広域窃盗犯
ゴルフ場の風呂場で脱衣場荒し発生。西日本各地で発生している一連の事案らしい。流しの犯行だから管内に1箇所しかゴルフ場が無いこの署はやり逃げされて終わりか。
結婚後最初の正月が過ぎた。妻の実家に年始の挨拶に行ったり、実家に帰り周囲の家々に挨拶をしたりで正月が終わった。その間には当直もあったし。
松が取れた後の日曜日僕の当直勤務中、管内唯一のゴルフ場から
『浴場の脱衣場でお客さんの財布が無くなった』
との届け出があった。 現場臨場し被害届を取りその時現場に居た人達に聞き込みをしたのだが特に有効な情報は得られなかった。
数日後お義父さんから、
「先日秀明君が盗難で臨場したゴルフ場に一緒に行ってくれまいか。」
と言われた。
「はい。何時ですか?」
「出来たら早い方がええんじゃが。」
「お義父さんの都合の良い時で。」
お義父さんはそのゴルフ場のオープン以来の会員でクラブの役員もしているらしく日頃何かと支配人からの相談を受けているらしい。用件は
『先日風呂の脱衣場で財布を盗られたビジターの客が盗難被害の補償をしろと言っている』
事についてだった。
被害者はどう見ても堅気には見えない奴だった。かと言って僕は暴力犯の経験が此処に来るまで無かったのでそいつの名前を聞いても組員かどうかの判断ができなかった。帰って照会センターで氏名と年齢で総合照会を掛ければ良かったのだが、若しもマル暴だった時その情報を嫌いな奴等に提供する気になら無かったので放っといたのが失敗だったかな。
被害届の申告では、こんなに財布に入るのかと思う位多額な被害金額を申告するし、財布の時価も?????の金額を申し立てるし。おかしいだろうと思いはしたが、目の前に無い品物の評価だから言いなりで被害届を受けるより他無かった。そんなもん弁償しろと言われても
『分かりました』
とは言えんよな。
お義父さんに、
「行くのは行きますが僕の口から
『補償はできん』
とは言えませんよ。」
「うん、それは解っとる。一応支配人の話を聞くだけ聞いてやってや。」
「分りました。」
翌日午前10時前にゴルフ場の駐車場で待ち合せる事にした。
翌日朝礼後僕の係長に、
「日曜日当直中受けた脱衣場ねらいの聞き込みをしてきます。」
と言って席を立った。課長が何か言いたそうにしているが無視。
「分った。行ってくれ。」
僕の係長は細かい事を言わないし聞かない。
お義父さんを待たせる訳にはいかないので自分のバイクで早目にゴルフ場に着いた。うちの刑事課には捜査用車が2台あり1台を強行・盗犯が使いもう1台を知能・暴力が使っている。昨年度までは僕には専用車があるようなものだったのだが、今年は自分でガソリン代払って現場に行っている。今は知能・暴力用は全くと言って良い程動いていない。強行・盗犯で使っても良いのだが、一応許諾を得なければいけなくなるのでそれが嫌で自分達の私物車両で現場に行っている。
捜査費が本部から刑事課に月5~6万円位来るらしく昨年度まではその内署長が1万円副署長が1万円抜いた後の3~4万円が刑事課に来て、それを課長が私物車両を仕事に使うためのガソリン代という名目で課員に配分してくれていた。今年度になってからは課員には1円も捜査費が降りてこない。署長と課長が自分の小遣いにしているんだろうな。まあ、あんな奴から遣った遣ったと言われるのは嫌だからこれで良い。
約束の時刻にお義父さんが現れた。一緒に支配人室に行くと中で何やら大声を出している奴が居る。これは嵌められたかな。お義父さんの方をちらっと見ると、
「いや、まあ、あれよ。丁度相手が来てしもうたらしいな。」
困ったもんだと思いながらドアをノックした。
中には柄の悪い男が2名。1人はこの間の被害者でもう1人はこの街に元から居る暴力団だ。被害者はこの街に在る組の上部団体の奴だったのかな。僕が部屋に入るとこの街の暴力団が
「あ、もう警察呼んどる。」
支配人の前には先日の盗難被害者名義の名刺が1枚。素早くその名刺を摘まみ上げた。
「この名刺あんたのじゃな。」
「それがどうした。」
「堅気にこんなもん突きつけたらそれだけで脅迫じゃ。お前等自分が暴力団じゃいうのを忘れとるんか!」
支配人に電話を借りて中央署の刑事二課に電話をしブル連隊長を呼んで貰った。名刺の名前を電話口で読み上げて、
「こんな名前の奴が代紋と組の名前が入った名刺出して堅気に無理難題言うとるんですけど、知っとるチンピラですか?」
「そうか。そいつ其処に居るか?居ったら電話代われ。」
無言で受話器をそいつに渡した。そいつ受話器にペコペコ頭を下げている。受話器を戻してきた。
