忘年会から新年会
忙しかった割に評価に乏しい1年が終わる。ああいう不祥事を起こしてしまっては仕方ない。石原組の忘年会の日取りも決まった。今年を忘れて来年だ。
一応刑事課に課せられた1年間の目標件数は達成した。暴力団の頭数も揃えたし。県下全体でも余り出ない贈収賄もやった。窃盗犯検挙に関しては抜群の成績だ。しかし如何せん不祥事の失点が大きすぎる。まあ仕方ない。
研修のため知能特捜に出向させていた部下も戻ってきた。約1ヶ月こき使われたみたいだ。でも今の処文句は言っていない。偉いぞ。此処で文句を垂れたら奴は終わったのだがまだ何とかもっている。知能特捜にはもう一人石原組が居る。部下はその人が僕達の仲間だとは知らずにその係長について裏付け班として捜査に従事したらしい。付いて回って言われた簡単な事をするだけだったはずだがそれは何とかこなしたみたいだ。
知能特捜係長の評価は可も無く不可も無し。今の段階で指示待ちなのは仕方ないが、将来を想像して自分で餌を拾ってくる姿が見えないそうだ。まあ僕だって自力で餌を拾え出したのは最近の事だからこれも今はまだ仕方ないか。でもその姿が想像できないのは困るな。
石原組の忘年会の日取りが決まった。この署から行くのは僕だけ。係長に
『当日は帰宅はするが遅い時間だし飲んでもいるし』
と、夜中まで家に居ない事と呼び出しでの事件対応は重大事案でなければ免除して欲しい事を一応報告をして置いたら係長それをつい話してしまったらしい。部下が
「忘年会僕は連れて行って貰えんのですか?」
「何で連れて行って貰えると思うた?」
「僕は部長の部下だからです。」
「それやったら東の端の署で刑事課長をしとる兄貴分は20人位部下が居る。其処より一寸手前の署の署長をしとる人は70人余って部下が居る。それ以外の人も一杯部下連れとる。それも全部連れて行かないかんのか?」
「いや僕は土居部長の直接の部下やから。」
「いうとる意味が分からん。何時も集まる人達は1人を除き残りは全員石原部長と一緒に捜査係として仕事をした人達じゃ。」
「でもそうじゃない人も1人居るじゃないですか。」
「儂はお前が何を言いたいのか分からん。何でお前がその人と一緒の扱いが受けられると思うんじゃ?此処までものが分からん奴はもおええ。儂はもうお前とは口きかん。」
「いや、あの…。」
「もう儂に話掛けるな。」
なんで自分が連れて行って貰えると思ったんだろう。それが当然だと思っている節もあるし。解らん。もう相手するのは止めよう。僕も昔出来が悪い初心者で
『先輩が後輩の面倒を見るのは当たり前』
等と口走った事も有ったけど、此処まででは無かったと思う。
部下は係長に不平を言ったみたいだ。
『僕への面倒見が悪い』
と。当然の事ながら激怒されたらしい。それからは係長にも口をきいて貰え無い。もう一人の強行・盗犯主任には
「こんなん下に付けられんかって良かった。」
と目の前で言われたらしい。そしたら、
「僕はやりたくも無い仕事を押し付けられて本部に毎日通勤させられてまで頑張ったのに。」
と言ったので、そこに居合わせた課長から、
「仕事が嫌なら辞めたらええ。退職届書け。」
とあっさり言い放たれたらしい。出向が終わった時文句を言わなかったので偉いぞと思った処なのに。困ったものだ。いつも怒られたら少しは反省するのだがそれが続かない。結局自分が中心に回っていると思い込むタイプなんだろうな。面倒なのでそれ以来一切無視。最初はそんな奴だとは思わなかったのだが辞めた奴と仲良くしだしてからおかしくなった。僕だけではなく課全体から冷たい目で見られている。でもそれさえも解っていない。
今年も大盛況だった。今年は蟹尽くし。生きた毛蟹を炭火で焼いた焼きたてに石原部長の生家付近で採れた柚子を絞りシャンパーニュで乾杯。タラバ蟹の脚を塩胡椒で焼いて澄ましバターを掛けたものと白ワイン。タラバとズワイの刺身。カニビルの卵が一杯ついた極上のズワイガニを鍋で。鍋には濃醇甘口から端麗辛口迄各種揃えられた清酒を各人思い思いに選んで温度は好みで。僕は温めた端麗辛口に蟹の出汁を加えて。蟹味噌を食べた後甲羅を再度焙って大きな片口に入れ熱燗を注いで皆で飲んだり。でも定元係長はずっとビールで通している。ブレないなぁ。
今年は本部長も来ている。僕と先輩は最初調理場と裏庭で焼きガニの手伝いを。先輩はあまり役に立っていない。料理を普段しないから。専らお運びで。先輩の奥さんも店の手伝いに来ているが、落ち着いたら座れるように女将さんと奥さんの席も用意してある。何時もの様に席は拝命・年齢順に思い思いに選んでいく。でも今年は石原部長の隣には本部長と巡視員さんが。聞けば巡視員さんは来年3月末で退職するらしい。
