バルタンの復活 中
浮遊島は『空の石』と呼ばれる浮力を持つ鉱石を多く含有して浮いています。
その下部の岩盤や土が剥き出しになっている部分は魔物を避け、浮力を安定させる逆さまの祠のような物が要所要所に埋め込まれていて、その大半はバルタンの遺物を再利用した物でした。
下部の1角にある大きな横穴状の発着場に無事、着陸した僕らはマナ灯の明かりの点いた中に降りて、感心しました。
「船渠と要塞の中間みたいですね」
「ま、全ての浮遊島はバルタンの要塞だったらしいからね~」
僕らは地中の発着場から観光用じゃない方の、装飾の無い中々普通の街では見ないマナ式の作業員用昇降機で浮遊島の地上に移動しました。
「内蔵がドゥンってなった!」
「マイサ、語彙がよ」
地上階まで上がって、建屋から出ました。そこは、
「お、お~・・田舎、か?」
「いやっ、別荘地ではあるよ」
「わざわざ空の上に造らなくてもねぇ」
芝と生け垣と並木の目立つ別荘地でした。館と館が離れているのと、農地まで広々とあるから地上の荘園にでも急に来てしまったようです。
違っているのはあちこちで使われている驢馬が高価な銀毛種だったり、ヒポグリフに乗った衛兵が飛行していたり、そう遠く無い地平線の先が急激に青空になっていることくらいです。
「イルフルル地方に限らず開発された浮遊島のある地域では、空に浮いた島に別荘を建てるのが最高に名誉なのさ~、『上』から見れるからね!」
「いけ好かねえ」
「感じ悪い賞!」
「・・地表部分は大気の結界で覆われてるんですね」
気温、空気の濃さ、雲に直に入ってしまう、日差し等もありますがやはり風に流される気球と違い、地上の特定の座標上からあまり動いていないようだから、何も無いと風の害が凄まじいでしょう。
「無いと大変なことになるよ~? これもバルタンの遺産の再利用だけどね。それよりも! 島の宿営地に行こうっ、暇な金持ちとか観光客に絡まれたら面倒臭いからさ~」
僕らは建屋の近くの馬借で待っていた御者役の野伏が用意していた銀毛の騾馬の馬車に乗り、ここも固定らしいイルフルル地方の野伏の宿営地に向かいました。
どうも普通の騾馬等は景観に合わないから仕様禁止のようですね・・
島の外れに宿営地はありましたが、何だか宿営地というより駐屯地といった赴きの無骨な造りでした。
「ここはここでちょっと変わってるかも?」
「イルフルル地方の野伏は未開時代の浮遊島の探索者が元になってるんだ。共同体としては今でもその気風が残っててさ~」
「こっちの方が俺は合ってるな」
「訓練にはやはり明日一杯掛かる物でしょうか?」
「ヒポグリフは騾馬みたいにはいかないよ~?」
宿営地に入った僕らは軽くバルタン神殿までの段取り等の協議を済ませ、まず浮遊島内の大気の結界内でヒポグリフの訓練を始めました。
ヒポグリフは騾馬並に大きな鷲の上半身と騾馬の下半身を持つ幻獣です。完全に家畜化された魔物ですが、
「おおおおっ??」
「どうどうっっ」
「あ、私、得意かも?」
僕とオリィは少々手こずりました。
それでも昼にはどうにか乗りこなせるようになりました。
「わーっ? 豆ばっかり賞!」
宿営地の昼御飯は豆と香菜のスープ、豆と挽き肉のオムレツ、豆粉パン、豆と魚の燻製の酸っぱいペースト、豆とドライフルーツのサラダ、煎り豆茶ベースの苦くて香りの強いルートビアでした。
「イルフルルの野伏足る者、豆を食うべし! てね~」
独特な食事のあとは、近くの野伏用の小さな発着場からヒポグリフで出て、魔物はほぼ寄らない島の下部をヨーニさんの指導のの元、飛び周り、
ブーメランの使用は「ちょい無理があるね~」と禁止されてしまいましたが、模擬戦の訓練も日が暮れるまで行いました。
風呂と夕食のあとでまず行く予定の飛行船が隠してある浮遊島のドワーフの方達と、水晶通信で少し話す機会がありました。
風と島の結界のせいで映像は繋ぎ難いので音声だけです。
「おーい! 使徒のガキんちょ達は要るのか?!」
「あ、はい。ロッカ・グラ」
「飛行船はバッチリだぁ!」
「とっとと来いっ」
「うおぉっ!!」
どうも通信器の向こうに大勢ドワーフの方達がいるようです。
「思ったより早く船が仕上がったよな?」
「機械蟲どもが維持していたいい船を発掘した! 中将殿が口添えしてくれなかったら救助艇擬きを回されるところだったんだからなっ?」
「中将殿?」
「誰だっけぇ?」
「フガク中将に決まってるだろうがぁっ?!」
「えー?」
フガクさん、中将だったんだっ。
それから僕らは直接ドワーフの方々と打ち合わせを済ませました。いや~、びっくりした。そう言えばそうですよね、普通の人は僕らに同行しないかぁ。
翌日、僕ら浮遊島から離れ、一番近い、狩猟採集業者や野伏の稼ぎ場になってる下部の落盤防止と最低限度の発着場と、大気の結界のみ簡単に維持されてる未開発の小型の浮遊島に、
ヨーニさんとお付きの野伏の方数名と行っって、ヒポグリフに乗った実戦訓練、降りた状態での訓練、結界の外の完全な空中戦の実戦の訓練を半日ギッチリ行いました。
訓練を経たさらに日が変わった明け方、僕らとヨーニさんとお付きの方々数名は全員ヒポグリフに乗って、小さな野伏の発着場から改めて出発しました。
長距離飛行になります。今回は最初から風避け眼鏡と大気のマフラーを装備しています。
飛行中は緊急時は念話魔法を使いますが、気を取られてしまうので、基本的には手信号です。これは地上で野伏が使う物とそう変わらないですね。
「!」
ヨーニさんが『直視・避ける』と手信号をしながら促した方には、素晴らしい夜明けの太陽が遥か下方の浮遊島ではない本物の地平線の先にありました。
そこから何時間も、途中にある野営地が維持されたかなり小さな浮遊島まで昼まで飛び続け、僕らよりヒポグリフの回復を確認すると、即出発。
2時間は飛び、もう完全に下方はティブラの町のあった丘陵地帯とは景色の違う森深い所に来る頃、僕ら3人が気付く前に『注意・飛竜・1つ』とヨーニさんが手信号で報せてきました!