「土居よ、そいつな儂の高校の後輩でな、儂のために色々働く奴なんじゃ。今回は穏便に済ましてやってくれ。」
「分かりました。係長がおっしゃることなら。」
「おお、そうしてくれるか。まあ二度とする気が無いなる様に脅すだけは脅してもええけん。」
「分かりました。これから穏便に話をします。」
穏便に話をした。
「あの、さっきの名刺返して貰えませんか。」
「阿呆か。これお前が支配人に渡した名刺じゃろうが。所有権はもう支配人に移っとる。これは儂が支配人から貰うて帰る。ヤクザがこんなもん渡しただけで脅迫の逮捕状は跳び繰り出るんじゃ。その大事な証拠品返せるか!時効が来るまで儂が持っとってお前の一番都合が悪い時に逮捕状請求してやる。」
「ええ、そんな。」
「組の一大事の時に切符取られて逃げ隠れせないかんなったら嬉しかろうが?」
「それはぁー一寸。」
「今日は係長の顔を潰さん様に帰らしてやるけどこれで安心するな。今度此処等で詰まらんことしたら只では済まさんぞ。」
「はい。係長に言われました。
『部長さんはあの石原さんが一番可愛がっとる人じゃ』
いうて聞きました。うちの親父が一番気ぃ遣うとる人に楯突いたりはしません。」
「なら帰ってええ。犯人捕まったら連絡するけんそいつと直で被害弁償の話せい。儂の縄張りじゃ無かったらお前が何をしようと勝手じゃ。」
「はい。この街にはもう来ません。皆にもよう言うときます。」
「この街に居る方にも言うとく。今回儂は一寸腹が立っとる。駅前でちょろちょろしとる奴等みたいな目に遭いたいんじゃったら勝手にせい。そうじゃ無いんなら考えて動け。次は無いぞ!」
2人は慌てて帰って行った。
相手が暴力団で良かった。めんどくさい堅気は相手にできない。警察は暴力団に強い、暴力団は堅気に強い、堅気は警察に強い。支配人は大喜び、お義父さんは一寸自慢げ。今回は顔を立てたが今後要注意だ。でも嫁さんの顔を立てるのが一番だからなぁ…。
支配人が、
「今晩一杯やりましょう。」
「いや自分は公務員やから仕事してそのお礼いうのは困るんで。」
お義父さんが、
「秀明君。一緒に飲みに行って、秀明君の分は儂が払うという事で。婿さんの飲み代を親父が払うのはおかしなことじゃ無いやろう。今日は儂の顔を立ててくれんか。」
【もう十分立てたよ】
でもスマイル・スマイル。
「行く前に嫁さんの許可を得ます。決裁が降りたら行きますが、行くか行かんは後で連絡します。行くとしても支配人さんじゃ無くてお義父さんの奢りという事で。」
「う、うん。儂が娘に連絡して聞いとくけん。お昼休みに署に電話する。」
来たついでだから先日の事を従業員達に聞いた。さっきの事の後だから支配人すごく協力的だ。発生当日は被害届取ったら早よ帰れと言わんばかりだったのに。その場に居ない人達も呼び出して話を聞かせて貰った。そうしたら一寸耳寄りな話が。
『あの日駐車場の目立たないところに九州方面のナンバーの乗用車が止まっていて、日頃見たことが無い車で古いけど外車だった』
という話だった。支配人に確認すると、その日県外からのお客さんは居なかったらしい。一寸良い筋かな。
お昼はゴルフ場のレストランで食べて午後1時を過ぎて署に帰った。署に帰ると課長が早速、
「誰と会うた?ええ話あったか?」
「大した話は無いですね。」
「何や時間の無駄か。」
「一日中椅子温めるだけよりはましでしょう。」
【糞が!】
係長が、
「お昼過ぎにお義父さんから電話があって
『承諾済み』
言うて下さい。言うたら分かりますいう事やった。」
「有難うございます。」
係長は細かい事は聞かなかったが課長は
『承諾済み』
の内容が気になっているのが丸判り。
この頃僕達は仕事の事は課長と知能・暴力の前では話さない。この前僕が聞き込んだネタを課で話したら、僕が行く前に北隣の署が先回りして事件を盗られてしまった。横取りした刑事は日頃知能・暴力主任と仲が良い奴だったので其処かなと思い、数日後架空のネタをでっち上げ実しやかに皆の前で係長に報告した。案の定直ぐに同じ刑事が其処へ行ったらしい。それ以来課内でネタの話はしない様に気を付けている。
午後4時半頃、
「確認する事があるんで出ます。済んだらそのまま帰ります。」
と言って課を出た。後ろで
「儂が分かっとるけんええんです。此処で行先言うたら他所の刑事が先回りするけん。」
と係長が言っているのが聞こえた。
特段の用事は無い。一度帰って着替える時間が欲しかっただけだ。帰り掛け嫁さんの実家に寄ってお義父さんに出頭時刻・場所を聞いてから家に着替えに帰った。着替えていると嫁さん帰って来て、
