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風のロッカ 星の旅  作者: 大石次郎


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22/25

ロングフットの復活 1

その夜の事はよく覚えています。双子座(ジェミニ)が輝いていましたね。


バルタン達にも隠した真鋼(ミスリル)の小さな浮遊島で私はマナに輝く草地に腰掛けぼんやりと、冷たい満天の星々を見詰めていました。

肉体を以て顕現すると不思議です。止まった時が動き出すよう。

ただのエルフの娘であった日々を、微かに感じます。霞の向こうの影に過ぎませんが。


やがて貴方が獅子鷲(グリフォン)で凍えた夜風を切り裂いて、島の岩の港に入ってくるのが私にはわかります。

何でも手短に済ませたい貴方はグリフォンに乗ったまま地表を飛び、しかし貴方は私を見下ろす避け、少し離れた所に降りて、そこからは私と同じ空を見上げて歩いてきます。


貴方の帯の辺りには、貴方を守る聖櫃霊(アークスピリット)のワリワリアが纏わり付いていました。


石の鳥の顔以外は不定形気味の彼女は私を見詰めます。


「レイミーアズス」


「はい。良い夜ですね」


「ワードラゴン達との交渉は決裂したよ」


「そうですか」


「君の予知を覆せなかった」


「はい」


「・・すなま」


「座って下さい」


貴方は心底困ってしまった顔で、その場に立ち尽くしてから、


「ああ、そうだね。ワリワリア、少し控えてくれ」


「・・君ハ我ガ儘ダ」


ワリワリアは怒ってしまいながら、貴方の右手の甲の刻印の中に戻ってゆきました。ごめんね、優しいワリワリア。


貴方は私の隣に座りました。ロングフット族が使う反魂香(はんごんこう)の香りが染み付いています。


私は姿勢は崩さない貴方の腕に身体を寄せました。私は意識だけの者です。触れる、ことはとても不思議。


「レイミーアズス。この世界は終わってしまうが、俺はジェミニの力を使って、灰土(はいつち)の地を封じようと思う。愚かな俺達の中にも、残るべき者達はいる。許されるなら、俺の魂の半分も、時を越えて、君に逢いにゆきたい」


