エルフの復活 後
ユシャが身に付けている魔除けだけじゃなく、ケルピー達全員にもチョーカー型の魔除けを装備させることにしました。
消耗品のようですが、片道、隙間狙いの弱い魔物を退けることくらいはできるそうです。
「エルフ神殿は中心部以外はこの環境のせいでもう崩れてしまって広さはないが、植物の侵食で内部が迷路化している。焦らず見取り図を参考に進むといいよ」
「はい。行ってきます」
「うん、ユシャも気を付けて」
「はーい」
僕らはユシャのお父さん達に見送られ、魔除けを装備したケルピーに乗って川の源流へと出発しました。
「私は種族的に身体が重く、ケルピーの機嫌も悪い。正直、カナヅチでもある。川での移動中は戦力としては期待しないでくれ」
困惑しきりなフガクさんです。
「わかりました」
「鬣を強く掴み過ぎると嫌がるから気を付けてね!」
ノームの人達がここでも乗り物に変形するゴーレムも持ち込もうとしていたそうですが、追い払っちゃった物はしょうがないですね。
源流へと進み続けると岸辺の人工物は魔除けの柱以外は見掛けなくなり、その柱も形式が古風なエルフ製の物を補修した再利用品に替わりました。
初日は弱い魔物は近寄らず、隙間に入り込んだ強い魔物達もこちらの様子を水の中から伺うくらいで、僕らは日が暮れ前に、予定していた岸の向こうの高台の野営地まで一度も交戦せずにたどり着けました。
この高台の岩場はおそらく魔法で成形された物ですね。補修済みですが、かなり古そうです。
「ケルピーでの移動は生きた心地がしない・・」
頑強そうなフガクさんがゲッソりしていました。
「飯だぜ、飯!」
「早めに到着賞~」
休息を取った僕らは翌日、エルフ神殿へのルートから少し外れて、ヤポン地方にもあった柱の樹の跡を見にゆくことになりました。
概ね移動の動線だったのと、オーシャンピープルを復活させた時、遠かったのと、海魔に襲われる危険があったので同じ海域の海王の祠までは見にゆけなかったのが少し心残りだったのもあります。
「さすがにシブとい・・いや、大地の化身であるから当然か」
密林の中にあった遺跡の石材を辿るようにして進んだ先にあったのは途方もなく大きなややいびつな円柱状の高台と、その上の輝くマナに溢れた霊木の林でした。
この奇妙な高台の周囲には何本もの巨大な神力を宿す柱が打ち立てられていました。守り封じているようです。
「・・え? この高台自体が柱の樹の跡ですか?」
「そうだよ! ワードラゴンが喚び出した竜王に消し飛ばされたんだってっ。凄~」
「上で光っている林は全て柱の樹の苗だ。神によって封じられてなお、この繁茂っ。あと300年もすれば自力で封印を破ってこの地方一帯に根を張り直して手が付けられなくなるだろう」
「マジで?!」
「というか、その竜怖過ぎっ」
「エルフなら管理できるんですか?」
「それがヤツらの本来の役目だ」
険しい表情で答えるフガクさんでした。
僕らは遡上を再開し、いよいよ川で襲ってくるようになって手強い魔物を退けつつ、源流を目指し、中途の野営地でもう1泊して、ようやくエルフ神殿のある源流にたどり着きました。
そこは浅い湖の上の樹海。マナが非常に強く、ここには神力の柱も無いせいか発光現象や結晶化現象もあちこちに見られ、植物精霊や小妖精の姿も多く見掛けます。
エルフ神殿は聞いた通り小じんまりとしていましたが、完全に樹木に覆われていました。周囲の湖の底に崩れた残骸が沈んでいるのでしょう。
「というか、アレ何??」
「祭壇の間の守護者が外に出ちまってるのか?」
神殿の入り口前に、倒木を重ねて湖の上に巣を造った竜が1体眠っていました。樹木と虫と蜥蜴の中間のような気味の悪い竜です。これは・・
「樹海竜だね」
「そう、何か神殿が壊れたせいで縛りが緩くなったみたいでさ・・まぁ遠回りすれば中に安全に入れるから、案内するよ」
「いや、必要無い」
フガクさんは腕輪型の収納道具から砲筒のような武器を取り出し、赤い彩飾の砲弾を装填しました。
「え、でも遠回り」
「あとで後ろから襲われては敵わん、ここなら火事もガスも問題あるまい」
ユシャや僕らが戸惑う中、フガクさんはジャバウォックを砲撃しました!
ドゴォオオオォンンッッッ!!!!
大爆発っ、大爆炎っ!! 酷い臭いの熱い水蒸気が噴出し、僕らは吹っ飛ばされるやら、ケルピーが興奮するやら、周囲のピクシーやドリアード達が混乱するやら、もうめちゃくちゃになりましたっ。
「フガクさんっ、てば!」
ジャバウォックは巣ごと消し飛びあちこち炎上はしましたが、この環境では確かにすぐに鎮火しそうではあります。
「もう! 一応消火するねっ、ケルピー!!」
森暮らしユシャとしては楽観視できないようで、全員のケルピーに湖の水を操らせて消火に当たらせました。でも、ん?
1体だけ、無人で消火しているケルピーがいる??