「お父さんが
『秀明さんを尻に敷いとるんか?』
って聞いてた。」
「そうやね
『完璧に!』
って言うといて。」
笑ってた。
この処あまり飲みに出ていない。頼母子と、係の飲み会を小料理屋の座敷で夫々月1回位。二次会には行っていない。後月に1回位係や頼母子仲間や奥さんの同級生達を家に呼んで、僕が川や山で拾い集めた物を焼いたり煮たりして持ち寄った酒を。
「今日はお義父さんが一緒だから着替えに帰った。」
と言うと、
「調子に乗ってこれを機会に次々誘うかもしれんよ。自分の知り合いに秀明さん紹介したくて堪らんみたいやから。」
「うーん。そこらは上手に捌いて貰える?僕は素っ気無くはしにくいんで。」
指定された場所は何時も行く小料理屋近くの河豚料理屋だった。お義父さん僕の河豚好きを知っているから気を使ってくれたかな。どうせ支配人がゴルフ場の経費で落とすんだろうけど僕はあく迄もお義父さんの奢りという事で。まあ暴力団を蹴り出して
『もう来ません』
と言わしたんだからこの位良いだろう。
以前虎河豚の頭の唐揚げが好きだと僕が言ったせいかな。頭の唐揚げが最初に出てきた。少し行儀が悪いとは思ったが手掴みで骨をしゃぶった。苦めのプレミアムビールと一緒に。一応
『こうして食べるのが一番美味しいんで』
と言い訳をして。堪らん。身だけの唐揚げも出たが、骨にへばり付いた身の方が好みだな。
支配人が、
「ゴルフ覚えてください。うちの従業員で上手な奴にレッスンさせます。覚えて時々見回りがてらラウンドしてください。会員扱いにしますし、割引券・サービス券一杯出します。負担は殆ど無しになるんで。」
「それ拙いですよ。僕は署長や課長に嫌われてるんでそんな事バレたら何を言われるか分からんです。」
「秀明君。儂の付けで回ったらええんじゃ。婿殿のプレー代を親父が払う。何の問題も無い。自分の支払を会員の儂が値切るんも何の問題も無い。」
「ははは、考えときます。」
久し振りの河豚は美味しかった。今度嫁さんと一緒に来てみよう。最近余り飲みにも聞き込みにも出ないから石原部長の捜査費が大分溜まってる。それに結婚式の少し前に頼母子が落ちた。その23万円はそっくり嫁さんに上納してるから河豚1回位は余裕だろう。相談してみよう。その後は石原部長が紹介してくれたバーでブルースでも聞きながら2人でカクテルをというのも良いかな。
参加者全員に1回ずつ当たりが回った頼母子講は、一旦終えてまた新たに開始することになった。参加希望者が殺到して新規の会は講の人数が30人になっている。参加希望者は40人近くになったのだが会場のキャパが無いので30人に絞ったらしい。
『僕が居るからだ』
と皆が言うがそんなことあるのかな。もう一つ別の頼母子を始めて僕が両方に参加するという案があったが、
「そんなに飲みにばっかり出ていたら嫁さんに怒られる。」
と言って勘弁して貰った。皆も、
「新婚さんじゃから仕方無いか。」
と納得してくれた。
河豚の後は暴力団もどきの親分だか兄貴分だかと関係がある店になった。久し振りだ。支配人さんここによく来るみたいだ。店に入ると、
「土居さん久し振り。」
「御無沙汰してます。」
「ちっとも来てくれんから本部にでも行ったんかと思うとったら年末に
『秋に結婚した』
いうて聞いたんよ。盛大な披露宴やったんやてね。市長が仲人で、警察本部長さんが主賓で。結婚の事うちに来てくれよった時にはもう話があったん?」
「いや、あの助平を退治した後です。」
「それでうちに来んなったん?」
「はい。こんな綺麗な人が一杯居る店に出入りして疑いを抱かれたらアウトですから。」
「秀明君前はここに来てたん?」
「はい。頼母子仲間の土建屋さんが連れて来てくれて時々。」
「あの人はあちこち行くから。」
以前キープしたウイスキーがそのまま置いてあった。それならと以前の様にオン・ザ・ロックで。
「時々は寄ってよ。」
「うーん。最近飲みに出んので。」
「今日も儂が誘うても
『娘の許可が出たら』
言うて中々行く言わなんだ。」
「娘さん?」
「僕の嫁さんのお父さんです。」
「ええ。」
「うちのゴルフ場のオープンからの会員さんでな役員もして貰うとるんよ。婿殿は今日うちのクラブに因縁付けて来たヤクザを一発で蹴り出して
『もう来ません』
言わしてくれたんじゃ。」
「うちも以前うちの子を騙しとった奴を成敗して貰うたんよ。頼りになるけん時々覗いてくれたらお金要らんのじゃけどな。」