示した方位には爪蛇竜です! ワイアームの上位種。後ろ脚を獲得した爪先から頭部まで9ベル(6メートル)はあり、鋭い尾も長大ですっ。
ヒポグリフが胸部に付けた魔除け何て物ともせずに滑空してきますっ!
僕ら3人も構えます。僕はブーメランが使えないから間に合わせの威嚇用のライトクロスボウを持ってます。
初動はヨーニさん達が出ました。お付きの方々は閃光魔法で牽制っ。
怯んだところにヨーニさんが鏑矢を風で軌道を修正して左の耳元に擦めさせて、驚かせ、退散させました。
ヨーニさんはすぐに『遅延・不可・怒る・追跡』と手信号を送ってきました。モタモタできません!
固定具は有りますが落馬は勿論、ヒポグリフが負傷したら即、脱落っ。ワイバーンが嫌がり見失う確率も上げる為に臭い球も僕がエアブレイドの魔法で炸裂させ、大急ぎでその場から離れました。
夕方、あの後もいくらか魔物と小競り合いがあり、疲弊したヒポグリフにマイサにヒールの魔法を掛けながら、ようやく目的の浮遊島に着きました。
飛行速度と時間だけ考えるとイルフルル地方を抜けてしまいそうですが、気流や空の魔物の縄張りを考慮したのと、この島は極端に高度が高い為、僕らは決して直線平行には進めていませんでした。
「・・樹海になってんな。植物のマナ、妙に強くねーか?」
ドワーフ達の隠し港があるはずの浮遊島は深い森に覆われていました。この感じは、
「柱の樹の森に近いね」
少し僕ら3人は見入ってしまいましたが、『遅延・叱責・豆・投擲』とヨーニさんに手信号で急かされて、かなり古風な造りの発着場にヒポグリフ達を向かわせました。
というか豆、投擲? 叱責、というイルフルルの隠語でしょうね。
島の下部に近付くと、これまたかなり古い造りの逆さまの祠が各所に埋め込まれていました。
マナが強いせいか? 管理が甘いせいか? 植物の根や蔓が島の下部の岩盤や土塊まで這ってきていましたね。
狭い発着場に着地するとそこは、植物に侵食された遺跡その物の構造に機械的に手を加えた物でした。簡易ですが設置されていたマナ灯も僕らに反応して独りでに点きます。
「ドワーフ達! こんな短期間で改造しまくっちゃってっ」
呆れるヨーニさん達。
「ヒポグリフ達はちょっと暫くダメそうだな」
降りたオリィが自分のヒポグリフに回復薬を飲ませてやっていましたが、グッタリしてます。
僕とマイサも習って飲ませてみます。
「私も飛んでるのにヒポちゃん達にヒール連発してバテバテだよ・・」
マイサもゲッソリしていました。と、奇妙な気配を感じました。この感じ、知ってます。
「機械蟲?」
灯りの点いていない、発着場の奥から足先から車輪を出せる型の平たい機械蟲が7体近付いてきました! 胴体の幅は180ドシコベル(120センチメートル)はあって、身体の上部の平たい部分に開閉戸の有る手摺が楕円形に取り付けられています。
「ヨウコソ『どわーふ最高いるふるる飛行基地』ヘ! 乗ッテ下サイどっくマデ運ビマス」
機械蟲が話し掛けてきました!
「いつの間にか基地化を企んでるみたいだけど・・取り敢えず行こっか~」
僕らはヒポグリフ達の世話をする為に御付きの野伏の方を1人発着場に残し、機械蟲の上に乗り込み、昇降機ではなく折り返しになっている坂道を使って騾馬で全速で駆けるくらいの速度で島の地上へ出ました。
「近くで見ると凄いね」
地上は外から見た通りに主に寒帯を思わせる樹海に覆われていましたが、長い年月の果てにエルフ神殿や柱の樹の近くの密林のように属性鉱石の露出や僅かな発光現象が起きていました。
「2000年ノ間ニえるふノ眷属ガばるたんノてりとりーヲ侵食シテイタヨウデス」
「これまでとこの流れだと、絶対来てるよな? エルフ」
「間違いない賞・・」
僕らは予感しつつ、木々の間を縫ってドワーフの隠し港へと機械蟲達に運ばれてゆきます。
熱帯とは違う硬質な寒帯の森の巨木が上から監視しているようにも僕は感じていました。