「フガクさんのだ! フガクさんっ?」
僕らはフガクさんがいないことに気付いて慌てて探し回ると、フガクさんは近くの水底に沈んで溺れかけていました・・
フガクさんの大火力は神殿内を守護する木人等の魔物を入口付近に引き付け、守護と無関係に神殿に侵入していた野良の魔物達を追い払う効果があったようです。
僕らはユシャの手引きで結局遠回りする形で植物だらけの神殿に入ることで、そこから殆んど交戦せずに祭壇の間に一番近い、ヤポン地方の野伏達が管理している魔除けの安全地帯まで進み、休息することができました。
僕は虫除け効果は甘いらしい安全地帯の中に這い込んできた、大きなムカデに曲がった刀身のクリスナイフを投げ付けて仕止めました。武器の攻撃力が高過ぎて、刺した箇所から真っ二つになってしまいましたが。
「オッサンのお陰で楽できたな。へへっ」
「百発百中賞過ぎて、入口のとこで死ぬかとも思ったけど・・」
「神罰による技術劣化を補う為に、使える技術を組み合わせて造った即席武器であったから加減が難しい。反省はしているが、攻撃自体は間違いなかったと思っている」
ドワーフ的ですね。僕らは顔を見合せました。
「でもエルフ神殿の祭壇の間はヤポンの野伏でも誰も入ったことない。楽しみ!」
「もう守護者はいないから今回は安心だから」
「つっても大体辛気臭い自分勝手なヤツらを起こしに行くだけだけどな」
オリィ、言い方。
例によって時が止まったような祭壇の間で僕はジェミニクレストを掲げ、オーブの中で眠る古風な装束の背の高い耳が長い5人のエルフの最後の王達に復活の光を浴びせました。
砕け散るオーブ。目覚めた王達は見た目は若々しいですが思ったより、よろよろとした様子で床に降り立ちました。
「脆弱なエルフだな、ふんっ」
よろめいただけでフガクさんに強く当たられるエルフの最後の王達っ。
「・・ドワーフ?」
「いや、使徒はフェザーフットだ」
「やはりフェザーフットか・・」
「ドワーフではな・・」
「柱の樹々の夢の間に間に、小人達の繁栄を見ていた。あれはフェザーフット達か」
「エルフの最後の王達よ」
マイサにレイミーアズス神様が降りました。
ノーム程の熱心さはありませんが、オーシャンピープルと同じ程度には礼節を守って、エルフ達は平伏しました。
僕らも続き、フガクさんも少し鼻白んでから平伏します。
「2000年の年月の事はこの深い森で暮らす者達に聞くとよいでしょう。貴方達の罪が忘れ去られた訳でもありません。しかし時の流れが遅い貴方達にも十分な年月でした。贖罪はその意志と行動を持って為しなさい」
「心得ました」
「現代の柱の樹々は? 生きてはいるようですが・・」
「私が仮初めに封じています。貴方達が改めなさい。そして」
マイサに降りたレイミーアズス神様は冷たくエルフ達を見下ろしました。
「貴方達から植物と精霊魔法の奥義の多くを没収します。もはや上位種族ではないと、知り、長い寿命の中、為すべきことを成し遂げるのです・・」
王達を戒め、星の神は去り、気絶したマイサを僕とオリィは受け止めました。
「・・使徒達と森の民よ、ドワーフも、時の流れに従う。だが、今は去ってくれないか、各地の同胞と、柱の樹々の様子を確認したい・・・」
エルフの王達は不意に頑なになってしまいましたが、無関心というより僕らがいて落ち着かないといった様子でした。
完全ではないですが、柱の樹の封印が解かれ、エルフ達がその力を利用して各所のエルフの魔除けの柱を強化してくれたお陰で帰りは安全で、川を下る楽さもあって1泊でマイジカ郷に着けそうでした。
夕暮れの川です。マイサが照明魔法を2つ先行させていました。
「何か、神様が去ったら急に無口になったけど、オーシャンピープルの王達みたいに邪険にしてくる感じでもなかったな」
「『時の流れには従う』とは言ってたし、大丈夫そうな気はしたけど」
「気難しそうだけど、大人しい人達だったね」
「でも、綺麗な服装っ、形! 郷の皆にも教えよっ」
そんな具合で僕らはそう印象悪くなかったのですが、
「甘いぞ?」
フガクさんは渋面でした。
「連中は自己完結的だ。時間感覚も飛んでいる。オリィ、マイサ、ロッカ、ユシャ。連中は無口なのではない。次の言葉が出てくるのが遅いのだ。オーシャンピープルのように常に敵との戦いが差し迫ってるワケでもない。放っておくと、柱の樹の処理に平気で数百年掛けてくる」
そんなに??
「ノームどもの小賢しい立ち回りも、今後必ずあるオーシャンピープルと海辺のフェザーフットとの小競り合いも、言いたくはないがドワーフ族による拙速な文明促進も、連中は知らん顔をしているようで唐突に! 連中の中では正当な段階を踏んだ上で強力に介入してくることになるだろう」
今日見た王達はそこまでは無理を通すようには見えなかったですが・・
「ゆえに、エルフどもとは定期的に関わった方がいい。何も反応は無いようで、親世代が話したことを子供世代に回答してくるようなヤツらだ。我らドワーフとは相性がすこぶる悪いが、フェザーフットならば付き合えるだろう」
そっか、拳闘してまで来たのはそういうことですか。
「わかりました」
「やってみるよ!」
「いやめんどくせぇな・・」
「食事会とかでいいんじゃない? 喋んなくても、料理は美味しいしっ」
僕らはエルフとの付き合い方をあれこれ話しながらケルピーを駆って川を下ってゆきました。
残る種族は3つです。どれも手強そうな種族ばかりで、僕らは内心緊張もしているのでした。