交通巡視員は交通に関する限られた仕事をするだけで幾ら能力があっても出来る事と権限は限られている。石原部長が巡視員さんの能力を高く評価してもっと能力を生かせる仕事をと退職を勧めたらしい。4月からは石原部長の同級生の専務さんの会社に就職するらしい。
3月末で現社長である、専務さんのお父さんが隠居して専務さんが社長になるそうで、それを機会に社長秘書という事らしい。どうも石原部長がお父さんに隠居を勧告したらしく、孫である専務さんの息子が大学を出てから勤めていた大手都市銀行を退職して戻って来るのを機会に。お父さん代表権のある会長を希望したらしいが、
「もう若いものに任せろ。」
と言って
『最高顧問』
という事で棚上げしたそうだ。お父さんも息子の言う事は聞かないが石原部長の言う事なので観念したみたいだ。
専務さんも巡視員さんの能力と人柄を評価していたので、石原部長が話を持ち掛けたら即座に了承したらしい。秘書として業務全般を知った後将来は役員含みの幹部となる事を期待されているみたいだ。駐車違反取締は大切な仕事だけど巡視員さんなら今伸びている一般企業でも頭角を現すと思う。石原部長が認めているのだし。
宴会は賑やかに和気藹々と進んだ。皆がお腹一杯になった頃には豪華賞品のくじ引きがあり皆一喜一憂。大きな賞品は自宅への配送の手配までしてある。至れり尽くせりだ。お手伝いに来ている舞のホステスさん達まで抽選に加わっている。
例年通り貸し切り営業の舞で楽しく飲んでお開きに。締めはシャンパーニュで乾杯をして今年の憂いを払い、来年を期して解散。帰り掛けに石原部長から直接お年玉と車代を貰って、僕と南の方の署に勤務する人達は最終の特急列車で一緒に帰ったのだがまだその中でビールを飲んでいる人も居た。僕はくじ引きで高そうな真珠のブローチが当たったので嫁さんへの土産も出来てホクホク。勿論お年玉は上納する。
年末年始は何事も無く穏やかに過ぎて行った。嫁さんがが身重なので、嫁さんの実家に行ったのと僕が一人で爺さんが居る施設を覗いた後実家の墓参りに行った位で当直以外はずっと家に居た。事件での呼び出しも無く妻のために干鮎出汁の雑煮を作ったり、家に来た母と祖父、妻の家族達のために料理をしたり。勿論掃除洗濯も。帰省していた先輩夫婦も来てくれた。奥さん結婚が先だったのに妊娠で先んぜられたのが気になるみたいだ。でもこればっかりは。
年が変わったのでリセットだ。此処からまた1年件数を拾い集めなくては。今年から昇任試験の受験資格ができるからそちらもピッチを上げて。昇任試験の時期と出産が重なるかもしれないがそれを言い訳にする気は無い。どちらも満願成就じゃ。
松が取れたら早速暴力団もどきを2人入れた。年末に門松を押し売りしているのを把握していたのでそれをネタに。こいつ等本当に有難い警察協力者だ。捕まっては娑婆に戻りまた不用意に手頃な悪事を働いてくれる。その内署長から表彰して貰おうか。
『貴殿は度々不用意に犯罪を犯し警察官の件数稼ぎに寄与した事は誠に天晴である』
とか。例によって単純な事案だから手間は要らない。余罪を追及する気も無い。余罪を出すよりも娑婆に出してまた何かしてくれるのを期待。
知能・暴力係長と日頃何かと現場を手伝ってくれる非番・週休のパトカー乗務員2人に来て貰って暴力団もどき2人の逮捕状請求をし、ボロ借家に朝から4人で人攫いに押し掛けた。パトカー乗務員の2人これで今月の刑法犯検挙件数達成。さらに逮捕事案でポイントマシマシだ。喜んでる。今回は駅前辺りに屯する緩いおねいちゃん達は居なかった。残念。特別法犯も付いて防犯課長喜んだのに。
逮捕手続きを終え一旦留置場に身柄を入れたら僕の部下が、
「僕がどっちか一人調べます。」
「うん?手は足りとるけん要らんよ。」
「いや、僕は暴力団の調べ覚えたんでやります。」
「要らん言うとるやろ。」
「どうしてですか?」
「さっき言うたやないか。
『手は足りとる』
いうて。それに他の係の仕事手伝うんやったら係長の許可を貰うんが先じゃ無いんか?」
「部長は他の係の仕事しとるじゃないですか。」
「儂は課長にも係長にも事前に許可を得とる。」
強行・盗犯係長が、
「こら、つまらん押し売りしつこうしとるとあいつ等みたいに逮捕されるぞ。お前は要らん言われたんじゃから引込んどれ。」
「いや僕は………。」
「それほど仕事がしたかったら3日以内に盗人の引きネタ探して来い。お前本来の仕事の分をの。」
「3日以内は一寸。」
「人が捜した自分にもできそうな簡単な仕事を横入りして盗ろうとするのは首になった元知能・暴力主任とおんなじじゃ。」
こいつ一寸の間だけど首になった元知能・暴力主任と仲良くして悪性の伝染病である
『横入り横取り症候群』