「うちのゴルフ場も来てくれるんならいつでもキャディー研修扱いでええんやけどな。でも欲が無い。」
「そんな事無いですよ。」
「うん。家の婿さん独身時代に家1件新築して大分余る位貯めとった。」
「ええ、高そうな服着て結構飲みに出とったのに?」
「うちの娘も同級生の結婚式で初めて会うて、見たことが無い位良い色の高そうなスーツ着とるのを見て惚れたらしい。」
「今日の服も初めて見るね。」
「先輩のお下がりです。ママさんが前に勤めてた店でオン・ザ・ロックで高いウイスキーを飲んでた刑事さんの服。」
「え、あの人の。」
「僕が刑事になって最初の上司です。仕事だけじゃなくて、酒の飲み方、服装、趣味、楽しみ方一般全部教えてくれました。自分が着なくなった服を自分のお金で僕に合うように補正してくれたり、それに合わせる小物を買ってくれたり。僕が結婚できたのも他の兄貴分達と示し合わせて出会いを用意してくれたお陰です。その時に合わせて僕の収入ではとても買えないスーツを仕立ててくれて。」
「そうやったん。」
「秀明君、それうちの娘も知っとるん?」
「はい。彼女の同級生も協力してくれました。」
「そうやったんか。」
支配人さんに依ると署長と課長と知能・暴力犯係は時々つるんでゴルフをしに行くらしい。日頃偉そうに
『何かあったら直ぐに言うて来い』
と言っていたので今回課長に助けを求めたら
『それは民事じゃから』
と言って逃げられたらしい。
「あいつ等口ばっかりじゃから。」
「本当です。用心棒してやるけんプレー代負けろ言うんでサービスしてきたのに。次からは一切サービス無しじゃ。」
翌日出勤したら小火の届け出があったので係長と2人で臨場した。普段は鑑識も行くのだが今日は1名が盗難現場に臨場中でもう1名は昨夜当直だったので写真撮影は僕が。丁度良かった。車の中で昨日ゴルフ場で聞き込んだ県外車両の事を報告した。今回のゴルフ場の脱衣場ねらいは翌々日北隣の署管内のゴルフ場でも同一と思われる事案が発生していた。課の中で県外車両の話をしたら北隣に筒抜けだ。うちの署で発生した前日には南隣の署管内のゴルフ場で脱衣場ねらいが発生して、北隣の署で発生した翌日は県庁所在地周辺のゴルフ場で発生している。南から北に流していったのは一目瞭然。
明日でも休暇を取って隣の市のフェリー会社に行き乗船名簿を繰ってみると係長に言った。
「休暇取らんでも仕事で行ったらええが。」
「バカ長が根掘り葉掘り聞きますよ。北隣でも一連と思われる事件が発生しとるから僕がフェリーの乗船名簿繰りに行った言うたら北隣の署のハイエナが走りますよ。」
「おお、それは有るのう。」
「前もって届出するとあれこれ言うけん明日の朝体調不良じゃ言うて電話で休め。そして2日続けて休んだらええ。調子が戻らん言うて。3日でもええぞ。」
「分かりました。明日朝電話します。」
確か頼母子仲間にそのフェリー会社に顔が利く人が居たはずだ。署に帰り着く前に其処に寄り
『明日刑事が1人行くけん頼み聞いてやってくれ』
と電話をして貰い、用件は
『乗船名簿の閲覧』
であることを伝えて貰った。期間は九州方面で最後に発生した日からうちで発生した日まで。対岸の営業所で保管中の分を今日の船で移送してくれるそうだ。
翌日先輩の生まれ故郷である西隣の署管内に行き乗船名簿を繰った。期間が長くないのでそれ程時間は掛からなかった。目撃情報に合う九州方面のナンバーの乗用車は5台しか無かったのでラッキー。運転者の名前も控えた。大して時間は掛からず昼までに終了。帰り道に買い物をして帰宅。
嫁さんは午後5時30分にはいつも帰って来る。5時15分まで仕事で、家から仕事場は歩いて15分。聞く処に依ると5時になったら帰りの支度をするらしい。5時15分終業のチャイムが鳴るとタッチスタートでゴールである家を目指すらしい。流石公務員。でも僕も前の課長の2年間は仕事中に釣りに行ったり、聞き込み中に温泉に入ったり。適当だったから言えないか。
今回の被疑者が割れても今の課長が良い顔をするのは嫌だな。上手くいっても次の異動があるまでは寝かせておこう。まともな課長が来たら動く。今のままの課長だったら他所の署の誰かにネタをくれてやろう。
そんな事を考えていたら奥さん帰って来た。少しゴロゴロした後は家の掃除をし今日の晩御飯の準備もした。朝出る時から隣の港町で魚と野菜を買って鍋をする。準備も僕がする。両親と弟も呼んで。という事になっている。
家族で鍋を囲んだ。乗船名簿を繰って目的を達成した後そこで紹介して貰った水産会社に行き、トロール漁で上がった
『マトウダイ』