「次にジェミニが最も輝くのは2000年後です。たった、たった2000年」


涙が零れました。それは結晶に変わってミスリルの島の小さな大地に落ちてゆきます。


「私は貴方を待てません」


「・・すまない」


この夜から、私の神としての最後の務めは始まりました。



ロングフット族、世界に最初に創られたとされる人類。

男性の身長は270ドシコベル(180センチメートル)女性の身長は255ドシコベル(170センチメートル)程度の耳が長くない、少し骨太なエルフのような風貌の種族。

寿命は僕らフェザーフットと同じ60年程度の短命種で、僕らと同じく特に特別な力は持っていませんでした。

しかし彼らや彼女達では魔法に満ち、海の邪神や魔族、竜族に脅かされ続けるこの世界を管理できず、やがて神はロングフット以外の6大種族を創造しました。


一方で僕らフェザーフットはピクシー族等と同じく自然に発生した種族のようです。

賢い猿が永い年月の中で進化した、という話もありますがちょっと信じられないですね。


ロングフットに話を戻します。

ロングフット族は最初、6大種族を恐れて迫害したそうです。ですがやがて圧倒され、迫害の恨みもあって奴隷階級の身分にされたそうです。


その支配は数万年に及び、神の介入で解放された後も禍根は深く、ロングフット族は冥府の主と契約して死霊魔術の奥義を会得するに至りました。


死霊魔術の力は強大で、6大種族はこれを恐れ、特に上位種族の盟主の座を脅かされたワードラゴンは看過せず、とうとう最後の争いを引き起こしてしまったようです。


2000年の歳月で拭い切れない魔術で歪められた死の穢れの中にいるというこの種族が、僕ら星の神の使徒が最後に復活させる種族でした。



・・丸儲け号は光のマナで仄かに輝く空域を飛んでいます。


艦橋にいる僕のジェミニクレストが呼応して光っていました。


「この不可侵の空域に、堂々入れる日が来るとはなぁ」


「2000年越しにバルタン達を出し抜けたな! ガハハッ」


ドワーフの船員達は小瓶の酒等を飲みつつ得意気です。

他の同行者はバルタン族の復活でお世話になったイルフルル地方の野伏の頭目ヨーニさんでした。

元手品師のヨーニさんはオリィとマイサに艦橋の端に固定されたテーブルで手品を披露しています。


外は神秘的な景色ですが、かれこれ小一時間ここを飛び続けてますからね。空間が歪んでいて地図上の距離と辻褄は合っていないようでもあります。


やがて一際強い光の一陣を越えると、星の神の社が見えてきました。


岩盤が金属質の島の下部が放射状に変質した、小さな浮遊島でした。


「絵本の中の流星みたい」


マイサがポツリと呟くのでした。



光属性の結晶だらけの下部発着場から、強力な結界で覆われた地表部分へと上がってきました。


「これは・・」


地表は結晶の石柱に加え、結晶化した植物で覆われていました。


「伝承よりも全域の結晶化が進んでるね~」


「漂着した気球冒険家の手記って300年は昔だろ? そりゃ、な」


進んでゆくと、結晶化しているのは植物だけではなく島の虫や鳥獣、水場の魚や蟹等と半ば結晶化していました。


「結晶の粒子が風に散ってる。マフラーとゴーグル、耳当てはしっかりしよう」


バルタン神殿の時の装備で固めた僕らは慎重に進んでゆきます。


島は大して広くはないので、丘の中央にある社は既に見えてはいました。


呪われたロングフット族を復活させるのは容易ではありません。僕らはこの世界で最も神に近い場所で改めて神に助力を乞うことにしたのです。


社の目の前まで来ると、小ぢんまりとした社は驚く程簡素で、星の神への信仰でも古い宗派の建築形式に近くしかし過剰な抽象化もしておらず、

鋭角さの無い単純な直線と曲線の造形に、この世の様々な動植物や事象をやや拙いくらいの素朴な線で描写した装飾が施されていました。

全ては結晶に覆われつつありましたが、社自体は永く忘れられたような佇まいのまま健在でした。


「ちょっと可愛い社だね~」


「ノームどもの信仰がいかに虚飾的か、バルタンどもがいかにやり過ぎか、よくわかるわい」


「我らの信心の不足もな」


ヨーニさんとドワーフの皆さんはそれぞれ思う所があるようでしたが、僕ら3人は頷き合い、ジェミニクレストで社の結晶で覆われた扉を開きました。


中は浄めの火が燈台に灯り、結晶の混じった風は入ってこれないようでした。僕らは風避け眼鏡と大気のマフラーを外し、進みます。

内部の構造、装飾は外部と同質でしたが結晶による侵食や経年による劣化の跡は見られず、絵画による装飾は冬から春への季節の移ろいを中心に描かれていました。


この社は恐らく、世界が一度滅びた時期に造られています。


レイミーアズス神と同調することの多いマイサだけでなく、信心の薄いドワーフ達が涙ぐんでしまうのも当然なんでしょう。


社の奥には2つの神気(しんき)に満ちた物が静かにありました。


1つは誰も座っていない石の玉座、もう1つは玉座の下方の鉢に生えた一抱え程の明滅する結晶の花の蕾です。


蕾の中には赤子らしき影も見えました。


「・・よく来ました、私の使徒とその同行者達」


玉座にエルフ族に似た縁取りの輝く人の形の光が降りてきました。


僕らは膝を着きました。


「マイサ、貴女と話すのは初めてですね」


「はい、ずっと祈って下さっていたんですね」


「私は、もはや祈るだけの者。世界の再生は成り、もう直に最後の種族が甦ります。私は役割を終え、世界の秩序の循環の中に還ります」


「っ! え? 居なくなられてしまうのですか?」


「次の神の座はその子に託します」


レイミーアズス神は蕾の赤子を示した。


「マジかよっ」


「神様って代替わりする物なのね~・・」


「私の最後の力で、魔族と海の邪神達の封印は向こう1000年は強固の物としました。竜王達とはこの2000年の話し合いで、休戦を結んでいます」


これにはドワーフ達がどよめきました。代替わり以前に自分達が弱体化した後の世界に懸念が強かったのでしょう。


「七大種族から奪った力は次の神に託します。この子は苦しむでしょうが・・一筋に寄り合う善の知恵が、未来の災いを必ずや退けると、私は予見しています」


愛おしそうに、哀しそうに、光の姿の神は蕾の赤子を見詰めていましたが、暫くすると僕に向き直りました。


光の奥にあるはずの瞳は不思議と懐かしい感覚がありました。


「小さなロッカ・・今のままのジェミニクレストでは、呪われた灰土の地へ立ち入ることはできません。年月の中で、世界の4ヶ所の聖域に地水火風のグランジェムを発生させました。貴方はこれより聖域を巡り、ジェミニクレストにグランジェムの力を取り込むとよいでしょう」


なるほど、準備は整えられていたというワケか。


「心得ました、レイミーアズス神様」


「これまで通りジェミニクレストが道は示してくれるでしょう。ですが、旅立つ前に、(みな)でその子の蕾に触れてあげて下さい」


「え? あ、はい」


僕らは神様に従い、おずおずと近付いて結晶の蕾に触れてみました。

それは硬いような柔らかいような、明滅に合わせてわずかに胎動の震動もあって、柱の木に近い香りもして、


その透けた結晶の中の少しむずがるようや赤子を見る内、僕は何だか涙か止まらなくなってしまいました。

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