を貰ったかな。如何しようも無いな。僕は部下を無視して知能・暴力係長と勾留とそれ以後の打ち合わせをした。難しい事では無いので事実関係を再確認して齟齬の無い調書を録るだけだ。その点知能・暴力係長はベテランだから其処らは安心できる。僕の部下は自分が録った調書が正しいと言い張るタイプだから共犯事件はやりにくい。前回のお摘みの押し売りも、あんな簡単な事件だけれど中々合わせる事が出来ず課長の職権で纏めたと聞いている。
地域課員で手伝いに来ていた頃は問題のある人物には見えなかったのだが。ひょっとして滅多に無い重大な不祥事が目の前で起こり、その上日々忙しいので心を病んでこういう振る舞いをしているのだろうか。要観察だな。
一段落付いたので課の新年会を開催する運びになった。酒好きの強行・盗犯係長が押し売り事件処理が終わるのを待ちかねて段取りを付けた。僕はあまり飲みに出たく無いのだが課の行事では仕方ない。何時もの小料理屋の2階で開催し料理運びや酒の世話はセルフで。一番の若い衆が動かないので専ら僕がお運びで料理の手伝いも。二次会は断って帰宅した。翌日係長が、
「由紀ちゃんもママも
『土居さんは?』
言うて喧しかったぞ。」
さて簡単に暴力団の検挙人員を稼いだので、次は自分のノルマである窃盗事件をやらなくては。暴力団もどきの調べをしながら毎日送られて来る盗犯日報に目を凝らしている。うちの署の周辺で何かうちと関連しそうな発生は無いかと毎日盗犯日報を見るのだが今の処見当たらない。前回捕まえた空き巣みたいに地域限定の発生だと管轄区域をはみ出して被害届を取ってというのは無理があるので、大半は他所の署で発生し逮捕状を取れる1件だけがうちで発生というのが理想なのだが。そんな都合の良い話は無いよな。
しかし盗犯日報に発生が出て無いからと言って安心してはいけない。僕は隣接署と競合しそうな発生は故意に本部に報告をしない事がある。競合する相手に手の内を見せない方が有利な場合があるから。本部に行った前の前の課長は僕のその褒められないやり方に気付いている様子だが黙っていてくれている。
そんな折に僕の育った家を管轄する小さな警察署の管内限定ではあるが空き巣や事務所荒らし、学校荒らしがぽつりぽつりと発生している事に気が付いた。その署は侵入窃盗がそう沢山発生する署では無い。しかしこの2ヶ月くらいで7件発生している。田舎だから個人の家の分は未届けがあるはずだから実際はもっと発生しているはずだ。同一犯人の犯行と思われる事案は他署では発生していないが、発生はその署管内のうちの署に近い地域で発生している。これは一寸注目して置かなければ。
その後も同一犯人の犯行と思われる事案がぽつりぽつりと発生している。そんな頃僕の部下が当直中に、僕に色々協力してくれるパトカー乗務員から職質場所への応援要請があったそうだ。
事案は、
一種原付に乗った1名と、二種原付に2ケツの3人連れの少年がゲーム機2台とゲームソフト多数を所持して深夜徘徊をしているというものだった。
部下は現場に行き職務質問の応援をしたが犯罪を犯したと言うに足りる感触は得られなかったので職務質問を打ち切り3名の少年に帰宅を促し自分も帰署したらしい。
翌日部下が宿明けで官舎に帰っている間に非番のパトカー乗務員2名が僕の処にやって来た。
「昨夜土居部長の部下に職質の応援を頼んだんですけど聞いてます?」
「うん。ものにならなんだいうて聞いたけど。」
2人は顔を見合わせて、
「あいつらが持っとったゲームソフト、全く一貫性が無かったんです。ゲーム好きな奴いうんは好きなゲームの傾向があるじゃないですか。全く関連性が無いし対象年齢もばらばらのソフトを一杯持っとったんで絶対おかしい思うて初捜呼んだんですよ。そしたら現場で簡単に話聞いただけで職質打ち切りでした。任同掛けてもう少し頑張ってくれるか思うたのに。自分でようやらなんだ者が言うても仕方は無いんですけど土居部長に愚痴聞いて貰おうと思うて。」
「それは済みませんでした。僕がもう一遍洗うてみますけんもう少し詳しく聞かせて貰えます?」
会議室で昨夜の状況を聞き、2人がメモしたゲーム機の製造番号を控えた。その2台の製造番号で贓品照会を掛けることにした。照会センターへの贓品照会は目の前に被疑者がいる等の緊急の場合を除き書面ですることになっているので様式に必要事項を記入しファックスで照会をしたのだが、
『該当なし』
との回答だった。
係長に、
「午後から出ます。」
と言ったら、
「今からじゃ無いんか?」
「あいつが居るとこで
『出ます』
言うたら
『連れて行け』
言うて煩いけん昼飯がてら黙って出ます。」
「おお、それがええ。」