を買って来て。中央署に居た頃若竹で食べさせて貰って美味しかったから。群れる魚では無いらしく一度に大量に獲れることが無いので余り馴染みが無いが、中央署管内のイタリアンのお店でムニエルで食べさせて貰ったのも美味しかった。白ワインが進んだ。今日は予め言ってあるので鍋でだが、また買いに行って次はムニエルにしよう。今日は鍋だけでは寂しいので大きな肝と一緒に刺身を作り、骨は焙って身を取り除き昆布と一緒に出汁にした。
市の西部に在る評判の良い豆腐屋さんの豆腐を買い、道路沿いの直販場で白菜、葱、大根、蕪、春菊等を買い家に帰り下拵え。2週間位前に若竹で教えた貰った通りに作ったポン酢も。大根サラダと蕪の酢物を作り終えた頃皆が揃った。お義父さん早速刺身と酢物で燗酒を。
ポン酢が大好評。マトウダイも大受け。最後は義弟のリクエストで雑炊を。言うだろうなと思っていたので、別に雑炊用の少し硬めのご飯を炊いておいた。次回は河豚にして最後に雑炊をと言ったら食べながら喜んでいた。今年の秋には鱧で雑炊をしてやろう。鼈、河豚、鱧、この3種類の雑炊は別格だ。
係長に言われた通り翌日も休んだ。一昨日示し合わせて今日は嫁さんにも休暇届を出して貰った。揃ってずる休みでこの署の管内ではあるが北隣の町に出掛けて投げ釣りで鰈狙い。竿を5本出して車の中で話をしながら様子を窺い、時々竿を上げて餌を替え昼頃には僕が朝握ったお握りと簡単なおかず。車外で湯を沸かし準備していた材料を入れて味噌汁も。食後にはエスプレッソも淹れた。嫁さん僕と一緒になる前はアウトドアで遊ぶ事は無かったみたいだ。僕も焚火大好き石原部長の影響だけど。もっとも僕は育ちが山奥だから子供の頃普通に遊んだらアウトドアだった。潮回りが悪くなる午後2時頃までに鰈が2匹とアイナメが1匹、えそと花オコゼも釣れた。此処で竿を置き、嫁さんの友達に電話を入れて今晩来てもらう事にして2日続けての夕食会だ。僕の敵は外に出るのが嫌いな奴等だからずる休みして外で遊んでいても見つかる心配が無い。
流石に3日目は休むのが嫌になっていた。出勤すると課長が、
「2日も休んでええ身分じゃのう。」
「出勤するだけしても何もせん奴も居るんじゃから、定められた有給休暇取っても文句無いじゃろうが。」
「何じゃその口の利き方は。」
「言い返されるんが嫌ならつまらん事言わなんだらええんじゃ。」
「儂は課長ぞ。警部ぞ。」
「儂が頼んで成って貰うた訳じゃ無いんじゃ。おのれが勝手になったんじゃろうが。」
「儂は階級が上なんじゃからちゃんと敬え。」
「敬うて欲しかったらそれなりにせんかい。」
課長顔を真っ赤にして課から出て行った。係長が、
「署長に言い付けに行ったぞ。」
「ふん。」
課長直ぐに戻って来た。黙って自分の席に座っている。署長からの呼び出しは無い。本部長が来た時呼んでやって
『よいしょ』
してやったのが効いてるのかな。課長の席まで行って追い打ちを掛けた。
「有給休暇は働く者の当然の権利じゃろうが。それも部下が病気で休んどるのに何じゃあのもの言いは。
『謝れ!』
お前が言うたことは部下に対する不適切な発言じゃ。謝らんのじゃったら監察に、言うてえことかどうか判断して貰う。」
「いや儂も一寸言い過ぎた。」
「言い過ぎじゃ思うたら謝らんかい。」
「いやそれは。」
「上等じゃ。監察にも本部長にもどっちが間違うとるか判断して貰う。」
「す、済まんかった。」
「それが謝る態度か。謝罪いうんはちゃんと立ってお辞儀してするもんじゃ。」
課長顔が蒼ざめているが動かない。
「分かった。謝る気が無いんじゃったら出るとこ出る。」
課長のろのろと立ち上がって、
「済まんかった。」
「そうじゃ無いじゃろうが。
『済みませんでした。もうしません。』
じゃろうが!ちゃんとお辞儀もして。」
課長諦めたのか、嫌そうではあったがおじぎをして、
「済みませんでした。」
「分かった。今日の事は水に流す。次から詰まらんことを言うなよ。」
皆唖然としている。僕がこの課に来てから3年近くなるが、声を荒げたのはこれが2回目。前回の時よりも一層激しかったので皆驚いている。前は本当に怒って良い場面だったけど、今回本当の処は
『ずる休み』
で、若干後ろめたいところが有ったから其処を誤魔化すためについつい大声になったかな。まあ良い。この1年近くずっと溜めていたものが一気に出て気分爽快。
その日は何もなかったので1日中席に居た。課長居心地が悪そうだ。仲間のはずの強行・盗犯が一寸引いている様な気がしていたが、係長が小さな声で、
「今晩一寸寄らんか?」
「説教?」
