、にゃるら様の怒りを鎮めるために、あなた方をお通しするんです」

「ありがとうございます」


 にゃるら様の取材以来、すっかり怪異譚の登場人物になってしまった田端はますます恐縮した。


 M氏の母は田端をチラリと見ると、長野に厳しい目を向けた。


「それで、あなたの周りでは、何か不吉なことが起こりましたか?」


 そういえば聞いたことがなかったなと、田端は息を飲んだ。

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