うどん屋でお昼を食べた後署の北方の国道沿いに在る古物屋に寄ってみた。此処は買取・小売両方やっている。時々顔を出すのだが何でも従兄弟が警察官だったらしく協力的なおっちゃんだ。
おっちゃんに、
「この頃怪しげな物売りに来る奴居らん?」
と聞くと、
「怪しいと判っとったら買わんけどな。」
と言いながら今日の午前中に買い取った物を見せてくれた。
夕べ職質を受けた奴等が持ってた物と同種のゲーム機とゲームソフトがある。
「おっちゃん、これ売りに来たんバイクに乗った3人組の若い衆?」
「そう。よう知っとるな。」
「これ暫く売らずに置いとってくれまいか。」
「怪しいん?」
「うん。1週間以内に返事するけんその間売り物で並べるん待っとってや。」
「ええよ。でも盗られた物やったら儂大損じゃ。」
「親に弁償さすけん。」
【無理だとは思うけど気休めに】
「当てにせんと居ろうわえ。」
この件が発生している範囲には小学校が2校と中学校が1校ある。その中学校は僕が通った中学校だ。その小学校や中学校には僕が教わった先生方が何人かいるので翌日其の人達を訪ねてお願い事をした。
そのお願いとは、
去年の秋頃から家でゲーム機やソフトが無くなった生徒の有無を調べて欲しい。該当があれば保証書で製造番号を確認したい。
その理由は持ち主不明のゲーム機2台と多数のソフトが警察に届いていて持ち主に返したい。
という事で。先生方は快く引き受けて下さった。
翌々日には該当者が現れた。持って来てくれていたゲーム機の保証書に記載されている製造番号を確認すると
『ビンゴ!!!』
早速親御さん立会のもとに被害届を受理し、簡易実況見分を実施、ごく簡単に当時の状況等に関する調書を巻いて帰署した。
早速逮捕状を請求し被疑者の所在捜査。なんせ3人共職質時に免許証を確認されているから話が早い。古物屋のおっちゃんにも被害品であった事を告げて証拠品の任意提出を受け領置した。
パトカーの人達を呼び出し検挙の端緒を計上するために連名で捜査報告書を出して貰った。一応職質時の状況を捜報にする様言ってはいたのだが2人共諦めていたのか書いていなかった。急展開に2人共驚いている。被害届とブツが有るから捜報無しでも請求はできるが2人の功労を明らかにするために付けておくのに越したことは無いと言って、僕が下書きして急いで書いて貰った。
それを見ていた僕の部下が、
「僕も職質時の状況捜報にしましょうか?」
係長が、
「ろくに話も聞かずに簡単に諦めましたじゃのいう捜報出すの恥ずかしゅうは無いんか。」
黙ってしまった。此処で抗弁したら大したものなのだが。
逮捕状はあっさり出た。これから連れに行くとなったら夜が更ける。奴等は夜行性だから家に居ない可能性も高い。明朝バイクの有無等から在宅かどうかを確認し一斉に着手することになった。1箇所に4名ずつ。車両が1台。人手が足りないので防犯課と地域課に手伝って貰うことになった。刑法犯の逮捕被疑者が3人だから地域課も潤うし、3人共少年だから防犯の件数にもなる。
ブツを売りに行ったのは3人だが犯行を行ったのが3人揃ってとは限らない。犯行への関与をはっきりさせるため逮捕状をチラつかせるが全員本署に任意同行した。言うんじゃないかなという気はしていたのだが僕の部下は
『何で此処で逮捕状執行せんのですか?』
と言ったらしい。部下と一緒に行ったもう一人の強行・盗犯主任は
『それも解らんのか。』
で済ませたらしい。
任意同行後の調べで18歳の高校中退2人が留守の家に入り、16歳の現役高校生は家の外で見張りをしていたことが判明。その時点で逮捕状を執行した。係長が主犯格の奴に、
「折角とろこい刑事誤魔化したのに残念やったの。」
普段は横着をして、はっきりしている事件なら分散留置省略だが、今回は未届けを拾ったり3人の役割等を確認するためにも夫々別々の署で留置し口裏合わせができない様にする必要がある。主犯格を西隣の署に預かって貰い僕が調べに行く。最初からの共犯者を南の方のこの県で5番目の大きさの警察署に預かって貰い南隣の警察署管内から通勤している強行・盗犯主任に調べに行って貰う。強行・盗犯主任にしてみれば本署に出勤するのもその署に行くのも似た様な距離だ。一番関与が薄そうな16歳の現役高校生はこの署に置いて応援の防犯課員に調べて貰う。
早速僕の部下が、
「他所の応援を貰う位なら何で僕に調べさせてくれんのですか。」
係長が、
「変死や火事はいつ来るか分からん。儂とお前はそれに備える。」
「僕も調べをしたいんです。」
「2人の共犯をよう纏めん勝手な奴に3人の共犯は無理じゃ。皆が迷惑する。これは少年事件じゃけん勾留切れたら即留置場から出さないかん。件数拾う時間に限りがあるけんお前は駄目。調べをしたかったら