「違う。気分がええけん一杯やろう。」
「儂等も混ぜてや。」
強行・盗犯全員で行くことになった。いつもはこんな面白く無い職場はすぐに出るのだが、終業時間を過ぎても僕達が座っていると課長達が慌てて出て行った。
「逃げたで。」
送致と僕達が大笑い。まだそこらに居るから聞こえたはずだ。
午後5時半を過ぎた頃家に電話して、
「急に飲み会になったんでゴメンね。」
電話の向こうで、
「ふーん。たまにはええんじゃない。ゆっくりして来て。」
「うん。」
係長が電話を取って、
「済まんね。急に皆で話しとく事が出来たんで。済んだらすぐ帰らすけん。」
また僕が電話を取って、
「済んだらまっ直ぐ帰るね。」
「分かった。ゆっくりね。」
「はい。」
「朝と全然勢いが違うやないかい。」
呆れられた。
飲み会を始める前に脱衣場荒しの捜査状況を報告した。
「対象となる県外ナンバーの車両は5台。」
「夫々の運転者の免許氏名を確認取得。」
「課内で照会センターに照会を掛けるとハイエナが走るんで、署外の仲が良い駐在所の警察電話から仕事をする。そのために今日課長を脅した。」
「嘘吐け。」
「あれは行き当たりばったりじゃろうが。」
「本性が出ただけじゃろうが。」
「よう今まで隠しとったの。」
ブーイングの嵐。
黙ってやり過ごしていると、
「まあそんでもすっきりした。何時まで持つかのう。」
「3日持ったらええ方じゃないか。」
「バカは際限がないけんのう。」
軽く飲んで早目に帰った。
翌日川を遡った方角に在る駐在所に行った。朝礼後係長に
「出てきます。」
「おう。大事な事じゃけんゆっくりの。」
「はい。」
課長はちらりとこちらを見たが何も言わなかった。目的の駐在所は僕の高校の先輩が勤務している。川や山で遊ぶのが好きな人で、鮎釣りや茸狩りを一緒にしている。その人は猟銃を所持していて銃猟もするのだが、地元民では無いので猪や鹿の様に人数が必要な猟には行けず専ら鳥撃をしていた。僕の頼母子仲間に猪猟をする人が居たのでその人を紹介した処、昔拳銃射撃で県の選手をしていた事も有るその人は射ち手として優秀で、頼母子仲間のグループは捕獲量が増えたと言っていた。先輩は獲物の肉を時々分けてくれる。
途中派出所に寄ってこれから行く事を連絡した。黙って行くと警邏にかこつけ直ぐに山に入ってしまう先輩が中々帰って来なくなる。途中石原部長が開設準備をしている老人福祉施設が見えた。4月1日が開所だと言っていた。80を過ぎた僕の祖父もそこに入所することになっている。おまけに母がそこで事務員として働くことにも。そこの従業員用の宿舎に母が入居する。
僕の家から実家までは35分位掛る。市街地からその施設までが15分足らず。母の宿舎から実家までは20分余り。休みの日は実家の様子を見に帰れるし通勤だって可能だ。祖父もまだそこまで弱っては無いので時には一緒に帰って畑に立つ位できるだろう。母はその施設を運営する、部長と同級生の専務さんが組んで設立した社会福祉法人に事務員として就職し其処から派遣された形で就労するらしい。その方が待遇を良くし易いみたいだ。お二人には本当に感謝しかない。
駐在所に着くと、
「何かええ話?」
「違います。署から電話すると課長等が聞き耳立てるからここの電話を借りに来ました。」
「ふーん。土居部長とこも色々あるみたいじゃのう。昨日はノックアウト勝ちやったらしいけど。」
「え、もうそんな話が。」
「ついに怒りが爆発したか。」
「たまたまですよ。」
「これまでよう我慢しとったんじゃない。石原さんやったらとうの昔に切れとる。」
駐在所の先輩は石原部長とは同期らしい。同期ではあるが先輩が5歳下なので特に仲が良かった訳では無いが困った時に助けて貰った事が有ると言っていた。
電話を借りて車籍照会をした。5台の内外車は1台だけだった。使用者と乗船者の名前も一致する。その名前で総合照会を掛けた。脱衣場ねらいの前がある。要手口照会だな。でも同じ課の中に平気で他所に情報を流す奴が居たんではやりにくくて仕様が無い。
刑事になって最初の初捜班長が今本部捜査第一課の盗犯補佐をしているのを思い出した。此処は正直に手の内を晒して助けを乞う事にした。電話をして
『今刑事課に情報を他署に漏らす奴が居て刑事課では話せないので離れた駐在所から連絡をしている』
と前置きした後、容疑者の氏名等を伝え手口原紙を取って内密に自分に送って貰えまいかと頼んだ。その男は一連のゴルフ場脱衣場ねらいの容疑者である事と、疑いを抱いた理由等も包み隠さず話して。