『もっと取り調べの技術を上げる』
『自分勝手な調べをせん』
それと一番大事なんは
『自分でネタを拾う』
いう事やな。自分が拾うたネタなら誰も文句を言わん。」
正しい意見だ。流石に何も言わない。
勾留は3人共出た。16歳の現役高校生少年は如何かとも思ったのだが共犯事件であるのと余罪多数との見通しが効いたかな。勾留場所もこちらの希望通りに認められた。勾留後早速僕が調べている主犯格の引き当たりをしたのだが、やはり個人の家の空き巣は殆ど未届けで、農協、学校、会社などは既届だった。
侵入盗が30件近くいける。未届けは自署管内を発生地に付け替えるが半分は既届だ。引き当たりの途中寄った発生地警察署の刑事課長が、
「これで今年の侵入窃盗の赤字が確定じゃ。」
と哀れっぽく言ったが無視。情け容赦なく既届の被害届を持って帰った。
少年事件だから勾留が切れれば鑑別所送りになる。鑑別所まで余罪調べに行くのは嫌だから調べのピッチを上げた。僕は自分の調べと後2人の調べの調整のために南の署にも出向かなければならない。軽トラ大活躍だ。署長が僕ともう一人の強行・盗犯主任に別封でガソリン代をくれた。僕に多めに入っていたので二人が同額になる様に調整しようとしたのだが、
「これは署長の判断が正しい。土居部長は裏付けと調べの調整で儂よりだいぶ走行距離が多い。儂は通勤と同じ位の距離しか走らんから本来なら儂の分も渡さないかん。」
と笑って言われた。お気持ちに感謝して金額の調整は無しで。
この間に別の仕事にもこっそり取り掛からなければいけなくなった。5月に管内東端の村で村長選挙があるのだが、日頃親しくして貰っているトマト農家さんが出馬するらしい。支援してくれる人達と調整し出馬表明のタイミングを計っている段階らしいのだが、出馬表明されてしまってからでは警察官が接触しにくくなるので忙しいが今の内に会って情報を集めておかなくては。
西隣の署に調べに行って、東端の村に選挙情報の収集に行って、鑑別所にまで調べに行くのが嫌なので調べのピッチも上げなければいけないし、相手は少年だから深夜の取り調べはできないし、嫁さんの事も気になるし。
僕の愛車、通称
『鼈刑事号』
の走行距離はどんどん増える。極力定時には帰って家事もしたいのだが中々難しい。しかし勾留切れの日までという期日設定があって終了の日が分かっているから何とか頑張れる。
今日の午後は検事調べだから僕は隣の署に午前中だけ行って後は自由だ。昼前に余罪調べを終えいつもお世話になっている水産問屋さんに行くと
「ああ、土居さん。今日はええベタ有るよ。」
と言われた。
「ベタって何ですか?」
「アカシタビラメのことですよ。」
「へー、お勧め?」
「はい。煮つけでもムニエルでも。」
「ください。」
嫁さんの仕事場に電話して
『家族招集をお願いします』
との連絡をし氷漬けにして貰ったアカシタビラメを、いつも荷台に積んでいるクーラーボックスに入れ野菜の直売所に寄ってから一旦帰宅。ムニエル用に下拵えをしてから夕方刑事課に帰った。
課長に挨拶をして、
「一寸疲れたんで今日はノー残業で。」
と言ったら、
「是非とも休んでくれ。しんどかったら明日休んでもええぞ。」
「いや。鑑別所送ったら休みます。」
「おお、是非とも休んでくれ。」
終業時刻になる前に署を出たので僕の方が帰るのが早かった。嫁さんはスニーカー履きでゆっくりと歩いて通勤している。午後6時前に帰って来た。丁度その頃家族が集合。少し遅れて僕の母親もやって来た。嫁さんが、
「家族集合やからね。」
有難い事だ。母も嫁さんの気遣いを心から喜んでいる。
「爺ちゃんは体が悪い訳じゃ無いけど周りの施設の人との兼ね合いもあるから残って貰うた。本人もその方がええ言うとったから。」
「お義母さん。今度はお爺さんがゆっくりできる様に2人で来てくださいね。」
母が半泣きで喜んでいる。
今日もバターをたっぷり使ってムニエルを作った。直売所で買った野菜と水産問屋さんで分けて貰ったさっきまで生きていた海老のサラダ。西隣の市にはバケットが美味しいパン屋さんがあるので、他のお客さんには迷惑だが多めに買ってきた。買った半分は冷凍保存。
義弟のリクエストでガーリックライスも。結構多めに作ったのだが 義弟が半分以上食べてしまった。その後ガーリックトーストを出したらそれも食べ尽くす勢いだったので
『待て!』
を掛けざるを得なかった。
皆が晩御飯でお腹一杯になった後僕が後片付けをしようとしたら、
「それは私等がするけん!」
母とお義母さんが僕を制止してして後片付けをしてくれた。義弟は腹一杯でテレビの前で寝転がっていたのだがお義母さんに、
「あんたも片づけ位手伝わんかね!お義兄さんを見習わんかね!」
でもお義母さん、それは間違いですよ。まともに手伝いができる訳無いから手間が増えるだけですよ。
お義父さんと僕は食事中白ワイン1本を分け合って飲んだ。食後には2人でスコッチを。もう石原部長の真似はしない。最近この辺りで話題になっている事も話したが、村長選挙の事はまだ知らないみたいだ。
翌日は本署に出勤した後課長に簡単な現況報告をして西隣の署に。少年事件だから明白な事件を確実に立件して送致すればいいのだけど、1件でも多く原票を切ってやろうという僕の欲で調べをしている。ほぼ全てを南の方の署に留置している奴と一緒にやっているのでそこだけ辻褄を合わせて。自署に留置している高校生が一緒にやった事件はあまり無い。逮捕事実が3人でやった事だったのがラッキーだった。
勾留期限が来て3人共少年鑑別所に送ることになった。南の方の署に居る奴を積んだ搬送車が自署に寄り高校生を積んで鑑別所に行き、西隣の主犯は別の車で鑑別所に送る。預かって貰った署への挨拶を兼ねて被疑者の見送りに行ったら、
「お世話になりました。もう二度と悪いことはしません。」
涙ながらに被疑者がそう言った。
「うん。お前はまだ20歳に成っとらんのじゃからなんぼでも更生できる。頑張れよ。」
出発する車両に手を振って見送った。
僕が刑事になったばかりの頃ある先輩が、
「30年刑事して、調べた被疑者の内3人ちゃんと更生させたら名刑事じゃ。」
って言ってたな。それほど人を更生させることは難しいんだろうな。僕には無理だ。それに犯罪を犯す者がいなくなったら僕達は失業する。
署に帰ったら課長が、
「署長命じゃ。
『今日の午後と明日は休暇を取れ』
言うとる。」
「はあ。」
「署長が
『どうせ休む言わんじゃろうから強制的に休ませろ』
言うとった。
「一寸気になっとる事があるんで明後日休みます。今日午後からそのこと片付けて明日報告してから。」
「そんでも署長が………。」
「あ、署長にじかに説明します。」
署長室に1人で行った。
「おお、休む気になったか。」
「一寸駄目です。今が旬の情報が有るんでそこだけ済ませて。」
「それは?」
じわっと署長室のドアを閉めて警務課から離れた署長室の奥側に行った。
「東端の村選挙になります。激戦になって形振り構わん選挙になる可能性が高いんで情報収集しとかんと後で恥かきます。」
「何、警備課は今回も無投票じゃ言うて本部にもそう報告したぞ。」
「投票になるのは間違いありません。何時立候補表明をするかだけの事ですが、一両日中に決まります。其処だけは確認しとかんといかんので休みは明後日からです。」
「土居部長全く反対側に毎日調べに行っとったじゃないんか?」
「少年の調べ済んでから東に向いて走ってました。」
「知らんかった。」
「雲掴むような話報告できませんからね。警備課じゃ無いから。形になったんで今日報告します。今日明日で立候補表明の日をはっきり掴んで本部に報告いう事で。」
「おお、そんでも土居部長ずっと働き詰めやし。」
「ああ、それやったら今日明日休暇取ったいう事で東に行って情報収集しますけん署長は
『四の五の言うけん無理やり休ました』
言うとってください。そしたら直行・直帰で気楽にやれるんで。」
「それでええんか?」
「はい。直行・直帰で勝手に動くんなら休みみたいなもんです。」
1日半東の村の協力者を訪ねて回った。作業服に長靴で椎茸の原木を集めに来た風で。こういう時軽トラは良い。立候補表明の日は決まっているらしい。僕はその日以降はトマト農家さんとの直接の接触を避けて裏選対を仕切る凶器準備集合の前がある林業農家さんと会って情報収集をする事にした。
その人は昭和40年代中頃東京の大学に行って学生運動に嵌まってしまった人なのだ。現在は
『あれは夢だった。それも悪い夢だった』
と言って左翼思想は捨てている。当時は通っていた大学を牛耳っていた新左翼の党派に属していたらしいのだが、同派の学内での行いが目に余り嫌気がさして離脱し学校も辞めたらしい。僕が知り合ってからは且て社会主義者だった様には見えずむしろ右寄りの事を言う事が多い。
トマト農家さんとは小・中・高と同級生で東京でも時々会って一緒に飲んでいたらしい。トマト農家さん曰く、
「あいつは一流私大の政治経済学部に居ったし成績も悪くなかったから学生運動にさえ嵌まらんかったらこんな山奥で地下足袋履かんでも良かったんやけどな。」
それはあなたも同じでしょう。周りに馴染めさえしていたら今頃立派なエンジニアだ。トマト農家にも馴染んでるけど。