盗犯補佐驚いていた。この県で被害があった署が7署。被害場所が10箇所。まだ僕以外何処の署も糸口さえつかんで無いらしい。僕の話を聞いた後
「分かった。即刻情報仕入れて送る。」
「今の署長や課長に良い顔させるのは嫌なんで、今度の異動で上が代わらんかったら補佐が仕切って検挙してください。」
「お前のとこも大変みたいじゃのう。そんでも課長も署長も代わるぞ。もう直ぐ異動じゃ、内示前から準備して内示があったとたんに動け。お前が異動したらその署に持って行け。」
「え、僕代わるんですか?」
「強行も盗犯も知能も暴力もお前を欲しがっとる。あの土居をのぉ。」
「僕代わりたく無いんですが。」
「うん。多分石やんが何とかしてくれる。この前こっちに戻っとって本部長と飲む席に儂も呼んで貰うた。その時お前の事も話題に出て
『異動さすな』
言うとった。」
「驚かさんとってくださいよ。」
「多分署長や課長を代えろと言うとると思うぞ。」
「それやったらええんですけど。」
「あと数日じゃ。」
「分かりました。凌ぎます。」
数日後第一次異動があり、署長も課長も代わっていた。署長は本部の監察官。一応所属長扱いだが同じ課の中に首席監察官、監察官室長と2人も上司がいる。署長経験者が就くポストでは無いな。課長はもっと南に異動した。昔石原部長達が居た南の県境の小さな署で外勤・交通課長。これまで警部補が座っていた椅子だ。刑事部門から追放か。自業自得だ。今度来る署長は僕が初任科の頃の教官で、最初は僕に厳しかったが最後はちゃんと解ってくれた人だった。刑事課長も以前中央署でマル暴係長をしていた人でブル連隊長のお友達だ。知能・暴力主任ビビってる。この署長と課長なら僕達も事件に取り掛かれる。
異動が決まった後課長はガックリきていた。単身から単身。これまでの倍以上自宅から離れた。刑事から係替え。交通の事なんか何も分からんだろう。そこへもって、
「要らんのが代わったけん温めとった事件に掛かろうぜ。折角儂等がやった事件を自分の手柄の様にいう奴が居らんなるけんな。」
「足手纏いが居らんなったらやり易うなるのう。」
「足手纏いじゃのうて、邪魔者やったんじゃが。」
皆情け容赦無い。
課長が引っ越しの手配と手伝いを送致に言いつけようとした。
「それは私用です。自分でやってください。」
「いや前の署では課員が手伝うてくれた。」
「他所は他所。此処は此処。自分はしませんよ。仲良しの知能・暴力に言うてみたらどうです。」
課長がこちらを見たので。
「何で儂等がおのれの引っ越しの手伝いせないけんのじゃ!」
「邪魔者が居らんなるんでゴルフ場の盗難事件全力で当たります。送別会する暇は無いんで強行・盗犯はパスでお願いします。」
「よっし、明日からは窃盗事件捜査に全力投入じゃ。という事で今晩は決起集会を開催する。土居部長、奥さんには儂から許可を得るけんの。」
「はあ。」
係長市役所に電話してる。交渉成立みたいだ。露骨に
『課長が居らんなるお祝いじゃけん』
なんて言っている。電話の向こうで嫁さんの笑い声が聞こえた。電話を替わると、
「おめでとう。ゆっくりして来てね。」
「う、うん。有難う。それじゃあ。」
届いた手口原紙を見ると、県外ナンバー車両でフェリーに乗船した奴は4年位前にゴルフ場の浴場で脱衣籠から財布を盗んだ窃盗罪で近畿地区の県警に逮捕され有罪判決を受けたが執行猶予で出ている。余罪があったみたいだが本件以外は否認したらしい。一寸難儀な奴だな。それが初犯で前科はそれしか無い。うたいはしなかったが、その時は中部と近畿のゴルフ場を荒らしていたみたいだ。今回の発生状況を見ると九州・四国・中国がやられている。四国は今回初めてだが九州と中国筋は以前にも。只容疑者の居住地が所在する県での発生は無い。
送られてきた手口資料に前回検挙時の被疑者写真もあった。それを持ってゴルフ場に行き関係者に見て貰った。記憶に無い人が殆どだったが、1人だけ顔を覚えている人が居た。
クラブハウス周辺を掃除をしている人で、被害当日被害があった頃の時間帯にクラブハウスから手ぶらで出て来てクラブハウスから離れた駐車場に歩いて行ったのがこの男だったと証言してくれた。道具も持たず駐車場に行ったので、車を回してから道具を積むのかと思っていたら戻って来なかったそうだ。歩き去った方向は別の従業員が県外ナンバーの外車が停まっていたと証言してくれた駐車場方面だ。
署に帰って被害者に電話した。不在だったので急いで電話をする様に伝えたら、間を置かず電話があったので、