林業農家さんは先祖から受け継いだ広大な山林を村内と隣接する自治体に所有していて広葉樹林の部分には僕も時々入らせて貰っているし鉄砲撃ちの先輩も入山許可を得ている。林業農家さんが学生の頃は今よりずっと材木が高く売れ楽しく東京での学生生活を送ったらしい。只その境遇に甘えたのが躓きだったと本人は総括している。
大量の乾燥椎茸とワイン&銘酒を物々交換して家に帰った。嫁さんが帰るまでに掃除をして朝早く干した洗濯物を取り込んで夕食の準備もしている内に嫁さんが帰って来た。
食事と後片付けをした後自分のパソコンで選挙情報を書いた。
立候補予定者の経歴等
主な支援者
その中の裏選対を受け持つ元新左翼暴力学生の近況等
現在の情勢他。
翌日出勤して係長を取調室に招き入れ情報を読んで貰った。
「部長、これいつの間に?」
「調べの合間に拾ったことを昨日・一昨日で。」
「休んだんじゃなかったんか?」
「ははは。」
「奥さん怒ってないか?」
「大丈夫ですよ。それとこの報告は知能・暴力係長の決済印で回してええですか?」
「おお。それが筋よの。」
「はい。選挙情報じゃからそうさして下さい。」
「分った。」
課に帰り知能・暴力係長に書面を見せ、
「この内容で良ければ署長決裁に持ち回りして貰えませんか。」
「え、儂に。」
「選挙情報なんでそれが筋やと思います。」
「分った。でも説明と補足は土居部長じゃ無いと判らんとこがあると思うけん一緒に来てくれるか。」
「はい。」
課長呆れている。
「休んだんじゃなかったんか。」
「休んで山の中うろついてリフレッシュしました。」
「今度こそ本当に休め。」
「はい。」
署長書面と補足に納得し直ぐに情報を本部に送った。
「この間送った警備発と全く違う内容じゃけどな。向こうが迷うかもしれんな。」
「ええんじゃないですか。」
「うん。でも本部長が両方読んだら土居部長の名前がある方信じるのは間違い無いけどな。」
暫くして村役場のすぐ近くに在るトマト農家さんの支援者が所有する倉庫でトマト農家さんの事務所開きがあり、村内の支援者が一斉に立候補予定を口コミで広めていった。表明をその日にしたのは、その日が任期満了の日から逆算して一番遠い投票日の3ヶ月前の日だそうだ。お爺さんが負けた選挙は、投票日の半年位前から現村長派が知り合いを大勢転入させてこの村に関係ない人間の票でやられたので、今回はそれをさせないために居住日数不足で転入して来ても投票できない日を選んだらしい。此処は小さな村だから百人も招き入れればひっくり返せる。
そこらの事も事務所開きの様子と共に第2弾の報告書にして本部に送った。警備課は自分達の情報に拘っていたみたいだが立候補予定を表明されてしまってはどうにもならない。更には自署管内に凶器準備集合の前歴を持つ元学生運動家が居住することを把握していなかったことも露見してしまった。実は他にも警備課が未把握の活動歴がある人物を知っているのだが今回選挙に関わりが無いのでそれはまたどこかで。
村内の水面下では選挙戦が繰り広げられている。裏選対に依れば拮抗しているそうだ。署長がどう対処するかを聞いてきたので
『抑止で』
と答えた。前の市長選挙の様に違反をやらせない取締りで。こんな小さな村の選挙に顔を突っ込むと碌なことにならない。
それと選挙の頃は暖かくなっているので夜行チョッキを着せたお巡りさんを選挙期間中バイクで走り回らせる。署長が、
「そんなんで効果があるのか?」
と聞いてきたので、
「多分。」
と答えておいた。この頃嫁さんの夕食等の支度をした後時々バイクで村内を走っている。前の市長選挙の時の話が伝わっているらしく
『安全襷のバイクが見えると皆が身構える』
と裏選対が言っていた。
時々村の選挙を覗いたり本来の仕事をしたりしている内にもう異動の時期が来てしまった。1年経つのは早いものだ。副署長と交通課長と地域課長が代わったが誰が代わりに来ようと僕には特に影響は無い。署長と刑事課長は代わらなかったが、まだ1年だから代わらないのが普通だ。不祥事の影響という訳では無い。
第1四半期の件数は間に合っているから特に焦る事も無い。時々選挙を覗きに行くのと日々の届け出に対処している内に自分達の異動が出た。僕は代わっていないし刑事課で出て行く人は誰も居ない。欠員を埋めるだけなのだが、それらしい主任は来ていない。地域課の捜査経験がある主任が
『儂の出番じゃ』
と息巻いているらしいけど全くその目は無い。署長も課長も僕が嫌っているのを知っている。向こうも僕を嫌っているけど。捜査係としての経験がある巡査長が居たので僕の係長が、
「土居部長こいつ知っとるか?」
「はい。僕とは同日拝命です。この人は大卒で僕の前期生になります。穏やかでしっかりした人ですよ。」
「そうか。課長こいつ入れましょう。土居部長を知能・暴力主任に戻して強行・盗犯係は、係長、主任、巡査長、巡査でいこうと思います。」
主任微妙な顔している。こちらを見たので目を逸らした。係長が、
「知能・暴力主任に戻っても盗犯の件数は当てにしとるけん。」
「善処します。」
巡査が、
「僕が頑張ります!」
巡査以外が、
「はい。はい。」
刑事課は誰も転出していないから送別会も無い。引っ越しの手伝いもしなくて良い。只僕の軽トラは引っ越しのための貸し出し希望が各課から来ている。仕方ないな。引っ越し期間中は僕の手を離れて頑張って貰おう。
課長と、知能・暴力係長と僕が署長室に呼ばれた。僕が知能・暴力主任に戻る意思の確認と、戻ったなら自由に外回りをさせて、時間が長くなったり遅くなったりする時には
『家からの直行・直帰を認めてやれ』
との指示だった。課長も係長も異存は無い。2人共そういう勤務をさせても僕がさぼるとは思っていない。署長が、
「根を詰めずに適当に息抜きしながらやってくれよ。」
「はい分かりました。でも時には直行・直帰もしますが極力定時に出勤します。」
「気を遣わんでええんぞ。」
「いや、そういう勤務を僕がすると
『何で部長だけ』
『自分もやる』
言いかねん奴が約1名居るんで。」
「誰ぞ其れ?」
「ハハハ、居るんです。」
4月1日付でこの署に来た時の席に戻った。机の隅々まで綺麗に掃除をして地鎮祭をしてくれた神主さんにお札を貰い抽斗に入れた。椅子も換えて貰った。会計課長笑いながらあっさり新品を出してくれて皆も笑ってる。新しくきた人が怪訝な顔をしているので、
「此処はケチが付いた席じゃけん。」
と言うと気付いたらしく頷いた。
新しくきた同日拝命の人が僕に、
「刑事課は無理じゃ思うとったんよ。係の席が空いて無いのが判かっとったけん。」
「いや、他に刑事課に欲しい人はおらんかったから。」
「儂な前のとこで下手打って出されたんよ。」
「まあ色々あります。僕もこれまで大分下手打ってますよ。」
「でも今は県下でも光一の主任やん。」
「運が良かったんですよ。」
「何を言うとるん。窃盗も知能も暴力も件数上げて先輩等にも可愛がられて本部長とも親しくて皆が羨ましがっとるよ。」
「うーん。」
「奥さん美人で気立てがええ言うて評判やし。」
「そうなんですか。」
実は僕もその人の噂を聞いてはいた。何でも浮気がバレて奥さんと離婚したらしい。その浮気相手と引き離すために縁も所縁も無いこの署に来させられたらしい。でも穏やかな人だと言ったのは嘘ではない。主任と巡査の間で上手くやって貰おう。
新体制になったといってもうちの課は新顔1人で大して変わり映えはしない。歓迎会の日はお義母さんに家に泊まって貰い久しぶりにゆっくりした。昨年の忘年会の日にもお義母さんに来て貰った。娘の世話ができるので喜んで来てくれる。日頃僕が仕事の合間に家事をしていることを知っているし。
久し振りに二次会にも行った。皆は当たり前の様に背が伸子改め由紀が居る店に行く。
「土居さん久し振り。」
係長が、
「この頃来て無いんか?」
「はい。」
「奥さん一筋やけんのう。」
今日歓迎されている人は女好きと聞いているのだが大丈夫かな。でも今は独身だから本人の良識に任せるよりないか。前の署の刑事課長から話を聞いたうちの課長が僕をこっそり呼んで、
「気を付けとってくれ。」
と言っていた。早速由紀とその連れを相手ににこやかに話をしている。まあ課長も此処に居るから僕の報告は今日は必要無いな。僕はカウンターでママと互いの近況報告。
今の処特に変わった事は無いそうだ。街中の情報収集を頼んでいる。ここには色々な人が来る。東端の村の議員や職員もたまには来るらしい。僕は最近店に来ない代わりに貰い物のワインやウイスキーを届けている。温室で花を育てている農家さんから貰った出荷には適さない花等も。
「奥さん順調?」
「うん。お蔭さんで。」
「うちに来てくれる土居さんの知り合いが
『頼母子に来ても終わったら直ぐ帰る』
言うとった。家事も土居さんがしとるらしいね。」
「え、何で知っとんの?」
「土居さんはお義父さん自慢の婿殿じゃのに。」
「うーん。」
「ええやない。奥さんの御両親土居さんを全面的に信頼しとるらしいから。」
「有難い事です。」
久し振りにゆっくり飲んだ。今度来た人話が上手だ。背が伸子もその連れも話に引き込まれている。こういうとこは諸刃だな。情報収集には役立つが身を誤る可能性にも繋がる。
午後10時頃家に帰った。遅くなったことをお義母さんに詫びると、
「何を言うとるの。日頃娘を大事にしてくれとるのに。たまには息抜きもせんと。時々は外でゆっくりしてね。」
「有難うございます。」
新体制になって第2四半期にも入ったし、選挙の投票日にはまだ間があるし何か一稼ぎしておかないといけないな。