「面割りに協力せい。この前お前と一緒にゴルフ行った奴等全部集めい。こっちに来いとまでとは言わん。明日の午後1時頃そっちに行くけん雁首揃えて待っとけ。協力できんのなら考えがある。」
「は、はい分かりました。」
「集める目途が立ったらまた電話せい。今日の午後5時までじゃ。集める場所は事務所でもええけどそれが嫌なら何処か考えい。」
「わ、分かりました。」
夕方電話があった。組事務所近くの喫茶店で会うことになった。そこは暴力団御用達の店で、その組だけでは無く色々な組のヤクザが屯している。ノミや野球をそこから通したりも。
約束通りの時刻に店に行くと雁首揃えて待っていた。容疑者本人の写真と似た様な年恰好の男性7名計8名の写真を目の前に並べ、
「この中にあの日ゴルフ場で見掛けた奴居るか?」
と聞くと被害者が、
「こいつ風呂に居りました。儂が浴室に入る時出て来て当たりそうになった奴です。」
別の一人が、
「自分が服脱いどった時近くで服着とった奴がこいつに似とったような気がします。」
と言って容疑者の写真を選んだ。後の2人は記憶無し。
2人から面割調書を取った。先日ゴルフ場の従業員から使用車両の駐車状況と容疑者目撃状況と面割調書を取っている。フェリー乗船状況の捜報を合わせれば逮捕状を取れるな。
終わった時一応礼を言って名刺を1枚返してやった。そいつ喜んでいた。馬鹿だなあー。自分が被害に遭った日にも名刺を支配人に渡したの忘れてる。2枚共貰ったが、正式に任意提出を受けたのは補償を要求した日の分だけだ。今日返したのは正式な書類を取っていない被害当日の分を返しただけなのに。
独身の頃なら列車で来て、用件が終わったら若竹ででも飲んでから帰るのだが今日はそうもいかない。今日は自分のボロ車で来て飲まずに帰る。帰りがけに若竹に干鮎と乾燥椎茸を一杯持って行ったら白ワインを3本貰った。午後5時半には署に帰り着いた。
係長を調べ室に誘い今日の捜査結果を報告した。今の課長は信用が全くできないので
『逮捕状請求は新課長が赴任した日にする』
『知能・暴力係の前では一切容疑者の事は話さ無い』
といった事を決めた。
部屋に帰ると課長が、
「今日の出張の報告は?」
と言うので、
「報告することはありません。」
「いや、何かあるじゃろう。」
「もう代わる人に言っても始まらんので、新しい課長に報告します。」
「いや、まだ儂が課長じゃけん。」
「課長らしい事してから言え。最後っ屁で他所に情報抜かれたら困るんじゃ。」
「………。」
課長の引っ越しには強行・盗犯、送致、鑑識、誰も手伝いに行かなかった。他の課から見ても異常だったみたいだ。署長の引っ越しも。離任式には一応出た。署の前で見送りをして、僕も一応棒立ちで見送った。署長の車が署から出る寸前、署長が開けた窓から皆に手を振っていると強行・盗犯係長の声で、
「土居部長、茶碗割っとけ!戻って来たら困るけん!」
出棺じゃ無いんだから。それに僕の名前出さなくても。皆笑いを堪えている。
新署長と課長が赴任して来た。赴任の挨拶等を終えて課長が席に戻るのを待ち構えて、令状請求の書類を課長の前に。
「人使いが荒いのう。」
「広域犯なんで他所に先手取られると困るんで。お疲れでしょうけどお願いします。それと知能・暴力には内容見せないし漏らさないようにお願いします。漏れたら北隣のハイエナが走るんで。」
「うん、こいつまだそんなことやっとるんか。癖が悪いんは治らんのう。」
言いながら書類を読んでくれた。
「これ一寸前に分かっとった事か?」
「はい。前の署長、課長は知能・暴力と仲良く飲んだりゴルフする仲やったんで。」
「此処のまともな捜査員が困っとるいう話は聞いとった。聞きしに勝る状態やったんじゃのう。」
課長最後まで読んで、
「分かった、署長のとこに今から行ってくる。簡裁間に合うの。」
「はい大丈夫です。署長次第ですけど。」
「分かった。」
課長着替えの途中で署長室に行ってくれた。
署長も身辺整理中断して読んでくれたらしい。読み終わると納得してすぐに決裁印をくれたそうだ。
「署長がな
『これ前の署長の決済でも良かったんじゃないか』
言うたけん、
『新署長の署名押印が良かったらしいですよ』
言うたら喜んどった。」
「そしたら直ぐに送致と一緒に令状請求行きます。時間過ぎて40キロ離れた支部まで行くの嫌なんで。」
「おお頼む。」
令状はあっさり出た。裁判官の質問に備えて僕も行ったのだが、質問は何も無かった。
翌日から九州方面に出張。メンバーは僕と係長と鑑識と去年の春からずっと刑事課を手伝いに来ている捜査係希望の派出署員。容疑者が使ったフェリーで九州に渡る。




